【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

149 得難い宝  成人

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「よし、壱臣いちおみ。とっとと厨房へ行け。村次むらつぐ一人で俺たちの昨夜と今朝の飯を担当したようだからな。流石のあいつも疲れてるだろ」

 あ、そう? 街に出る前に厨房? 確かに、いくら村次むらつぐが威圧込みで掌握しているとはいえ、お城の厨房は広い。一人で色々するのは難しいって分かってた。でも、みんな忙しくて手伝いに行けなかったんだ。村次むらつぐなら何とかするだろ、って任せてたけど、そろそろ疲れてきたよね。
 目が届かない事が怖いからと、俺たちや鶴丸つるまるたちのご飯は全て、村次むらつぐが一人で作ったらしい。今朝のご飯もいつも通りで美味しかった。
 もともとのこのお城の料理人たちには、お城の使用人たちの分を作ってもらっているんだって。城から出た人も多いけど、残っている人も多いからね。捕まえて、城から出さない人もたくさんいる。皆、ご飯は必要。罪人だからってご飯をあげないとか、絶対駄目。
 そうだ。後で、捕まえている人たちがちゃんとご飯を食べているのか確認に行こう。お仕事も、できるならしてもらわないといけないし。
 使用人の中には、夜に家に帰ったまま、朝に仕事に来なかった人たちが大勢いたらしい。厨房の人も、戻らなかった人は結構いた。朝にまた来てくれた者たちこそ得難い宝や、と竹光たけみつは言った。大事にせななって。

村次むらつぐくんが疲れるなんて、相当や。うち、急いで来て良かったぁ」

 壱臣いちおみが、ふにゃと笑った。それを見て三郎さぶろうも、いつもの優しい顔になった。

「兄……んんっ、臣さまは無理して来んでええってだいぶお止めしたんやけど、やはりお連れして良かったです」
「うちかて、殿下と成人なるひとくんの役に立ちたいんよ。大丈夫。ちゃんと考えとる」
「はは」

 緋色ひいろも、嬉しそうに笑う。壱臣いちおみ、急いで来てくれてありがと。

「だが壱臣いちおみ、無理だけはするな。早急に、うちと領主一家の住まいを調達する予定だから、準備でき次第そちらに移れ」
「はい。お心遣い、感謝致します」

 壱臣いちおみは、ふわりと頭を下げる。

佐鳥さとり、町屋敷の調査を頼む。幾つか空く予定だ。水瀬みなせ鼓与こと、屋敷を調達次第、整えてくれ。それまでは、城の内部の大掃除。三郎さぶろう政巳まさみは書類部屋の掃除だ。半助はんすけ、とりあえず壱臣いちおみの側にいろ。壱臣いちおみの調子が戻らないようなら、一度街に出て名物料理でも食べて来い」
「はっ」

 半助はんすけは一度目を見開いて、深々と頭を下げた。佐鳥さとり水瀬みなせ鼓与ことは静かに頭を下げて、あっという間に居なくなった。

「良かったー。半助さんが壱臣さん付きで」

 城の中に向かって歩き始めたところで、力丸りきまるがぽそっと言った。
 
「ん?」
「俺、帰らされるかと思って、はらはらしたよ」

 あ。そういえば力丸は、半助の代わりの俺の護衛だったね。力丸は本当は、朱実あけみ殿下の近衛だ。西の国へ行く時は半助じゃない方がいいだろうって交代してきてたんだった。

「どうする?」
「は?」
「帰る?」
「ぜってえやだ。休み取ってもここにいる」
「あはは。休み取って仕事するの?」
「それでもいい。帰されてたまるか」

 そっか。そうだね。
 来るんなら、力丸もここに居ないとおかしいよね。
 
 
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