【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

53 次の約束  成人

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 松吉まつきちに聞いてみた。

「美容液のお店、行く?」
「行きたいです! めっちゃ行きたいです!」

 おお。ちょっとびっくり。やっぱり髪の毛、大事なのか。
 
「あ。驚かせてしもてすみません。うちの領地、田舎すぎて美容液の専門店って無いんです。けど、髪の毛の手入れはせんなんから、美容液を他所の領地から持ってきてもろてます。匂いがあんまり好きやないなーって思ても、持ってきてもろた品からしか選べんし、何やどんどん割高になっていっとって。うちの領地の者は、面倒くさいし金がかかってかなん言うて、髪の毛を短く切る者も増えてきとるくらいなんです。うちらも最近は、最低限の手入れでええかって言うてたくらい。けど、こうして領地の外に出る機会が増えたらそうもいかへんし、またしっかり手入れせななと思てた所です。美容液の専門店、行きたかった。まさか、皇国にあるとは思わへんかったなあ」

 お、おお。 じゃ行こう。すぐ行こう。

「皇国の方は髪の毛が短い方も多いし、そんなに手入れしはらへんとお聞きしとったんですけど、美容液は売れとんですか?」

 歩きながら、松吉まつきち緋色ひいろに聞いている。松吉まつきち亀吉かめきちを抱っこして、すたすた歩く。俺も、松吉まつきちを案内しようと大急ぎで足を動かしていたら、笑った緋色ひいろに抱っこされた。本当は自分で歩きたかったけど、亀吉かめきちがいっしょって喜んでたし、松吉まつきち、早く美容液のお店に行きたいのかなーって思ったからそのままにした。
 緋色ひいろに呼ばれて何か言われた半助はんすけは、すごい速さで走っていった。先触れ? 先触れなら商店街にもう来てるから大丈夫だと思うけど。清さんがぴしっと立って待ってたの、ちょっと面白かった。美容液の店の店主は、先触れが無くてもいつもぴしっとしてるから、もう一回先触れしなくても大丈夫。あ、でも、そうか。お客さんが、たくさんいるかもしれない。美容液の店はいつも手入れの予約がいっぱいで、予約するのが大変って壱臣いちおみ乙羽おとわ赤璃あかりさまも言っていた。

「美容液のお店は、予約がいっぱい」
「お手入れもできるんですか?」

 俺が頷くと、松吉まつきちがまたびっくりしたような声を出した。

「予約する?」
一月ひとつき後とかに予約できるんなら、予約してください! また来ます」

 また来てくれる? それは俺も嬉しい!

 
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