【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

106 上様の反対の言い方  成人

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 開けたらあかんって真中まなかだった人に言われた戸をじいやが開けると、がらがらと鈴が鳴った。誰かが戸を開けると、中の人に分かる仕組みだ。奥の方から、女の人たちがばたばたと歩いてくる。
 じいやが、ぐいっと真中まなかだった人を中へ入れた。俺たちは、開けた戸をまたがずにお待ちください、と止められた。

「上様!」

 先頭で歩いてきた、きらきらと派手な色の着物を着た人が言って、俺たちは壱鷹いちたかを見た。鶴丸つるまる竹光たけみつ、九鬼のお城の人たちが、壱鷹いちたかのことをそう呼ぶことを知っているから。西国の一番上の人だから上様。分かりやすい。
 壱鷹いちたか殿とのって呼ぶ人もいる。殿とのは、竹光たけみつ真中まなかだった人もそう呼ばれてたから、領主の呼び方なんだろう。壱鷹いちたかは、殿とのでもあるし上様でもある。呼び方がいっぱいあるのは、それだけ仕事が多くて大変ってことだ。朱実あけみ殿下も、名前の他に皇太子殿下って呼び方があって忙しいってことを、俺はもう知っている。
 この人たち、壱鷹いちたかの知り合い? でも、今、前に出ているのは真中まなかだった人とじいやだ。じいやが開けた、音の鳴る戸の前には、竹光たけみつ鶴丸つるまるとその護衛たち。その後ろに緋色ひいろと俺と常陸丸ひたちまる力丸りきまるが立っている。そのもっと後ろに壱鷹いちたか弐角にかくと護衛。広間にいた西中さいちゅう国の人たち。それから、玉鶴たまつる松吉まつきちとその腕の中で寝ちゃった亀吉かめきち橙々だいだいと護衛。
 この並びだと、上様って呼んだ人たちには壱鷹いちたかは見えてないんじゃないかなあ。何で壱鷹いちたかに呼びかけたんだろ。
 きらきらの着物を着た人とその後ろについてきた人たちが、真中まなかだった人の前で慌てて平伏した。子どもを連れてる人もいた。

「先触れも無しのお越しとは如何なされましたか?」

 そう言ってから頭を上げて、きゃあ、と悲鳴を上げた。

「あ、あの、その、う、上様……? う、後ろの方々は……?」

 ん? あれ?

「何で真中まなかだった人が上様?」
「勝手にそう呼ばせてたんだろ」
「ええ?」

 上様ってのは、勝手に名乗っちゃ駄目じゃない? 一番上が何人もいたら大変だ。

「上様は壱鷹いちたかだけ」
「全くもってその通りだな」
「下様にする?」

 真中まなかだった人は、ここでは一番下になったんだから、上様の反対で下様。どう?

「様もいらん」
「下?」
「くくっ。そうだ」
「何か変なの」
「ふ、くっ。いいじゃないか」
「いいか」

 分かりやすくていいかも?
 緋色ひいろは俺の肩に顔を埋めて、くつくつと楽しそうに笑った。

 
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