【完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

13 大きな子ども  成人

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「本当に、お主はおかしな事ばかり言う。家督は少し前に息子に引き継いでおったろう? この地を治める者は、すでにお主ではなかったではないか」
「あ、あ、あれは、あれは」
「うちの成人なるひと……あー、成人なるひと殿下が見事な初裁きだったと評判でな。お主の事情は、うちの者は皆知っとる。鶴丸つるまるさまに手伝ってもろうたとはいえ、あれは誠に見事な裁きじゃった」
「あ、は? いや、あ、あれは……」

 少しずつ、じいじの中から何かが膨れ上がってくる。周りにいた軍人たちの顔が強ばって、ぐぐっと体に力が入った。
 鍛えていない者たちでも何かを感じたのか、うつむいて後ろを歩いていた人たちがそっと顔を見合せた。

「それにしても、じゃ、大一郎おおいちろう成人なるひと殿下に不敬の罰として名字を取り上げられ、人に頭を下げることを覚えよと言われたはずのお主が、未だのうのうと城に居座り誰にも頭を下げておらぬのはどういった事情であろうか」
「そ、そのような……。わ、わしは緋色ひいろ殿下への礼を欠いたことなどなく……、ご、御下命に従い、家督は譲り……」

 じいじの声が、じいじにしては少し小さくなった。その代わり、腹にずんと響くような重さを感じる。元真中の声は、どんどん小さくなっている。

「この城は、髪の毛の短い者は登城できぬだの名字のない者は登城できぬだのと言うておったように記憶しておるがこれ如何に?」
「わ、わしは、生まれながらにこの国の領主や! この城にわしがおらんなど有り得ん。家督を譲ろうとそれは変わら……」
「それが答えか」

 じいじは、バスの横まで元真中を抱えて歩いてきて、ぱっと手を離した。元真中が支えを失って地面に尻もちをついたけれど、気にしなかった。

「ふむ。質問と答えが全くかみ合わん。成程。お主、そのようなおつむで領主が務まっておったとは思えぬな。これは、さぞかし周りは苦労しておったことじゃろう」

 じいじから威圧が消えた。

「あれ?」
緋色ひいろ殿下、お待たせしました。どうした、成人なるひと……殿下。待たせたか」
「んーん。今、力丸りきまる送ってた」
「そうか。力丸りきまるは仕事に行ったか」
「うん」
「よし。では我らも参ろう」

 じいじが、連れてきた人たちを見る。

「これに乗って行くぞ。城は見納めじゃ。よう目に焼き付けておけ。少し時間をやろう。それぞれに思い入れもあろうからな。にしても、通達は出したのじゃが、見送りは誰も来なんだな」
「うん」

 そうだね。元領主親子と重臣たちは西賀さいか国にて労動刑とする、出発は〇日である、と一応お触れを出したんだけれど、面会を申し込む人も見送りに来る人もいなかった。
 今、城から見送りに出てきたのは、竹光たけみつたち各務家の皆だけだ。
 城をよく見ておけ、と言われた人たちは、素直に城を見上げていた。……座り込んだままの元真中も。

「じいじ」
「ん? どうした?」
「なんで威圧消したの?」
「ああ。まるで幼子おさなごのようじゃと思ったら、何だか気が抜けたわい」
幼子おさなご?」
「なにも分かっておらん、駄々をこねるだけの子どもじゃ」
「子ども」

 大きな子どもだな。

「なーひとでんかー」

 亀吉かめきちが走ってくる。小さな体で手を振りながら走ってきた。

「おはよごじゃます」

 ちゃんと頭を下げて挨拶をしてから俺にしがみつく。賢い。

「おはよ、亀吉かめきち
「はい」

 挨拶もできない元真中は、一歳の亀吉かめきちより幼いってこと?
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