1,123 / 1,321
第九章 礼儀を知る人知らない人
80 賊というなら 緋色
しおりを挟む
「こんな大勢を収容するような場所、うちには無いんやけど」
「捕まえたはええけど、どうしよ」
生け捕りにした賊の数が想像より多くて、鶴丸と松吉が途方に暮れている。
平和な領地だったようだ。まあ、領主一族を見ていたら自ずと分かることだが。
「一応、聞いてみよか。なあ、こんな田舎の端っこの村に、何目当てで来たん? 収穫期も済んで、奪うもんもあんまり無いんやけど」
「見ての通り、食いっぱぐれの集まりや。何ぞ腹に溜まるもんか、金品を頂こう思て来たに決まっとる」
剛毅にも、一人が口を開いた。そう言えと仕込まれてきたか。口上は、なかなかにすらすらと出てきた。
「そういう賊はな。今まで必ず西中国側に行きよったんやけど」
「どこへ行こうと、うちらの勝手や」
「まあ、そやな」
西賀国の特産の葡萄の収穫期は終わった。この後の季節は、どこの国でも同じように育つ野菜を育てるだけだ。それもまだ収穫期を迎えていない。この者たちが賊だと言うなら、人の少ない西賀国側の外れの村を襲って得るものが少な過ぎる。それなら、もう少し人の数の多い西中国の外れの村を襲う方が身入りがいい。小さな森を挟んですぐの場所に存在するのだから、わざわざ身入りの少ない側を襲うなどおかしいといえる。実際、これまでずっとそうであったようだ。だいたい、普段、山から下りてくる獣を相手にしている西賀国の警備隊は手強い。派手に襲ったところで、返り討ちにあうのがオチだ。
まあ、どこを襲おうと勝手だと言われれば、その通りではあるのだが。
「迷いなく、西中国の中を進んでおります」
一ノ瀬の手短な報告の声が響き、周囲にはがっかりとした空気が漂った。
西賀と皇国の連絡役を担っているという一ノ瀬相間が、荘重から言伝てを頼まれて素早く戻ってきたものらしい。よく道を知る者が全力で駆けてきたので相当に速い。こちらは、大量の賊を一人ずつしっかりと縛り終えたばかりだ。
両手を縛って転がした者たちからは、息を呑む音が聞こえた。
「躾がなってねえなあ」
「いや。躾がなってるんじゃねえっすか?」
「ああ。ちゃんとお家に帰ったから?」
「そうそう」
力丸の合いの手に、ははと笑いが起こった。転がる者たちは、ぞわりと体を震わせたようだが。
「西中国の者やな」
鶴丸の言葉に返事はない。返事があると思ってはいないので、特に思うところもない。逆に、返事があったら驚いたかもしれんな。
「えらいことしてくれたで。たまたま、皇国から緋色殿下と妃殿下がお忍びで西賀国に遊びに来られとる時に襲撃やなんて」
「偶然、視察していた村が襲われたなど、驚きだな」
「ほんまです。誰もお怪我が無うて良かったです」
「子どもを連れている時にあんな事があるとは物騒だ」
「いやー、殿下。こんな賊やなんて、うちの辺りに出ること無かったんですけどねえ。あ、賊やなかったか」
早めに口を割る方が身のためだぞ。
うちの伴侶と友人の子どもが屋敷で待っているからな。早く帰りたいと気が急いて、少々手荒になってしまうかもしれん。
「捕まえたはええけど、どうしよ」
生け捕りにした賊の数が想像より多くて、鶴丸と松吉が途方に暮れている。
平和な領地だったようだ。まあ、領主一族を見ていたら自ずと分かることだが。
「一応、聞いてみよか。なあ、こんな田舎の端っこの村に、何目当てで来たん? 収穫期も済んで、奪うもんもあんまり無いんやけど」
「見ての通り、食いっぱぐれの集まりや。何ぞ腹に溜まるもんか、金品を頂こう思て来たに決まっとる」
剛毅にも、一人が口を開いた。そう言えと仕込まれてきたか。口上は、なかなかにすらすらと出てきた。
「そういう賊はな。今まで必ず西中国側に行きよったんやけど」
「どこへ行こうと、うちらの勝手や」
「まあ、そやな」
西賀国の特産の葡萄の収穫期は終わった。この後の季節は、どこの国でも同じように育つ野菜を育てるだけだ。それもまだ収穫期を迎えていない。この者たちが賊だと言うなら、人の少ない西賀国側の外れの村を襲って得るものが少な過ぎる。それなら、もう少し人の数の多い西中国の外れの村を襲う方が身入りがいい。小さな森を挟んですぐの場所に存在するのだから、わざわざ身入りの少ない側を襲うなどおかしいといえる。実際、これまでずっとそうであったようだ。だいたい、普段、山から下りてくる獣を相手にしている西賀国の警備隊は手強い。派手に襲ったところで、返り討ちにあうのがオチだ。
まあ、どこを襲おうと勝手だと言われれば、その通りではあるのだが。
「迷いなく、西中国の中を進んでおります」
一ノ瀬の手短な報告の声が響き、周囲にはがっかりとした空気が漂った。
西賀と皇国の連絡役を担っているという一ノ瀬相間が、荘重から言伝てを頼まれて素早く戻ってきたものらしい。よく道を知る者が全力で駆けてきたので相当に速い。こちらは、大量の賊を一人ずつしっかりと縛り終えたばかりだ。
両手を縛って転がした者たちからは、息を呑む音が聞こえた。
「躾がなってねえなあ」
「いや。躾がなってるんじゃねえっすか?」
「ああ。ちゃんとお家に帰ったから?」
「そうそう」
力丸の合いの手に、ははと笑いが起こった。転がる者たちは、ぞわりと体を震わせたようだが。
「西中国の者やな」
鶴丸の言葉に返事はない。返事があると思ってはいないので、特に思うところもない。逆に、返事があったら驚いたかもしれんな。
「えらいことしてくれたで。たまたま、皇国から緋色殿下と妃殿下がお忍びで西賀国に遊びに来られとる時に襲撃やなんて」
「偶然、視察していた村が襲われたなど、驚きだな」
「ほんまです。誰もお怪我が無うて良かったです」
「子どもを連れている時にあんな事があるとは物騒だ」
「いやー、殿下。こんな賊やなんて、うちの辺りに出ること無かったんですけどねえ。あ、賊やなかったか」
早めに口を割る方が身のためだぞ。
うちの伴侶と友人の子どもが屋敷で待っているからな。早く帰りたいと気が急いて、少々手荒になってしまうかもしれん。
507
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる