【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

52 お肉屋さんは話し好き  成人

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 鶴丸つるまる那月なつきを清さんの所に残して、俺たちは先に進むことになった。鶴丸つるまるは、さっきの難しい話をもう少し詳しく清さんとしてから追いかけて来るらしい。清さん、大丈夫かな。今日はあんまり喋ってなかったけど。ちょっと困った顔で俺の方見てた。でも、俺が残っても、難しいことはちっとも分からないから、全然助けられない。ごめん、清さん。
 俺たちが、次のお店に行くねって清さんにバイバイして歩き出したら、じいやが鶴丸つるまるの横に立ったからきっと大丈夫。清さんとじいやは顔見知りだし、多分じいやが助けてくれる。
 ちょっと歩いて、玩具屋さんに入った。俺はあんまり入ったことない狭いお店。色んな玩具の箱が、狭い店の棚にたくさん積んであって、少しでも触ったら崩れてきそう。分かってる人しか、どこにどんな品物が置いてあるか分からないようなお店だから、俺が入っても全然分からないんだよね。

「ここが玩具屋か」
「そうみたい」
「……」

 緋色ひいろは、店の中を少し見渡しただけですぐに外に出た。俺も一緒にすぐ出る。店の人はいつも通り、何も言わずに座ってるだけだった。いつも、店に入った時に頭を下げるだけなんだ。何にも喋らないから名前も知らない。

「置くとこないよ」

 鶴丸つるまるたちの積み木は玩具だから、売るなら玩具屋さんだよね。でも、ここはいつも物でいっぱいで置く場所がない。そうだな、と呟いた緋色ひいろは、少しだけ考えた。

「お前がよく買い物に行くのはどこだ?」
「駄菓子屋さんと雑貨屋さん」

 買い物するのは、やっぱりその二つ。初めて行った時から、何回行っても飽きないし、何回行っても欲しい物が出てくる。

「そういえば……その二つは兄上の持ち物だったな」
「え? 何?」
「いや、何でもない。簡単な話だった。雑貨屋行くぞ、雑貨屋」
「え? ちょっと待って。俺、金物屋行きたい」
「は?」
「ちょっと源さんにお話」
「源さん? 壱臣いちおみの育て親は入院中だろ」
「違う。違う源さん」
「その辺によくある名前なのか?」
「何で俺に聞くんすか? 知りませんけど?」

 いつも通り緋色ひいろの近くにいた常陸丸ひたちまるが言った。

「そんな事より、二人とも。お客さんをご案内していることを忘れてないっすか?」

 あ、そうだった。
 きょろ、と探すと玩具屋さんのお向かいのお肉屋さんで、松吉まつきちが揚げたてのコロッケをもらっていた。いつの間にかお肉屋さんと仲良くなってる。にこにこでお肉屋のばあさんとお話してる。

「西の方ですか?」
「あ、はい。よう分かってやねえ」
「すぐ分かりましたよ。壱臣いちおみさんと話し方が似てますからねえ」
「あれ? 壱臣いちおみさまのお知り合いで?」
壱臣いちおみさんね、ここの商店街の仲間ですよ。ほんの少しだけど、この商店街でお店出しててねえ。だし巻き玉子がそりゃもう美味しかったんよ」
「へええ。そうなんや」
「まあ、でも、私たちには食べつけない味付けだから、あんまり流行らないままに店を畳んじゃってねえ。皆で心配してたけど、今は成人なるひとちゃんのとこでお仕事してるっていうからね。安心ですよ」

 松吉まつきちは、にこにこ笑ってお肉屋のばあさんの話を聞いている。ばあさんはお話が大好きだから、コロッケを売りながらいつもずっと誰かと喋ってるんだ。俺も、通りかかるといつも少しお喋りする。コロッケは、買わないしもらわないけど。前に、もらって食べてお腹が痛くなったから、ご飯の時間じゃない時に食べるのはやめた。すごく美味しいから残念だけど、ちょっと俺のお腹には合わないんだって生松いくまつが言っていた。絶対に駄目な訳じゃなくて、そのうち食べても大丈夫になるかもしれないって言ってたから、大丈夫になったら買って食べようって決めている。その時はばあさんは、喜んでまたたくさん喋るかもしれない。
 今日は商店街にお客さんが全然歩いていないから、ばあさんは喋る相手がほしかったんだろうな。お喋りが止まらない。

壱臣いちおみさんは髪の毛の美容液の店に定期的に通ってるって言って顔を見せてくれるから、今も元気な姿を見られて、本当に良かったと思ってるんですよ。あの店の人たちも西の訛りがあるから、私たちもすっかり西の訛りに慣れてしまってねえ」
「髪の毛の美容液のお店? そんなんあるんですか?」

 あれ? 松吉まつきちの声が大きくなった。髪の毛の美容液のお店、行きたい?
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