【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
1,215 / 1,321
第十章 されど幸せな日々

6 そっくり  成人

しおりを挟む
 水瀬みなせを休ませて、その日は、俺や乙羽おとわは城へは行かずにおうちの掃除をする事にした。

「俺も家で仕事をする」
「駄目ですよ、殿下。重要書類は運び出し禁止です」
「じゃ、休む」
「却下です。休むなら乙羽おとわも休みの日にしてください。今日、俺たちが休んだってデートに行けないでしょうが。今日は水瀬みなせが休みになったんだから、乙羽おとわ成人なるひとは休めないでしょう?」
「ちっ。掃除や洗濯など、一日二日しなくとも問題ないだろ」

 はあ、と常陸丸ひたちまるは大きく息を吐いた。

「掃除や洗濯なんてした事もないくせに、何でそんな事だけ知ってるんでしょうね」
「なんだ?」
「いえいえ。掃除や洗濯はいつの間にかしてあるもの、と考えるお偉いさんが多い中、とても理解のあるご主人様だな、と感心した次第。でも、駄目です。よーく思い出してみてください。殿下は先ほど、大変に理解のある上司の顔をして政巳まさみも休みにしたんですよ」
「む」

 緋色ひいろが言葉に詰まって、さ、行きますよって常陸丸ひたちまるが言った。今日は一緒にお城に行けないけど、お仕事頑張ってね、緋色ひいろ
 玄関でお見送りしていたら、緋色ひいろは、俺と一緒ににこにことお見送りをしていた力丸りきまるのおでこをばちんと弾いた。
 
「ええー?」
「痛ってえ。ひでえ。俺、何もしてないのに」

 ねえ? 何もしてないよねえ?

「ふん。じゃあな、成人なるひと。いってきます」
「ん、いってらっしゃい」

 緋色ひいろは俺には、ちゅーをして出かけていった。何で力丸のおでこを弾いたのか聞こうと思ったけど聞けなかったな。まあ、いっか。
 常陸丸ひたちまる乙羽おとわにちゅーしようとして止められて、ぎゅーって抱っこだけして出かけていった。
 玄関はまだおうちだから、ちゅーしてもいいのに。
 あ、そうか。他の人がいるとこ……。
 おうちって、つい油断するよね。
 斑鹿乃むらかのは、末良すえよしと一緒にうちに来てくれた。今日は、うちの掃除が仕事。うちが終わったら、斑鹿乃むらかのの家の掃除も一緒にしよう。鶴丸つるまるの家の様子も見に行こうか。
 そういえば、鶴丸つるまるの家の掃除や洗濯は誰がしてるのかな? まさか、水瀬みなせ……。
 うん。後で見に行こう。掃除や洗濯の係が誰もいなかったら、考えなくちゃいけない。

末良すえよしがいるので、なかなか仕事が進まないかもしれませんけれど」
「大丈夫」

 末良すえよしもお手伝いしてくれるんだから、人手は多くなってるよ。雑巾を一緒に持って拭き掃除したことあるじゃん。
 あれ?

「これを手放さないので、お手々が一つしか空いてないのよねえ」

 末良すえよしの手は、いつもの玩具の包丁で一つ埋まっている。

「また持ってきたの?」
「ん。だいじ」
「そっか」

 大事か。お城で遊ぶ時も、いつも手に持ってるもんなあ。お散歩の時も持っている。そうかあ。おうちでも持ってるのか。
 そういえば、亀吉かめきちも、すえーしといっしょって言って包丁を手に持って散歩してるんだけど、亀吉が持ってると何故か短刀に見えるんだよな。あれ、なんでだろう。同じ包丁の玩具のはずなのに。

「初めて遊んだ日からずっと、寝る時も一緒なんですよ」
「寝る時も?」

 ぬいぐるみと違って、あまり抱き心地は良くなさそうだけど。

「お城に置いて帰りなさいって言うのに、大事だから駄目ってきかなくて。玉鶴たまつるさまが、それは末良すえよしの大事か。それでは手放せんのうって仰って、あの玩具一式プレゼントしてくださったんです。家でも夢中で、飽きもせずに野菜を切ったり鍋をかき混ぜたりしてるんですよ」
「ふふ」

 広末ひろすえにそっくりだ。


 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...