【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

132 優先順位  成人

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「じゃ、俺、お仕事行ってこよう」
「あ、成人なるひと、待て待て」
「んん?」
 
 ひと休みができたから、出入り口の手荷物調べの手伝いに行こうと思ったら、それより大切な仕事がある、と村次むらつぐに言われた。
 そうなの? でも俺、後で来るねってじいやに約束してしまったんだけど。約束は、したら守らないといけないんだよ。約束ってそういうものだって、青葉あおばが言っていた。

成人なるひとのひと休みが済んだら、殿下にお茶を運んでほしいって依頼が来てたんだ」
緋色ひいろのお願い?」
「そうそう」

 それは、そちらに行かないといけないな。緋色ひいろが呼んでるなら、何をおいても優先したい。いつだって、緋色ひいろの用事が俺の一番大事な用事だ。俺の用事より俺には大事。じいやの所は……うん、そうだ。後って言ったのだから、緋色ひいろの後に行ったのでいいかな。ひと休みの後の、緋色ひいろの用事の後。よし、それでいいや。じいや、ごめん。後の後で行くね。

「早くない?」

 力丸りきまるが言った。
 ん? 何が?

「それだけ、やることが立て込んでるってことじゃないかな。まあほら、な? そろそろこっちも」
「ああ、うん。そうだな。それがいいかも」
「え? なに?」

 なんか、二人だけで何か伝え合ってる?

「いいや、なんでもない。お盆は俺が運ぶから、成人なるひとは殿下に渡す役目を頼む」
「あ、うん」

 そうか。ここ、カートがないから、俺が自分でお茶を運べない。緋色ひいろの好みの熱さのお茶が入った湯呑みなんて、熱くて手で持ち運べないんだよなあ。お盆に一つだけ乗せて運んでもいいんだけど、片手でお盆を運ぶのってなかなか難しい。ずれて動くから落としそうになる。両手で持てたらいいんだけど、それは一生できないしね。できないことをしたいって言っても仕方ない。
 そうだ。上に乗せたものがずれにくいお盆とか、誰か作ってくれないかな。そうしたら、末良すえよしがどうしても自分で運びたいって言ったときにも、落としたりこぼしたりせずに運べるんじゃない? いいな。こういうのって、誰に言えばいいんだろ。料理のことなら料理人、衣装のことなら衣装部って分かるんだけど、これは分からないな。お盆を作る係も、きっとどこかにいるんだよね。そう考えると面白い。後で緋色ひいろに聞いてみよう。

「行くぞ、成人なるひと
「はーい。村次むらつぐ、ごちそうさま」
「こちらこそ。お土産ありがとう」
「へへー。作ってほしかったから」
「はは。いつも言ってるけどな、成人なるひと。俺は、一回食べたり見たり聞いたりしただけじゃ作れないからな」
「ええー?」

 大丈夫でしょ。
 たい焼きはさ。たこ焼きみたいに専用の焼き型とかいりそうだけど、しゃぶしゃぶはもう作れるでしょ。
 さっき、ぶつぶつ言ってるだけでほとんどできてたし。
 俺、いつも美味しいもの食べれて幸せだよ。
 
「また買ってくるから、作ってね」
「ん。頑張るわ」

 今日も幸せ。
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