【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

89 道行、ふたたび  成人

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「おお。きらきらだ」
「きあきあ」
「光ってるね」
「ひかってーね」

 西中さいちゅう国のお城は、九鬼くきのお城みたいに大きくて、色んな所がきらきらと光っていた。屋根の上にも門の上にも飾りがあって、明るい色で塗られている。お城の正面の道を、のろのろと進んでいく車の中からよく見えた。同じ車にいる亀吉かめきちにも見えたみたいで、俺と同じことを言った。同じこと思ったのかな。それとも、俺の真似してるのかな。可愛い。
 隣の国へ行くぞ、と緋色ひいろが言って、西賀さいか国を出発して車で走ってきた。隣っていうからすぐかと思ったら遠かった。この前、西賀さいか国の端っこの村が襲われているのをたまたま助けて、ちょっと隣へ賊を渡してくる、と出かけた緋色ひいろの帰りが遅かったのは、こういう訳だったのか。隣って言っても、お城のある所からお城のある所へ行くのは遠いんだな。
 西賀さいか国で、二日くらいのんびりと遊んでた。山に散歩に行ったり、畑を見せてもらったりした。鍛錬を見るのもとっても楽しかった。剣舞できる人がたくさんいて凄かった。皆、じいじと手合わせしたがった。
 亀吉かめきちと一緒にあっちにもこっちにも行った。もちろん、緋色ひいろも一緒に。
 皆、にこにこしてお出迎えしてくれた。寒いから、あまり長い時間、外にはいられなかったけど。お城の中を探検するのも楽しかった。
 隣の国へは、皆で来た。護衛の常陸丸ひたちまる力丸りきまるが俺と緋色ひいろと一緒なのは当たり前だけど、今日はじいじと村次むらつぐも一緒だ。じゃんけん無しだった。じいやは、最近見てないからどこにいるか分からないんだけど、一ノ瀬が二人見えてる。
 西賀さいかの人たちも、じゃんけん無しで皆来た。鶴丸つるまるたちだけじゃなくて、竹光たけみつ玉鶴たまつるも来たんだ! 二人は、国から出るのは家督を継いでから初めてだって喜んでいた。若い頃は、二人で西中さいちゅう国の都へ遊びに来たりもしていたらしい。久しぶりに、西中さいちゅう国のお店で食事がしたいって楽しみにしてた。食事が美味しいんだって。俺も一緒に食べたい。
 この前ここに来た緋色ひいろがお土産に買ってきてくれた、大判焼きが美味しかった。あんこじゃなくて、柔らかいプリンみたいなあんが入ってた。大きいから、亀吉かめきち村次むらつぐと三人で分けっこして食べた。力丸りきまるは、ご飯の前なのに一つペロリと食べちゃった。すごく美味しかったから、きっと離宮に帰ってから村次むらつぐが作ってくれる。楽しみ。
 俺たちも、西賀さいか国の人たちも皆、それぞれの国の正装を着ている。弐角にかくの結婚式の時みたいに。
 街へ入った後も、弐角にかくの結婚式で西宗さいそう国のお城へ向かった時と同じだった。他の車が走っていない大きな道をのろのろと走る。車に付いている緋色ひいろの印は小さくて見えないけれど、誰が乗っているのかは皆知っているみたい。
 道の端に、たくさんの人が立っているのも、あの時と一緒だった。雨が少し降っていて寒いのが、あの時と違う。傘を差しているから、手を振っても見えにくい。
 皆、風邪をひく前に帰ってね。
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