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第九章 礼儀を知る人知らない人
157 大変でしたね? 成人
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「泥棒やないですか? わしの財産であるこの国やらこの城やら、この城の使用人やら、ぜぇんぶかっさらっとんやから。これを泥棒言わずに何と言います?」
力丸が少し力を緩めて、話していいぞって言った途端に、わあわあと元真中は口を開いた。俺と亀吉から見えにくい位置に置いたままだから、顔はよく見えてないんだけれども。
「かっさらった覚えはないで。上様がわざわざ足をお運びくださり、頭まで下げはって、この国の民をようよう頼むて言わはったから、謹んでお受けしただけや」
「ちちうえ!」
「鶴丸」
書類を持った鶴丸と那月が、開け放してあった部屋に入ってきた。気配に気付いていた俺たちは誰も驚かなかったけど、中の人たちはほとんど皆びっくりした顔をしていた。
亀吉が、たたっと走って鶴丸に飛びつく。相変わらず速いなあ。
鶴丸は、ぱっと書類を置いて亀吉を抱き止めた。こっちも素早い。
「こぉら、亀。また、成人殿下と一緒におったんか。成人殿下のお仕事のお邪魔をしたらあかんよ?」
「はいっ!」
「返事だけはええんよなぁ。殿下、いつもすんません」
「いいよー」
俺は、亀吉のお世話をする仕事を昨日から引き受けているからね。
「このっ……お前! お前や! 各務の小倅! お前の所為でわしは……!」
元真中が、力丸の下で暴れた。
まあ、力丸が押さえている腕を外せるわけがないんだけど。
鶴丸が、亀吉を抱っこしたまま元真中を見る。
「うちは何もしとらんよ。全てはおっちゃんの自業自得。だいたいなんや、その口の利き方は」
ほんとにね。元真中は礼儀がなっていないから、皆に礼を取って礼儀を覚えなさい、っていう罰だったはずなのに、何にも変わっていない。
「ええ加減に理解しぃや。あんたは今、名字無し。この部屋の誰より身分が下。な?」
「黙れ! この盗っ人めが! とっとと田舎へ帰れ! ここはわしの国や! わしの城や! お前如きに渡す物は毛ぇ一筋もないわ!」
「別にうちは何もいらん。それに、この城から何か持ち出そうとした者は片っ端からじいさま達にとっ捕まっとるから、何にも減っとらんよ。その点は安心して。言うても、おっちゃんの物でもないんやけどな」
「もう違う?」
もう、元真中たちの持ち物じゃなくなった?
「いいえ、成人殿下。うちらにとったら、元から、なんもかんもが預かり物です。民からの預かり物。税を納めてもろて、そのお金で道路を直したり、川が氾濫せんように工事したり、熊や猪を退治したり、子どもが皆、学校に通えるように考えたり、病気の者が皆、医者にかかれるように考えたりするんです。預かったお金で、国の者が快適に暮らせるように考えるんが領主の仕事です。せやから、この城にある物はぜぇんぶ、民からの預かり物。国を治める人間が代わる言うのは、預かる人間が代わるいうことです。盗ったも何もないんですよ」
「へええ」
領主って、国を治めるって大変だ。
うん。父さまや朱実殿下も、緋色も、いつもたくさん仕事してるもんな。大変なんだな。
元真中も、この仕事をしてた?
あんまり想像できないけど、大変だったんだね?
力丸が少し力を緩めて、話していいぞって言った途端に、わあわあと元真中は口を開いた。俺と亀吉から見えにくい位置に置いたままだから、顔はよく見えてないんだけれども。
「かっさらった覚えはないで。上様がわざわざ足をお運びくださり、頭まで下げはって、この国の民をようよう頼むて言わはったから、謹んでお受けしただけや」
「ちちうえ!」
「鶴丸」
書類を持った鶴丸と那月が、開け放してあった部屋に入ってきた。気配に気付いていた俺たちは誰も驚かなかったけど、中の人たちはほとんど皆びっくりした顔をしていた。
亀吉が、たたっと走って鶴丸に飛びつく。相変わらず速いなあ。
鶴丸は、ぱっと書類を置いて亀吉を抱き止めた。こっちも素早い。
「こぉら、亀。また、成人殿下と一緒におったんか。成人殿下のお仕事のお邪魔をしたらあかんよ?」
「はいっ!」
「返事だけはええんよなぁ。殿下、いつもすんません」
「いいよー」
俺は、亀吉のお世話をする仕事を昨日から引き受けているからね。
「このっ……お前! お前や! 各務の小倅! お前の所為でわしは……!」
元真中が、力丸の下で暴れた。
まあ、力丸が押さえている腕を外せるわけがないんだけど。
鶴丸が、亀吉を抱っこしたまま元真中を見る。
「うちは何もしとらんよ。全てはおっちゃんの自業自得。だいたいなんや、その口の利き方は」
ほんとにね。元真中は礼儀がなっていないから、皆に礼を取って礼儀を覚えなさい、っていう罰だったはずなのに、何にも変わっていない。
「ええ加減に理解しぃや。あんたは今、名字無し。この部屋の誰より身分が下。な?」
「黙れ! この盗っ人めが! とっとと田舎へ帰れ! ここはわしの国や! わしの城や! お前如きに渡す物は毛ぇ一筋もないわ!」
「別にうちは何もいらん。それに、この城から何か持ち出そうとした者は片っ端からじいさま達にとっ捕まっとるから、何にも減っとらんよ。その点は安心して。言うても、おっちゃんの物でもないんやけどな」
「もう違う?」
もう、元真中たちの持ち物じゃなくなった?
「いいえ、成人殿下。うちらにとったら、元から、なんもかんもが預かり物です。民からの預かり物。税を納めてもろて、そのお金で道路を直したり、川が氾濫せんように工事したり、熊や猪を退治したり、子どもが皆、学校に通えるように考えたり、病気の者が皆、医者にかかれるように考えたりするんです。預かったお金で、国の者が快適に暮らせるように考えるんが領主の仕事です。せやから、この城にある物はぜぇんぶ、民からの預かり物。国を治める人間が代わる言うのは、預かる人間が代わるいうことです。盗ったも何もないんですよ」
「へええ」
領主って、国を治めるって大変だ。
うん。父さまや朱実殿下も、緋色も、いつもたくさん仕事してるもんな。大変なんだな。
元真中も、この仕事をしてた?
あんまり想像できないけど、大変だったんだね?
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