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第十章 されど幸せな日々
20 その称号は 成人
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じいじと常陸丸がバスを出た途端に、俺たちの前の席の元真中が、ばっと立ち上がった。
「ひ、緋色殿下……」
「こら! 勝手に動いたらあかん」
寿々丸が、だっと通路を走ってきて元真中の肩を押さえつける。速い!
千寿はそのまま前の方で、むんと立って他の人を警戒している。
うん。連携も完璧。
「離さんか! 馬鹿者!」
「おっちゃん、勝手に動いたらあかん。うちら、うっかり攻撃してしまうで」
そうだね。寿々丸は今、護衛だ。動くものに反応するのは当たり前だと思うよ? 猪を退治したばかりで少し気が立っているから、うっかりする事もあるかもしれない。
戦闘直後の兵は興奮状態だから気を付けないといけないって、元真中は知らないのかな。
「なんという……なんという野蛮な土地や。こんな、こんな場所に、一瞬たりともおれません。こんな、こんなとこ、人の住むとこやない」
「へ?」
元真中の言葉に、寿々丸はきょとんとした。
離れた場所から、はあ? って千寿の声がする。
「なに言うてんの? うちら昔から住んでるし。普通に楽しく暮らしてるし」
千寿は、むうと口を尖らせて早口で言った。
「おっちゃんらも今から住むんやろ? その為にうちの国に送ってもらっとんやろ? 最初からそんなんでどないするん? そんなこと言う人とうち、絶対仲良う暮らせんわ。仲良うしようとせん人に仲良うしてあげるほど、うちら優しくないで」
「緋色殿下! 聞かれましたやろか? あの山猿のような娘の暴言。そして、これな山猿の乱暴な所業。早う我が国に戻らんことには、わしらだけやのうて殿下も危険に晒されます。わしは、いつでも殿下の御身を考え……」
「へえ?」
緋色の低い声。元真中は、何でか嬉しそうに緋色の方へと顔を向けた。元真中の肩を押さえて座席に膝をつかせていた寿々丸は、ひゅっと息を呑んで背筋を伸ばしているのに。
分からない人には、本当に分からないものなのか。今、もう殺っちゃうんじゃないか、と思うほどの殺気が緋色から出ていた。なのに元真中は気付きもせず、顔を緋色に向けている。
「ああ、殿下。わしは、いつもいつでも殿下のおん為を思うておるんやとようやく分かってくださ……」
がちゃ。
久しぶりに、撃鉄を起こす音を聞いた気がする。
緋色が、元真中の眉間を狙って銃を構えていた。
「さて、悩みどころだ。戦時中は、殺せば殺すほど褒め称えられたものだが、戦争を終えて戻ってみれば、たった一人も人を殺してはいけないと子どもたちに教育してやがる」
「え、あ……」
「もちろん、平和な世の中を嬉しいと考えているし、感情のままに引鉄を引くような人間では無いつもりだ。だが時々、何故殺してはいけないのだろうな、と考えてしまう事もある」
「で、でん……」
「知っているか。俺は、英雄らしい」
元真中は、がくがくと頭を縦に振った。
「それは、誰よりたくさん殺した人間に与えられる称号だ」
「ひっ、ひぃ……」
何故、人を殺してはいけないのか、俺もまだよく分かってはいない。
「ひ、緋色殿下……」
「こら! 勝手に動いたらあかん」
寿々丸が、だっと通路を走ってきて元真中の肩を押さえつける。速い!
千寿はそのまま前の方で、むんと立って他の人を警戒している。
うん。連携も完璧。
「離さんか! 馬鹿者!」
「おっちゃん、勝手に動いたらあかん。うちら、うっかり攻撃してしまうで」
そうだね。寿々丸は今、護衛だ。動くものに反応するのは当たり前だと思うよ? 猪を退治したばかりで少し気が立っているから、うっかりする事もあるかもしれない。
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「なんという……なんという野蛮な土地や。こんな、こんな場所に、一瞬たりともおれません。こんな、こんなとこ、人の住むとこやない」
「へ?」
元真中の言葉に、寿々丸はきょとんとした。
離れた場所から、はあ? って千寿の声がする。
「なに言うてんの? うちら昔から住んでるし。普通に楽しく暮らしてるし」
千寿は、むうと口を尖らせて早口で言った。
「おっちゃんらも今から住むんやろ? その為にうちの国に送ってもらっとんやろ? 最初からそんなんでどないするん? そんなこと言う人とうち、絶対仲良う暮らせんわ。仲良うしようとせん人に仲良うしてあげるほど、うちら優しくないで」
「緋色殿下! 聞かれましたやろか? あの山猿のような娘の暴言。そして、これな山猿の乱暴な所業。早う我が国に戻らんことには、わしらだけやのうて殿下も危険に晒されます。わしは、いつでも殿下の御身を考え……」
「へえ?」
緋色の低い声。元真中は、何でか嬉しそうに緋色の方へと顔を向けた。元真中の肩を押さえて座席に膝をつかせていた寿々丸は、ひゅっと息を呑んで背筋を伸ばしているのに。
分からない人には、本当に分からないものなのか。今、もう殺っちゃうんじゃないか、と思うほどの殺気が緋色から出ていた。なのに元真中は気付きもせず、顔を緋色に向けている。
「ああ、殿下。わしは、いつもいつでも殿下のおん為を思うておるんやとようやく分かってくださ……」
がちゃ。
久しぶりに、撃鉄を起こす音を聞いた気がする。
緋色が、元真中の眉間を狙って銃を構えていた。
「さて、悩みどころだ。戦時中は、殺せば殺すほど褒め称えられたものだが、戦争を終えて戻ってみれば、たった一人も人を殺してはいけないと子どもたちに教育してやがる」
「え、あ……」
「もちろん、平和な世の中を嬉しいと考えているし、感情のままに引鉄を引くような人間では無いつもりだ。だが時々、何故殺してはいけないのだろうな、と考えてしまう事もある」
「で、でん……」
「知っているか。俺は、英雄らしい」
元真中は、がくがくと頭を縦に振った。
「それは、誰よりたくさん殺した人間に与えられる称号だ」
「ひっ、ひぃ……」
何故、人を殺してはいけないのか、俺もまだよく分かってはいない。
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