【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

78 たまたまそこに居ました  成人

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「全員、生け捕りにしろ。いいか、だぞ」
「はいはい、殿下。分かってますって。まったく、簡単に言ってくれる。生け捕りが一番難しいんだっての」
「でも、兄上。基本的には人は殺しちゃいけないんだから、それしかなくない?」
「馬鹿、力丸りきまる。撃退って方法もあるだろうが。適当に脅かして追い払えたら、そっちの方が楽じゃないか」
「それ、また来るじゃん」
「また来ようと思うような脅かし方するかよ」

 戦場にいた時のような気配を出して常陸丸ひたちまるが言った。力丸りきまるが、怖ぇって首を縮めた。

「足の腱切るとか有り?」
「治療が面倒くさいから無し」
「えええ?」

 力丸りきまる、それ、前に怒られたやつだ。ほら、屋敷でさ。かくれんぼだっけ? いや、鬼ごっこだったっけ? 敵をたくさん捕まえた方の勝ちって俺と力丸で遊んだ時にさ。動けないように敵の足の骨折ったり、足の腱を切ったりしたら、二人とも怒られたやつだよ。
 殺したら駄目、大怪我をさせたら駄目って約束を守ったつもりだったのに、大怪我をさせたなって怒られた。あんなの、命に別状ないしそのうちちゃんと治るし大怪我じゃない、と俺は思うんだけど。力丸りきまるも同じこと言ってた。そしたら、次やる時は治療の大変な怪我をさせたら駄目だ、って言われた。なるほど? 治療が大変な怪我をさせると後で生松いくまつが大変だから駄目だ、ってのは理解した。生松いくまつ、ごめん。
 そうすると、本当に難しい。まあ、簡単にできちゃう事より、そのくらいの条件付きの方が楽しくなるかもしれないけど。いいなあ。俺もやりたい。

「殿下と成人なるひとはここに居てくださいよ」
「いや。偶然たまたま、お忍びで西賀さいかに遊びに来ていたら、賊に襲われてる村を見つけたなんて場面に遭遇したんだから、しっかり隠れてんのはおかしいだろ」
「ああ、そうですか」
「ああ。ふーん。へええ」

 常陸丸ひたちまる力丸りきまるは、そっくりな顔で緋色ひいろを見てから、飛び出していった。

「ま、いいや。お好きにどうぞ。どこまで出てきたって、殿下を危険な目には合わせませんよ」
成人なるひと。殿下の前に出んなよ」

 鶴丸つるまる松吉まつきちと護衛たちはとっくに応戦中。俺たちは、たまたま遊びに来てて一緒に居ただけだから、ちょっと様子見てから加勢。ふんふん、なるほど?

「かっくいー」

 亀吉かめきちが、目をきらきらして見てる。結構動きが速いのに、見えるのかー。動体視力がいいな。

「格好良いねえ。皆、強いねえ」

 西中さいちゅう国との国境くにざかいの村を俺たちが視察してたのは、たまたま。そんな時に、村が賊に襲われたのもたまたま。賊を捕縛したのもたまたまだ。
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