人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

150 大歓迎  成人

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三郎さぶろう、よく来た!」
「うわわっ」

 昨日と同じように、入り口で城の出入りをする人の確認をしていたじいじが飛び出してきて、三郎さぶろうの脇に手を入れて持ち上げた。

「疲れとらんか? ん? わしや殿下、成人なるひとの見張りがないからと根を詰めたりしておらんかっただろうな?」
「お、お、お祖父様。おやめください」
「む? よしよし。目の下に隈はないようだ」
 
 確かに。三郎さぶろうの目の下にくまはなかった。よしよし。三郎さぶろうはすぐに頑張りすぎるからね。誰かがおしまいにしなさいって言わないとなかなか仕事を終われないんだけど、ちゃんと終わってたのか。偉い。

利胤としたねさま。うちがちゃあんと見張っとりましたよ。利胤としたねさまにお願いされたお仕事です。手抜きはしませんよー」

 目をつぶって厨房に向かおうとしていた壱臣いちおみが、半助はんすけの左腕を掴んで歩きながらにこにこ笑う。じいじの声は、目をつぶってても分かる。大きくて腹に響くけれど、家族にはいつも優しい声だ。
 そうか。おしまいって言う係は、壱臣いちおみがやってくれてたんだね。

「おお。こりゃよくやった、壱臣いちおみ。任せて良かったわい。後で褒美を渡す。それを持って半助はんすけと街でデートをして参れ」
「で、で、デート?」

 壱臣いちおみがあっという間に真っ赤になる。

「おう、デートじゃ。昨日など、皆それぞれデートをしておったぞ。殿下と成人なるひともそうじゃが、弐角にかく殿と橙々だいだい殿、竹光たけみつ殿と玉鶴たまつる殿、鶴丸つるまる殿と松吉まつきち殿もそれぞれ街へ出かけてな。美味しい食事を堪能してきたとのことじゃ。わしは、殿下と成人なるひとのご相伴に預かっての。これが、大層旨いものじゃった。成人なるひとも気に入っておったから、あそこは滞在中に一度は行ってくるとよい」
成人なるひとくんの気に入ったご飯? それは食べに行かんとあかんなあ」
「しゃぶしゃぶ、すごく美味しい」
「しゃぶしゃぶって言うの? 面白い名前やね」
「うん。しゃぶしゃぶするから、しゃぶしゃぶ」
「ふふっ。分からん」

 壱臣いちおみ、目をつぶってるから、俺がしゃぶしゃぶの手をしてるのが見えないんだよ。まあいいや。今、一緒に厨房に行って、もう一回してあげる。

「お祖父様! いい加減に下ろしてください!」
「はは。まだまだ軽いな、三郎。もっと食え」
幼子おさなごやあるまいし、今更たくさん食べた所で大きくなったりしないです」

 じいじ、嬉しそう。今からさいも来るらしいよ。さいが来るってことは、きっと睦峯むつみねも付いてくる。生松いくまつはどうかな。生松いくまつも来るかな。楽しみだね。
 じいじは三郎さぶろうを下ろして、でもまだ離れたくないみたいに、ぽんぽんと肩を叩いた。

「そうだ。わしらもデートしよう、三郎。しゃぶしゃぶとたい焼きを食べに行こう」
「はいはい。時間があれば是非」
「よーし、約束じゃ。殿下、成人なるひともみんなも聞きましたな。わしもデートに出るぞ」

 じいじと三郎で出かけてもデートって言うのかな? 好きな人と出かけるのがデートだから、デートでいっか。

「はは。行ってこい。順番にデートに出たって何の問題もないさ。政巳まさみ、お前も水瀬みなせと行ってくるといい。他の者にも伝えておけ」
「ありがとうございます! 来てよかったです!」

 政巳まさみが、ぱっと笑った。

「はは。あの書類を見ても同じことを言えるか見ものだな」
「え。そんなに、ですか……。俺、役に立ちますかね?」
「ははは。行くぞ。大歓迎だ、全員な」

 緋色ひいろ、俺たちもまたデート行こうね。
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