【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
1,194 / 1,321
第九章 礼儀を知る人知らない人

151 簡単なこと  成人

しおりを挟む
「なーひとでんか」

 厨房に着いたら、亀吉かめきちがいた。
 俺をみつけて、喜んで飛びついて来ようとして止まる。亀吉かめきちの後ろで村次むらつぐが笑った。今日も亀吉かめきちに付いているらしい香月かづきも後ろにいて、ぺこぺこと頭を下げていた。

亀吉かめきち、おはよう」
「おはようごじゃます」

 亀吉かめきちは、じいっと半助はんすけを見ながら答えた。昨日までいなかった人だから、気になるよね。壱臣いちおみのことはちょっと見ただけで、後は半助はんすけを観察している。誕生日会に遊びに来た時に会ってるけど、ちょっとだけだったから忘れちゃったかな? 忘れるよね。亀吉かめきちは小さいから。でも、ちゃんと挨拶できたの偉い。

「あ、亀吉かめきちさま、おはようございます。今着きました。壱臣いちおみです」

 目を開けた壱臣いちおみが、にこにこ笑って言った。半助はんすけが耳元で何か言ってから目を開けたから、ちょっと顔が赤い。さっきデートの話をしている時も真っ赤だった。

「いいおみ?」
「はい。おみ、でもええですよ。呼びやすいように呼んだって下さい」
「おみ?」

 亀吉かめきちは首を傾げる。

「にかうさまちゃう?」

 にかうさま?

「あれ? 弐角にかくおったんですか?」

 壱臣いちおみがふわっと笑った。
 ああ。にかうさまは弐角さま、か。

「あ、ちゃう」
「はい、ちゃいます。よう似とるけど、ちゃうんですよ。うちは弐角にかくのお兄ちゃんのおみです」
「うん。ちゃった」

 そうだった。弐角にかく壱臣いちおみは双子だからよく似てるって、皆言ってるんだった。俺は全然違うと思ってたんだけど、絵に描いた時、目や鼻や口の形がそっくりだったから驚いた。
 今は髪の毛は、壱臣いちおみの方がちょっと長いかな。昨日、壱鷹いちたか弐角にかくの髪の毛は切って短くなっていた。楽でええんですよ、って笑ってた。
 そっか。亀吉かめきち壱臣いちおみのことを弐角にかくだと思っていたから、半助はんすけだけあんまり知らない人だったんだ。
 周りで洗い物をしたり片付けをしていた料理人たちが、何人か振り返った。厨房は色んな音がするから、聞こえた人と聞こえてない人がいるみたい。厨房、だいぶ人が減ったね。昨日、お茶を飲みに来た時より少ない。でも、今いる人は皆、しっかりと仕事をしてるように見える。昨日は、村次むらつぐを睨んでいるだけで動いていない人が何人かいた。力丸りきまるに睨み返されて、震えていたけれど。

半助はんすけです。おはようございます」
「おはようごじゃます」

 挨拶しても、やっぱりじぃって半助を見てる。あ、腕?
 くくくって村次むらつぐが笑った。

亀吉かめきちさま。警戒し過ぎっす」

 ああ。もしかして、強い人がもう分かる? 何となく? すごいな、亀吉かめきち

村次むらつぐくん。おはよ」
壱臣いちおみさん。来てくれて嬉しいです」

 村次むらつぐが優しい顔で言った。周りの料理人たちが、また振り返って見ていた。

「うん。来たよー」
「嬉しいですけど、大丈夫そうですか?」
「大丈夫。こうやって目ぇつむってな、ここまで来たから」
「はは。大変だ」
「大変やないよ。それだけで大丈夫なんやから、簡単なもんや」
「そうですか」
「そうやで。な?」

 壱臣が半助を見上げて笑う。そうそう。半助がいたら大丈夫だよね。目をつぶっていたら、羽織袴の人がいない所に連れて行ってくれるから。
 半助は、眩しそうに目を細めて頷いた。

「あー、はいはい」

 力丸りきまるが、何故かため息をつきながら口を挟む。

「半助さんもこちらへ来ていいって、朱実あけみ殿下からの許可が出て良かったっす、本当に」
「いや。ええか分からんかったから、休暇届けを出してきた」

 半助がいつもの顔に戻って答えた。

「え?」
「朱実殿下が離宮に来られて、行ける者は皆行ってええって言わはったんやから、半助もええに決まってるやん」
「まあ、念の為」
「そっかあ」

 力丸が嬉しそうに笑う。

「半助さんが休暇届け出してるんなら、俺は出さなくて良さそうだな。俺はこのまま、成人なるひとの護衛。へへ、やったね」

 朱実殿下の護衛が一人減ってるけど、いいのかな? まあ朱実殿下だから、きっと大丈夫だよね。
 俺も、力丸がいてくれるの嬉しい。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...