1,251 / 1,321
第十章 されど幸せな日々
42 牛乳は飲み物か食べ物か 成人
しおりを挟む
「ただいま」
「遅いぞ」
緋色と梅光は、もう食事用の卓の前にいた。
「「ただいま帰りました。遅うなってすみません」」
相変わらず息ぴったりの千寿と寿々丸が、緋色に向かって包拳礼をする。
「遅くないよ? 早かったよ?」
お風呂、あっという間だったもん。
「俺はお前に言ってんだ、成人。ああ、各務の。お前たち、いちいち礼はいらん。覚えとけよ。俺と成人には、もう畏まった席以外での礼はいらんからな」
「「は、はい」」
「んー?」
遅いって、俺? 俺、何もしてないけど?
緋色に手招きされるままに隣に行くと、ひょいと膝の上に乗せられる。ほ、と体を預けそうになって、だめだめ、と背筋を伸ばした。
今からご飯なのに、抱っこしてどうするんだよー。
膝から降り……れないな?
あれ?
「おかえりなさい、成人殿下。お風呂屋さんは如何でしたか?」
いないと思ったら、千代がご飯をお盆に乗せて運んできた。
「ただいま、千代。見て。これ、もらってきた」
俺は鞄から、お風呂屋さんで記念にもらってきた紙の蓋を出した。飲んだジュースの蓋。
安さんに記念に持って帰っていいか聞いたら、どうぞどうぞ、って言ってくれたんだ。皆、そのゴミ箱にほかして行くだけですからお好きになさってください、だって。ほかす、は捨てるってことだな、きっと。ゴミ箱を覗くと、紙の蓋が幾つか入っていた。三種類の色があった。
裏面が汚れているから洗った方がええですよ、と安さんが教えてくれたので、脱衣所にあった水道で洗って、寿々丸に借りた手拭いで拭いてきた。コーヒーの色のは寿々丸にもらおうかと思ったら、うちも洗って持って帰ろ、って寿々丸が言ったので、ゴミ箱から白と茶色とを拾って、綺麗に洗ってきた。俺のはオレンジ色。美味しかったやつ。フルーツ牛乳って言うんだって。
「あら。ええですねえ。まあ、成人殿下。三本も飲んできはったんですか?」
「は?」
ふふ。緋色がびっくりしてる。俺、三本も入らないよー。っていうか、一本も飲み切らなくて、寿々丸に残りを飲んでもらったよ。
「俺のはこれ」
「フルーツ牛乳ですねえ。甘くて美味しいやつですね」
「うん」
フルーツ牛乳、甘くて美味しかった。甘いのが苦手な緋色には、甘すぎて飲めないかも。緋色とお風呂屋さんに行った時は、残りをどうしようか。常陸丸が飲んでくれるかな。ああ、でも、常陸丸は緋色と同じで、甘い物はそんなにたくさんいらないんだった。大好きな乙羽が差し出したものは、何でも食べるし飲むけど。
力丸がいたら、俺の残した食べ物や飲み物を全部片付けてくれるから、安心なんだけどなあ。俺と同じで甘い物好きだし。辛いのや苦いの苦手だし。力丸、戻って来ないかな。
「こら」
むに、と緋色の大きな手に頬をつぶされた。
「食事の前に飲み食いしたら、飯が入らなくなるだろー」
「ジュース、ちょっとだけ」
「牛乳は腹が膨れるんだよ」
「「え?」」
って言ったのは、千寿と寿々丸だけじゃなくて、梅光と千代もだった。
「飲み物ですよ? 緋色殿下。大して腹には溜まりませんて」
寿々丸の言葉に、ははあ、と緋色が呟く。
「各務家はよく動くから、腹の容量が大きいんだな。そういや、鶴丸と亀吉も、小さいのによく食うな」
「あ、殿下。鶴兄様は、小柄な事を気にしとってやから、その、小さいは禁句で……」
「ええ?」
鶴丸は、俺よりだいぶ大きいよ? 広末と同じくらいはある。二人とも、伴侶の斑鹿乃や松吉と同じくらいの高さだから、横を向いたらすぐに顔を合わせることができていいな、って俺は思ってるんだ。
「まだまだ成長期はこれからや、って言ってはるんですけど」
ふはっ、と緋色が笑った。
え? なになに?
「流石、お前の仲良しだな。よく気の合うことだ」
あ、うん。
俺も、今からまだまだ大きくなる予定だから一緒だね。
「遅いぞ」
緋色と梅光は、もう食事用の卓の前にいた。
「「ただいま帰りました。遅うなってすみません」」
相変わらず息ぴったりの千寿と寿々丸が、緋色に向かって包拳礼をする。
「遅くないよ? 早かったよ?」
お風呂、あっという間だったもん。
「俺はお前に言ってんだ、成人。ああ、各務の。お前たち、いちいち礼はいらん。覚えとけよ。俺と成人には、もう畏まった席以外での礼はいらんからな」
「「は、はい」」
「んー?」
遅いって、俺? 俺、何もしてないけど?
緋色に手招きされるままに隣に行くと、ひょいと膝の上に乗せられる。ほ、と体を預けそうになって、だめだめ、と背筋を伸ばした。
今からご飯なのに、抱っこしてどうするんだよー。
膝から降り……れないな?
あれ?
「おかえりなさい、成人殿下。お風呂屋さんは如何でしたか?」
いないと思ったら、千代がご飯をお盆に乗せて運んできた。
「ただいま、千代。見て。これ、もらってきた」
俺は鞄から、お風呂屋さんで記念にもらってきた紙の蓋を出した。飲んだジュースの蓋。
安さんに記念に持って帰っていいか聞いたら、どうぞどうぞ、って言ってくれたんだ。皆、そのゴミ箱にほかして行くだけですからお好きになさってください、だって。ほかす、は捨てるってことだな、きっと。ゴミ箱を覗くと、紙の蓋が幾つか入っていた。三種類の色があった。
裏面が汚れているから洗った方がええですよ、と安さんが教えてくれたので、脱衣所にあった水道で洗って、寿々丸に借りた手拭いで拭いてきた。コーヒーの色のは寿々丸にもらおうかと思ったら、うちも洗って持って帰ろ、って寿々丸が言ったので、ゴミ箱から白と茶色とを拾って、綺麗に洗ってきた。俺のはオレンジ色。美味しかったやつ。フルーツ牛乳って言うんだって。
「あら。ええですねえ。まあ、成人殿下。三本も飲んできはったんですか?」
「は?」
ふふ。緋色がびっくりしてる。俺、三本も入らないよー。っていうか、一本も飲み切らなくて、寿々丸に残りを飲んでもらったよ。
「俺のはこれ」
「フルーツ牛乳ですねえ。甘くて美味しいやつですね」
「うん」
フルーツ牛乳、甘くて美味しかった。甘いのが苦手な緋色には、甘すぎて飲めないかも。緋色とお風呂屋さんに行った時は、残りをどうしようか。常陸丸が飲んでくれるかな。ああ、でも、常陸丸は緋色と同じで、甘い物はそんなにたくさんいらないんだった。大好きな乙羽が差し出したものは、何でも食べるし飲むけど。
力丸がいたら、俺の残した食べ物や飲み物を全部片付けてくれるから、安心なんだけどなあ。俺と同じで甘い物好きだし。辛いのや苦いの苦手だし。力丸、戻って来ないかな。
「こら」
むに、と緋色の大きな手に頬をつぶされた。
「食事の前に飲み食いしたら、飯が入らなくなるだろー」
「ジュース、ちょっとだけ」
「牛乳は腹が膨れるんだよ」
「「え?」」
って言ったのは、千寿と寿々丸だけじゃなくて、梅光と千代もだった。
「飲み物ですよ? 緋色殿下。大して腹には溜まりませんて」
寿々丸の言葉に、ははあ、と緋色が呟く。
「各務家はよく動くから、腹の容量が大きいんだな。そういや、鶴丸と亀吉も、小さいのによく食うな」
「あ、殿下。鶴兄様は、小柄な事を気にしとってやから、その、小さいは禁句で……」
「ええ?」
鶴丸は、俺よりだいぶ大きいよ? 広末と同じくらいはある。二人とも、伴侶の斑鹿乃や松吉と同じくらいの高さだから、横を向いたらすぐに顔を合わせることができていいな、って俺は思ってるんだ。
「まだまだ成長期はこれからや、って言ってはるんですけど」
ふはっ、と緋色が笑った。
え? なになに?
「流石、お前の仲良しだな。よく気の合うことだ」
あ、うん。
俺も、今からまだまだ大きくなる予定だから一緒だね。
1,383
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる