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第九章 礼儀を知る人知らない人
142 楽しいことを共有したい気持ち 成人
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玩具は色々あった。亀吉はまだ小さいから、字を読んで遊ぶような玩具は難しい。最初に喜んだのは、お人形のお世話。お人形を抱っこして揺らしたり、お腹をとんとんとして寝かせたりする。とても上手。寝かせたお人形にお布団をかぶせて、しーって口に指を当てる仕草がとても可愛くて、んんって声が出た。あれ? この声、聞いたことある気がするな。祈里や衣装部の人が俺を見て、たまに出してる声に似てる。可愛いものを見たら出る声? いや、まさかね。俺は子どもじゃないし、亀吉みたいに可愛いわけじゃない。
亀吉は、人形が、寝かせた姿勢にしたら目を閉じることに気付いて、何度も起こしたり寝かせたりを繰り返して笑った。ねんねー、って言いながら寝かして、おっきよーって言って持ち上げる。そのたんびに、人形の瞼は開いたり閉じたりした。すごいな、人形。俺の閉じたままの左目より優秀だ。
そのうち、服をせっせと脱がし始めた。西国の人形らしく着物を着ていたから、裸にするのは簡単だった。裸にしたら、本物の赤ちゃんと同じようにちゃんと胸やおへそがついていて、いっしょーって、亀吉が自分のお腹をめくって見せてくれた。
「ほんとだ。一緒。俺も一緒だよ」
「成人、大人は見せない」
俺もおへそと胸を亀吉に見せようと思ったら、すごい勢いで力丸に止められた。そうなの? じゃあ、やめる。俺、大人だし。
亀吉は、服を脱がせるのはすごく上手なんだけど、着せるのができない。やってって言うから、俺が片手で頑張って着物を着せていたのに、その間に違う玩具で遊び始めていた。もう人形はいいの? あっそう。裸じゃかわいそうだから、着物だけ着せとくね。
亀吉は次は、木でできた野菜や果物を手に取って、べりっ、べりっと二つに分け始めていた。ええー。何これ、面白い。食べ物二つに分けれるんだ。半分こ? あ、分けたの、またくっつく。あれ? 亀吉、りんごの半分とトマトの半分をくっつけちゃった。惜しい。似てるけどちょっと違う。大根と人参じゃ、色も違うよ? なんか新しい食べ物がたくさん出来上がってる。面白くて笑ったら、亀吉も一緒に笑った。
「これ、この包丁で切れるんじゃねえ?」
俺たちの一番近くにいる力丸が、木でできた包丁の形の玩具をみつけて、りんごとトマトが半分づつくっついている真ん中をざくっと切った。
おお。おおお。
今、ざくって音した。ざくって。
「本物みたいだ」
「すげ」
「かめ、やる。やる」
「亀吉さま、ぜひぜひ。これは面白いっすよ」
亀吉はその後、野菜や果物を切って切って切りまくった。俺と力丸は、上手ー、すごいーって拍手しながら、またもう一回亀吉が切れるように、切られた野菜と果物をくっつけまくった。亀吉は、真剣な顔でしばらく切っていた。あんまりにも真剣だから、楽しいのか心配になった。
「亀吉、楽しい?」
亀吉は真剣な顔のまま、うんうんって頷いた。それなら良かった。
「こういう玩具は、女の子が遊ぶもんやと決めつけてうちにはなかったけど、えらい楽しそうやな」
筆を置いて近づいてきた松吉と鶴丸が言った。
「ほんまや。亀、良かったなあ」
また、うんうんって頷いた亀吉が、すえーしは? って言った。
ん? なんて?
「すえーし」
「んん? 末良?」
「ん。すえーし」
「末良は末良のおうちにおるよ」
「いく?」
「へ? 行く? 末良のとこに?」
鶴丸が聞いたら、亀吉はうんうんと頷いた。
「そっか。面白い玩具見つけたから、末良に見せたなったか。でもなあ、今は行けんなあ」
「あとで?」
「そやなあ。また今度や」
「こんど」
亀吉が、がっかりしている。そうか。亀吉、友だちに見せたいくらい楽しかったのか。分かる。楽しいことは好きな人に教えたくなるよね。
今度、これ持って遊びに来て。すぐ来て。末良はこれ、絶対好きだと思うから。
亀吉は、人形が、寝かせた姿勢にしたら目を閉じることに気付いて、何度も起こしたり寝かせたりを繰り返して笑った。ねんねー、って言いながら寝かして、おっきよーって言って持ち上げる。そのたんびに、人形の瞼は開いたり閉じたりした。すごいな、人形。俺の閉じたままの左目より優秀だ。
そのうち、服をせっせと脱がし始めた。西国の人形らしく着物を着ていたから、裸にするのは簡単だった。裸にしたら、本物の赤ちゃんと同じようにちゃんと胸やおへそがついていて、いっしょーって、亀吉が自分のお腹をめくって見せてくれた。
「ほんとだ。一緒。俺も一緒だよ」
「成人、大人は見せない」
俺もおへそと胸を亀吉に見せようと思ったら、すごい勢いで力丸に止められた。そうなの? じゃあ、やめる。俺、大人だし。
亀吉は、服を脱がせるのはすごく上手なんだけど、着せるのができない。やってって言うから、俺が片手で頑張って着物を着せていたのに、その間に違う玩具で遊び始めていた。もう人形はいいの? あっそう。裸じゃかわいそうだから、着物だけ着せとくね。
亀吉は次は、木でできた野菜や果物を手に取って、べりっ、べりっと二つに分け始めていた。ええー。何これ、面白い。食べ物二つに分けれるんだ。半分こ? あ、分けたの、またくっつく。あれ? 亀吉、りんごの半分とトマトの半分をくっつけちゃった。惜しい。似てるけどちょっと違う。大根と人参じゃ、色も違うよ? なんか新しい食べ物がたくさん出来上がってる。面白くて笑ったら、亀吉も一緒に笑った。
「これ、この包丁で切れるんじゃねえ?」
俺たちの一番近くにいる力丸が、木でできた包丁の形の玩具をみつけて、りんごとトマトが半分づつくっついている真ん中をざくっと切った。
おお。おおお。
今、ざくって音した。ざくって。
「本物みたいだ」
「すげ」
「かめ、やる。やる」
「亀吉さま、ぜひぜひ。これは面白いっすよ」
亀吉はその後、野菜や果物を切って切って切りまくった。俺と力丸は、上手ー、すごいーって拍手しながら、またもう一回亀吉が切れるように、切られた野菜と果物をくっつけまくった。亀吉は、真剣な顔でしばらく切っていた。あんまりにも真剣だから、楽しいのか心配になった。
「亀吉、楽しい?」
亀吉は真剣な顔のまま、うんうんって頷いた。それなら良かった。
「こういう玩具は、女の子が遊ぶもんやと決めつけてうちにはなかったけど、えらい楽しそうやな」
筆を置いて近づいてきた松吉と鶴丸が言った。
「ほんまや。亀、良かったなあ」
また、うんうんって頷いた亀吉が、すえーしは? って言った。
ん? なんて?
「すえーし」
「んん? 末良?」
「ん。すえーし」
「末良は末良のおうちにおるよ」
「いく?」
「へ? 行く? 末良のとこに?」
鶴丸が聞いたら、亀吉はうんうんと頷いた。
「そっか。面白い玩具見つけたから、末良に見せたなったか。でもなあ、今は行けんなあ」
「あとで?」
「そやなあ。また今度や」
「こんど」
亀吉が、がっかりしている。そうか。亀吉、友だちに見せたいくらい楽しかったのか。分かる。楽しいことは好きな人に教えたくなるよね。
今度、これ持って遊びに来て。すぐ来て。末良はこれ、絶対好きだと思うから。
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