【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

144 仲良しなことは  成人

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 その日のうちに、壱鷹いちたか弐角にかく橙々だいだいは帰っていった。夕ご飯前だ。

「夜ご飯は一緒に食べない?」
「はい。本日の予定としては、ほんまは午前中に済んどるもんですから」

 外に準備された九鬼くきの印入りの車に向かいながら弐角にかくと話している。

「そっか」
「この辺りが、引き時です」
「引き時」
「これ以上いたら、色々と誤魔化しがきかないってことだ。お忍びじゃないのは面倒くさいな」
「誤魔化しがきかない」
「ああ。九鬼くき各務かがみと俺とお前の仲が世間に知れ渡ってしまう」
「ふーん?」

 仲。仲良しってこと? 仲良しってことが知られたら駄目なの? ええっと、世間? に? 俺たちが仲良しだなんて、皆知ってるんじゃないの?

「そうだな。俺と弐角にかくが少し特別な仲であると思っているものは多いだろう。朱実あけみの結婚式の時だったか、弐角にかくだけを特別にうちに招いたことは、大勢の前で公言したからな。あれは、皇国が誰を九鬼くきの後継と見ているのかを明らかにするために必要なことだった。俺たちが友人関係にあると言ったわけじゃない。皇国が九鬼くきの後継として支持している者を知らせたに過ぎない、と言ってしまえばそれで済む」
「うーん?」

 つまり、緋色ひいろ弐角にかくがすごく仲良しなことは知られない方がいいの? 仲良しなのに。

「難しいか? まあいい。こういう事は、はっきり分からないようにしておく方がいいとだけ覚えておけ。政治的な判断に私情が入っているんじゃないかと、痛くもない腹を探られるからな」
「んー」

 俺と鶴丸つるまるが仲良しなことは? 亀吉かめきちは?
 後ろから付いてきている鶴丸つるまる亀吉かめきちの方を振り返ると、ははっと緋色ひいろは笑った。

「お前はまあ、好きにしろ。俺とお前の婚姻が、皇族の血を増やさないための政略的なものだと考えている連中は誰もお前の動向を注視しない。そうではないと気付くような者なら、俺と弐角にかくの仲にも気付いているさ。もちろん、お前と仲の良い鶴丸つるまるが俺とも親しくなるのは当たり前だってこともな」
亀吉かめきち松吉まつきちも」

 仲良し。好き。

「はは。分かってる」

 弐角にかくのことも好きだ。弐角にかくといる緋色ひいろは楽しそう。楽しそうな緋色ひいろを見られるから、弐角にかくのこと好き。
 ……うん、何となく分かった。緋色ひいろ弐角にかく鶴丸つるまるが仲良しなことが知られないくらいの時間で帰らなくちゃならないってこと。夜ご飯まで一緒に食べたら仲良しなことが知られてしまうかもしれないから、夜ご飯は一緒に食べられない。うん。

「もう少し手伝えたら良かったんやけど……」
「上様」
「丸投げでほんま……」
「上様」

 壱鷹いちたかが話すことに静かに首を横に振る竹光たけみつ壱鷹いちたか竹光たけみつも多分仲良し。でも知られたら駄目。
 色々難しいけど、でも、仲良しになったことは良いこと、だよね。

玉鶴たまつるさま。名残惜しいです。また必ず会うてくださいますか。お訪ねしてもよろしいですか」
橙々だいだいさま。いつなりと」

 うん。良いことだ。

 
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