【完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

34 お風呂屋さんは近くない  成人

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 走ってお風呂屋さんへ行こうとする千寿せんじゅ寿々丸すずまるたちを止めて、じいじは車を借りた。トラックじゃない、でも各務かがみ印のついたワゴン車。皆で乗り込んで、お風呂屋さんに向かった。運転はじいじがして、助手席に座ったぼうが道案内をしてくれた。道案内って言っても、分かれ道はほとんど無かったけど。

「お主らは速いからな。成人なるひとを抱えて長時間ついて行くのは、流石に堪える」

 じいじは、車を運転しながら言った。俺が、あんまり走れなくてごめんね。でも、お風呂屋さんには行きたい。
 それにしても千寿せんじゅたちは、じいじが速いって言うくらい速いんだな。すごいな。そういえば、さっき、バスに手を振りながら付いてきた小さな子どもたちも、なかなか速かった。結構長くバスについて来ていたし。楽しそうに走っていた。あんな風に走り回って遊んでいるから、皆速くなるのかもしれない。
 さく力丸りきまるの手合わせ、ちょっと見てみたい。さくはかなり速い気がする。力丸りきまるもここに連れてこられたら良かったのにな。残念。
 俺も、小さな頃にたくさん走ったりさせられてた。楽しかった覚えはないけど、色々鍛えてた。そのお陰で、少し速さに自信があった。今は少ししかもたないけど。それも、体が傷むからやっちゃ駄目って言われているけど。
 本当は、何年もかけて鍛えて、器である体が耐えられるようになってからでないとできないはずの動きを、脳の機能をいじって出来るようにしてしまっていたのが戦闘人形ドールなのだと思う、って忍部しのぶべ博士が言っていた。無理やり動かしているから、すごく体が傷んでいるんだって。だから、戦闘人形ドールは短命だったのだろう、って。小さなうちから戦場にいるから短命、という訳ではないみたい。
 何十年分も先取りして使ってしまったから、俺の体はだいぶ年寄り。長持ちさせるには、使い過ぎないようにしなくちゃいけない。かといって、使わずにじっとしていると錆びついて動けなくなってしまうらしい。
 普通に、人としての生活を楽しみましょう。でも、少しでも、辛いな、しんどいな、と感じたらすぐに休むこと、と生松いくまつからは言われている。これが結構難しい。
 自分で、疲れたな、と気付いた時は、もう少しこのまま遊んでいたい、とか、もう少しだけ仕事をしたい、とか、今、本当は寝たくないっていう気持ちを、緋色ひいろと一緒に長生きするっていう約束を思い出して抑えることができる。
 でも俺は、不調を感じ取る能力が鈍いらしくて。俺が、まだ大丈夫と思う痛みや不調は、全然、大丈夫じゃないらしい。だいたい緋色ひいろとかに、そろそろ休め、とか、今は寝ろ、とか言われて、なんで? まだ大丈夫って思っちゃうわけだ。そうなると、寝ろっていう緋色ひいろの言葉と、まだ寝たくない俺が頭の中で喧嘩する。たぶん、緋色ひいろとかの言ってることが合っているんだけど、まだ大丈夫っていう俺を納得させるのが難しくて困っている。
 まあ、長生きしたいから頑張るけどさ。
 ちょっとね。一緒に走りたい気持ちもあるんだよ。
 お風呂屋さんは、結構離れた場所にあった。車にして良かった。
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