【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

109  真っ平ごめん  成人

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「こちらにいらっしゃるのは、皇国の皇子妃殿下です」

 玉鶴たまつるの柔らかい声。
 そうそう。俺、そんな風に紹介されることが多い。緋色ひいろの伴侶ってことなんだよね。ふふ、そうです。緋色ひいろの伴侶です。
 怖がった様子のまま俺の方を見ていた人たちが、玉鶴たまつるが話し出して、ほうっと息を吐いていた。あれ? 俺も怖かった? 俺、玉鶴たまつるより小さいよ? 今はまだ。
 泣き出しそうだった子どもの一人は、何でか泣き出しちゃった。
 あ、そうか。忘れてた。俺の左腕が半分しかないこと。左の目が開いてないこと。人と違う見た目は、初めて会う人に何だか怖いって思われること。
 家にも外にも仲良しの人が増えて、誰も、俺の見た目に何にも言わなくなって、末良すえよし亀吉かめきちは、はじめから俺と仲良しだったから、俺も怖い人の一人だって忘れちゃってたんだ。大きさや気配よりもっと分かりやすい怖いとこ、俺にもあったんだったなあ。

「俺、怖かったか。ごめん」
「いえいえ、成人なるひと殿下」

 玉鶴たまつるは、子どもが泣き出しても気にしてなかった。にこにこと笑った顔で、緋色ひいろの所に戻ろうとした俺を止めた。

「あの子は、緊張が解けただけですよ。大丈夫」

 俺が怖かったのじゃなく?
 玉鶴たまつるが頷いてくれたから、もう少しそこに居ることにした。

「あんたが、ここの新しい主言うことか?」

 さっきから口を開いていた、きらきらの着物の人が言った。

「いいえ」

 玉鶴たまつるは、ニコニコのままだ。

「真っ平ごめんやわ」
「……っ」
「私は確かに主にはなるけど、こんなとこの管理はようしません。この場所は、もう無くなります」
「な……!」
「ところで、あんた方は一体なんの集まりなんです?」
「伴侶だって」
「なんとまあ、では貴方が? 他の方々は?」
「うちらは皆、上様の妻です」

  やっぱり皆なんだ。そして、上様じゃないって教えたのに、また上様って言ったなぁ。

「なんとも理解しがたい事やけど、まあそうとして、あんた方の旦那さんはこの城の主では無くなりました。名字もうしのうた、ただの平民となっとります。城を出ていかなあかんので、大急ぎで荷物をまとめて貰えますか?」
「は……?」
「え……?」
「協力しあって、暮らしていってください。あ、そやった。罪を犯した旦那さんは、この後、罰を受けなあかんから一緒には行かれへんのやった。旦那さんが罪を償い終えるまで、どこぞで暮らしを立てて待っといてあげてな」

 目を見開いたきらきらの着物の人は、急に立ち上がった。

「離縁をお願い致したく!」
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