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第十章 されど幸せな日々
37 湯気の向こう側 成人
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お金を払って、靴を脱いで中に入る。中は広くて、すごく温かかった。
「ふわ。あったかい」
「上着を脱ぐか?」
「脱ぐ」
車に、上着を置いてくれば良かったかな。まあでも、外は寒かったし。ちょっとの間でも油断は禁物。俺は、寒いのは本当に苦手だから。生松や睦峯のいない所で風邪を引いたりしたら大変だ。いる所でも駄目だけれど、いない所でしんどくなるのはもっと駄目だ。うん、上着を着てきたのは合ってる。
「ここに一緒に入れときましょ」
たくさん並ぶ箱の一つを開けた寿々丸が手を出したので上着を預けた。箱の中にはかごが一つあって、寿々丸は俺の上着を手早くたたんでそこに置いた。
「軽っ。やわらかっ。この服、めっちゃええなあ」
「うん」
いいでしょ。軽くて柔らかいだけじゃないんだよ。すっごく暖かいよ。
「いる?」
「え?」
「作る?」
「あー。高いですか?」
「んー。たぶん……」
服は、俺と緋色は衣装部で作ってもらえるから、値段を全然知らないんだよなあ。これは、皇族の仕事の必要経費だから払わなくていいって聞いた。だから、衣装部にお任せだ。俺が動きやすいのを色々作ってくれて、本当に助かっている。値段は……たぶん高い。
俺のくまとお揃いのうさぎの服を亀吉に買う時、たまの贅沢やって鶴丸と松吉は言っていた。常陸丸も、乙羽に俺とお揃いの服を買う時、この為に稼いでいるから高くても大丈夫、って言っていた気がする。
「父上と母上に相談してみます」
「ん。俺も、値段聞いてみる」
デパートで売り始めたって言っていたから、値段があるはず。あ、でも、この上着は新作だったっけ。まだないかな? すごく高いかも? 俺が買ってあげれたらいいんだけど、高いなら難しいかなあ。
寿々丸は、服をするすると脱いでいく。皮の胸当てとか、武装してたから結構色々つけていた。動きやすい着物って感じの服は、紐が多いから片手の俺には脱ぎ着が大変そうだ。俺、片手でも脱ぎ着しやすい服を使う国に拾われて良かったな。生まれて育った帝国と同じような服だし。
戦争をしていた帝国と皇国の方が、皇国の属国である西国より服や話し方が似ているのって変な感じ。
服を脱いだ寿々丸と朔は、長い髪の毛を頭の上にまとめ上げた。髪の毛まで濡らして洗うと乾かすのが大変だから、よく絞った手拭いでざっと拭いて終わるらしい。服を入れた箱は戸を閉めて、差し込んである四角い板を抜くと戸が開かなくなった。
「おお?」
四角い板を差し込むと開く。
「おおお」
「こりゃいい」
じいじと二人で何回か試していたら、寿々丸と朔が、それ、そんな珍しい? って笑いながら、四角い板を俺たちに預けて風呂へ入っていった。
「こちらの坊ちゃんは、風呂には入らねえんですかい?」
俺たちの後ろから入ってきた人も、あっという間に裸になりながら声を掛けてくる。ご挨拶してなかったけど、寿々丸と一緒にいたから、寿々丸と同じ、坊ちゃんって呼び名になったみたい。
「あ、うん」
「下手に浸かると傷が痛むんか?」
裸の人に声を掛けられて、ちょっとだけびくっとしたけど、優しい声にほっと力が抜けた。
「熱い湯も苦手でな」
じいじが、俺をそっと後ろに隠しながら答えてくれた。
「あー。ほな、ここはあかんな。ここはちと湯が熱いでな」
「そりゃ残念じゃ」
「安さんに頼めば、温くしてくれるかもしれん。傷の痛みが落ち着いたら、また来たらええ」
「そうしよう」
その人も、ガラス戸の向こうに入っていって、俺も、その湯気だらけの中に入ってみたくなった。
さっきまではお風呂屋さんを見てみたいだけだったけど、あそこに入ってみたい。城に戻ったら緋色に、お風呂屋さんに行こうって言ってみよう。そうしよう。
「ふわ。あったかい」
「上着を脱ぐか?」
「脱ぐ」
車に、上着を置いてくれば良かったかな。まあでも、外は寒かったし。ちょっとの間でも油断は禁物。俺は、寒いのは本当に苦手だから。生松や睦峯のいない所で風邪を引いたりしたら大変だ。いる所でも駄目だけれど、いない所でしんどくなるのはもっと駄目だ。うん、上着を着てきたのは合ってる。
「ここに一緒に入れときましょ」
たくさん並ぶ箱の一つを開けた寿々丸が手を出したので上着を預けた。箱の中にはかごが一つあって、寿々丸は俺の上着を手早くたたんでそこに置いた。
「軽っ。やわらかっ。この服、めっちゃええなあ」
「うん」
いいでしょ。軽くて柔らかいだけじゃないんだよ。すっごく暖かいよ。
「いる?」
「え?」
「作る?」
「あー。高いですか?」
「んー。たぶん……」
服は、俺と緋色は衣装部で作ってもらえるから、値段を全然知らないんだよなあ。これは、皇族の仕事の必要経費だから払わなくていいって聞いた。だから、衣装部にお任せだ。俺が動きやすいのを色々作ってくれて、本当に助かっている。値段は……たぶん高い。
俺のくまとお揃いのうさぎの服を亀吉に買う時、たまの贅沢やって鶴丸と松吉は言っていた。常陸丸も、乙羽に俺とお揃いの服を買う時、この為に稼いでいるから高くても大丈夫、って言っていた気がする。
「父上と母上に相談してみます」
「ん。俺も、値段聞いてみる」
デパートで売り始めたって言っていたから、値段があるはず。あ、でも、この上着は新作だったっけ。まだないかな? すごく高いかも? 俺が買ってあげれたらいいんだけど、高いなら難しいかなあ。
寿々丸は、服をするすると脱いでいく。皮の胸当てとか、武装してたから結構色々つけていた。動きやすい着物って感じの服は、紐が多いから片手の俺には脱ぎ着が大変そうだ。俺、片手でも脱ぎ着しやすい服を使う国に拾われて良かったな。生まれて育った帝国と同じような服だし。
戦争をしていた帝国と皇国の方が、皇国の属国である西国より服や話し方が似ているのって変な感じ。
服を脱いだ寿々丸と朔は、長い髪の毛を頭の上にまとめ上げた。髪の毛まで濡らして洗うと乾かすのが大変だから、よく絞った手拭いでざっと拭いて終わるらしい。服を入れた箱は戸を閉めて、差し込んである四角い板を抜くと戸が開かなくなった。
「おお?」
四角い板を差し込むと開く。
「おおお」
「こりゃいい」
じいじと二人で何回か試していたら、寿々丸と朔が、それ、そんな珍しい? って笑いながら、四角い板を俺たちに預けて風呂へ入っていった。
「こちらの坊ちゃんは、風呂には入らねえんですかい?」
俺たちの後ろから入ってきた人も、あっという間に裸になりながら声を掛けてくる。ご挨拶してなかったけど、寿々丸と一緒にいたから、寿々丸と同じ、坊ちゃんって呼び名になったみたい。
「あ、うん」
「下手に浸かると傷が痛むんか?」
裸の人に声を掛けられて、ちょっとだけびくっとしたけど、優しい声にほっと力が抜けた。
「熱い湯も苦手でな」
じいじが、俺をそっと後ろに隠しながら答えてくれた。
「あー。ほな、ここはあかんな。ここはちと湯が熱いでな」
「そりゃ残念じゃ」
「安さんに頼めば、温くしてくれるかもしれん。傷の痛みが落ち着いたら、また来たらええ」
「そうしよう」
その人も、ガラス戸の向こうに入っていって、俺も、その湯気だらけの中に入ってみたくなった。
さっきまではお風呂屋さんを見てみたいだけだったけど、あそこに入ってみたい。城に戻ったら緋色に、お風呂屋さんに行こうって言ってみよう。そうしよう。
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