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第九章 礼儀を知る人知らない人
111 あれ? 成人
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「選ぶんは、あんたさんやないさかい」
そう言って、きらきらの着物の人は笑った。
「うちらは、殿方に選んでもらうお仕事」
上に羽織っている着物を少し肩からずらして首を傾けると、綺麗に結い上げた髪と白い首筋が見えた。結い上げた髪には、たくさんの髪飾りが揺れている。そのまま、きらきらの着物の人は、ちらり、ちらりと玉鶴と俺の後ろへ視線をやった。
「そやろ?」
「私は、そんな仕事に就いたことはないんやけど」
玉鶴は、いつもの顔と声で言う。
「選ばれると思っとんやったら、やってみ?」
すっ、と玉鶴は脇に避けた。
俺も、玉鶴と一緒に脇に移動する。じいやも、真中だった人の腕を引いて、俺たちと同じように脇に移動した。俺たちが避けたら、戸の向こう側がよく見える。
戸を開けたすぐ向こうには、亀吉を抱いた松吉と鶴丸、竹光が見えた。すぐに対応できる位置に那月と香月、まだ名前を聞いていない竹光の護衛がいる。玉鶴の護衛は部屋の中。気配が薄いから、じいやと同じであまり認識されてはいないみたいだった。
「まあ。新しい奥様は随分と気前の良い……」
「げ。なんや、玉鶴」
前が見えるようになったのは、竹光たちも一緒だ。
きらきらの着物の人が、ちょっと嫌な風に笑った顔で玉鶴に何か言い終わる前に、竹光が、げって言った。げ?
「なんや、てなんです?」
「急に避けるから、びっくりするやないか。なんや、この礼儀も知らん女は」
「聞いとらんかったんですか、殿?」
玉鶴の目が、すうっと細くなる。
「ん? あ、いや、聞いとらんかったいうか、その、なんや。うん、聞いとったけど、耳には入っとらんかったいうかやな。うん、ほら、あれや。昼ご飯、何食べよかなって考えとったから、よう聞いてなかったというか」
聞いてなかったんだね。
「何のために前に出とるんですか、あなたは」
「まあ、ほら。お前が出とるんやから、何も心配いらんやろ」
それはそう。
「ほなら、待ち時間に次の楽しみを考えるやろ。久しぶりのお出かけやし。な? 目一杯、楽しいデートにしたいやろ」
デート?
竹光、玉鶴と二人でご飯食べに行くつもりだったの?
「デートて……」
「デートやで。行くやろ?」
「行くけど」
「え?」
え? って言ったのは俺だけじゃなかった。
「父上と母上、何、二人で街に下りようとしとるんです? 殿下方や上様方、うちらもおるんですよ、今日」
鶴丸の言葉に、竹光は、ふいと横を向いた。
「別に、ぞろぞろ皆で行かんでもええやろ。こんな大勢がいっぺんに入れる店、そんな無いやろし。夜には、ここの厨房で殿下のとこの料理人が作ってくれるもん、食べるんやろ? 昼くらい好きにしてもええやん」
そっか。うん、いいかも。
俺も、緋色とデートしたい!
……あれ? 今、何の話をしてたんだっけ?
そう言って、きらきらの着物の人は笑った。
「うちらは、殿方に選んでもらうお仕事」
上に羽織っている着物を少し肩からずらして首を傾けると、綺麗に結い上げた髪と白い首筋が見えた。結い上げた髪には、たくさんの髪飾りが揺れている。そのまま、きらきらの着物の人は、ちらり、ちらりと玉鶴と俺の後ろへ視線をやった。
「そやろ?」
「私は、そんな仕事に就いたことはないんやけど」
玉鶴は、いつもの顔と声で言う。
「選ばれると思っとんやったら、やってみ?」
すっ、と玉鶴は脇に避けた。
俺も、玉鶴と一緒に脇に移動する。じいやも、真中だった人の腕を引いて、俺たちと同じように脇に移動した。俺たちが避けたら、戸の向こう側がよく見える。
戸を開けたすぐ向こうには、亀吉を抱いた松吉と鶴丸、竹光が見えた。すぐに対応できる位置に那月と香月、まだ名前を聞いていない竹光の護衛がいる。玉鶴の護衛は部屋の中。気配が薄いから、じいやと同じであまり認識されてはいないみたいだった。
「まあ。新しい奥様は随分と気前の良い……」
「げ。なんや、玉鶴」
前が見えるようになったのは、竹光たちも一緒だ。
きらきらの着物の人が、ちょっと嫌な風に笑った顔で玉鶴に何か言い終わる前に、竹光が、げって言った。げ?
「なんや、てなんです?」
「急に避けるから、びっくりするやないか。なんや、この礼儀も知らん女は」
「聞いとらんかったんですか、殿?」
玉鶴の目が、すうっと細くなる。
「ん? あ、いや、聞いとらんかったいうか、その、なんや。うん、聞いとったけど、耳には入っとらんかったいうかやな。うん、ほら、あれや。昼ご飯、何食べよかなって考えとったから、よう聞いてなかったというか」
聞いてなかったんだね。
「何のために前に出とるんですか、あなたは」
「まあ、ほら。お前が出とるんやから、何も心配いらんやろ」
それはそう。
「ほなら、待ち時間に次の楽しみを考えるやろ。久しぶりのお出かけやし。な? 目一杯、楽しいデートにしたいやろ」
デート?
竹光、玉鶴と二人でご飯食べに行くつもりだったの?
「デートて……」
「デートやで。行くやろ?」
「行くけど」
「え?」
え? って言ったのは俺だけじゃなかった。
「父上と母上、何、二人で街に下りようとしとるんです? 殿下方や上様方、うちらもおるんですよ、今日」
鶴丸の言葉に、竹光は、ふいと横を向いた。
「別に、ぞろぞろ皆で行かんでもええやろ。こんな大勢がいっぺんに入れる店、そんな無いやろし。夜には、ここの厨房で殿下のとこの料理人が作ってくれるもん、食べるんやろ? 昼くらい好きにしてもええやん」
そっか。うん、いいかも。
俺も、緋色とデートしたい!
……あれ? 今、何の話をしてたんだっけ?
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