1,095 / 1,321
第九章 礼儀を知る人知らない人
52 お肉屋さんは話し好き 成人
しおりを挟む
鶴丸と那月を清さんの所に残して、俺たちは先に進むことになった。鶴丸は、さっきの難しい話をもう少し詳しく清さんとしてから追いかけて来るらしい。清さん、大丈夫かな。今日はあんまり喋ってなかったけど。ちょっと困った顔で俺の方見てた。でも、俺が残っても、難しいことはちっとも分からないから、全然助けられない。ごめん、清さん。
俺たちが、次のお店に行くねって清さんにバイバイして歩き出したら、じいやが鶴丸の横に立ったからきっと大丈夫。清さんとじいやは顔見知りだし、多分じいやが助けてくれる。
ちょっと歩いて、玩具屋さんに入った。俺はあんまり入ったことない狭いお店。色んな玩具の箱が、狭い店の棚にたくさん積んであって、少しでも触ったら崩れてきそう。分かってる人しか、どこにどんな品物が置いてあるか分からないようなお店だから、俺が入っても全然分からないんだよね。
「ここが玩具屋か」
「そうみたい」
「……」
緋色は、店の中を少し見渡しただけですぐに外に出た。俺も一緒にすぐ出る。店の人はいつも通り、何も言わずに座ってるだけだった。いつも、店に入った時に頭を下げるだけなんだ。何にも喋らないから名前も知らない。
「置くとこないよ」
鶴丸たちの積み木は玩具だから、売るなら玩具屋さんだよね。でも、ここはいつも物でいっぱいで置く場所がない。そうだな、と呟いた緋色は、少しだけ考えた。
「お前がよく買い物に行くのはどこだ?」
「駄菓子屋さんと雑貨屋さん」
買い物するのは、やっぱりその二つ。初めて行った時から、何回行っても飽きないし、何回行っても欲しい物が出てくる。
「そういえば……その二つは兄上の持ち物だったな」
「え? 何?」
「いや、何でもない。簡単な話だった。雑貨屋行くぞ、雑貨屋」
「え? ちょっと待って。俺、金物屋行きたい」
「は?」
「ちょっと源さんにお話」
「源さん? 壱臣の育て親は入院中だろ」
「違う。違う源さん」
「その辺によくある名前なのか?」
「何で俺に聞くんすか? 知りませんけど?」
いつも通り緋色の近くにいた常陸丸が言った。
「そんな事より、二人とも。お客さんをご案内していることを忘れてないっすか?」
あ、そうだった。
きょろ、と探すと玩具屋さんのお向かいのお肉屋さんで、松吉が揚げたてのコロッケをもらっていた。いつの間にかお肉屋さんと仲良くなってる。にこにこでお肉屋のばあさんとお話してる。
「西の方ですか?」
「あ、はい。よう分かってやねえ」
「すぐ分かりましたよ。壱臣さんと話し方が似てますからねえ」
「あれ? 壱臣さまのお知り合いで?」
「壱臣さんね、ここの商店街の仲間ですよ。ほんの少しだけど、この商店街でお店出しててねえ。だし巻き玉子がそりゃもう美味しかったんよ」
「へええ。そうなんや」
「まあ、でも、私たちには食べつけない味付けだから、あんまり流行らないままに店を畳んじゃってねえ。皆で心配してたけど、今は成人ちゃんのとこでお仕事してるっていうからね。安心ですよ」
松吉は、にこにこ笑ってお肉屋のばあさんの話を聞いている。ばあさんはお話が大好きだから、コロッケを売りながらいつもずっと誰かと喋ってるんだ。俺も、通りかかるといつも少しお喋りする。コロッケは、買わないしもらわないけど。前に、もらって食べてお腹が痛くなったから、ご飯の時間じゃない時に食べるのはやめた。すごく美味しいから残念だけど、ちょっと俺のお腹には合わないんだって生松が言っていた。絶対に駄目な訳じゃなくて、そのうち食べても大丈夫になるかもしれないって言ってたから、大丈夫になったら買って食べようって決めている。その時はばあさんは、喜んでまたたくさん喋るかもしれない。
今日は商店街にお客さんが全然歩いていないから、ばあさんは喋る相手がほしかったんだろうな。お喋りが止まらない。
「壱臣さんは髪の毛の美容液の店に定期的に通ってるって言って顔を見せてくれるから、今も元気な姿を見られて、本当に良かったと思ってるんですよ。あの店の人たちも西の訛りがあるから、私たちもすっかり西の訛りに慣れてしまってねえ」
「髪の毛の美容液のお店? そんなんあるんですか?」
あれ? 松吉の声が大きくなった。髪の毛の美容液のお店、行きたい?
俺たちが、次のお店に行くねって清さんにバイバイして歩き出したら、じいやが鶴丸の横に立ったからきっと大丈夫。清さんとじいやは顔見知りだし、多分じいやが助けてくれる。
ちょっと歩いて、玩具屋さんに入った。俺はあんまり入ったことない狭いお店。色んな玩具の箱が、狭い店の棚にたくさん積んであって、少しでも触ったら崩れてきそう。分かってる人しか、どこにどんな品物が置いてあるか分からないようなお店だから、俺が入っても全然分からないんだよね。
「ここが玩具屋か」
「そうみたい」
「……」
緋色は、店の中を少し見渡しただけですぐに外に出た。俺も一緒にすぐ出る。店の人はいつも通り、何も言わずに座ってるだけだった。いつも、店に入った時に頭を下げるだけなんだ。何にも喋らないから名前も知らない。
「置くとこないよ」
鶴丸たちの積み木は玩具だから、売るなら玩具屋さんだよね。でも、ここはいつも物でいっぱいで置く場所がない。そうだな、と呟いた緋色は、少しだけ考えた。
「お前がよく買い物に行くのはどこだ?」
「駄菓子屋さんと雑貨屋さん」
買い物するのは、やっぱりその二つ。初めて行った時から、何回行っても飽きないし、何回行っても欲しい物が出てくる。
「そういえば……その二つは兄上の持ち物だったな」
「え? 何?」
「いや、何でもない。簡単な話だった。雑貨屋行くぞ、雑貨屋」
「え? ちょっと待って。俺、金物屋行きたい」
「は?」
「ちょっと源さんにお話」
「源さん? 壱臣の育て親は入院中だろ」
「違う。違う源さん」
「その辺によくある名前なのか?」
「何で俺に聞くんすか? 知りませんけど?」
いつも通り緋色の近くにいた常陸丸が言った。
「そんな事より、二人とも。お客さんをご案内していることを忘れてないっすか?」
あ、そうだった。
きょろ、と探すと玩具屋さんのお向かいのお肉屋さんで、松吉が揚げたてのコロッケをもらっていた。いつの間にかお肉屋さんと仲良くなってる。にこにこでお肉屋のばあさんとお話してる。
「西の方ですか?」
「あ、はい。よう分かってやねえ」
「すぐ分かりましたよ。壱臣さんと話し方が似てますからねえ」
「あれ? 壱臣さまのお知り合いで?」
「壱臣さんね、ここの商店街の仲間ですよ。ほんの少しだけど、この商店街でお店出しててねえ。だし巻き玉子がそりゃもう美味しかったんよ」
「へええ。そうなんや」
「まあ、でも、私たちには食べつけない味付けだから、あんまり流行らないままに店を畳んじゃってねえ。皆で心配してたけど、今は成人ちゃんのとこでお仕事してるっていうからね。安心ですよ」
松吉は、にこにこ笑ってお肉屋のばあさんの話を聞いている。ばあさんはお話が大好きだから、コロッケを売りながらいつもずっと誰かと喋ってるんだ。俺も、通りかかるといつも少しお喋りする。コロッケは、買わないしもらわないけど。前に、もらって食べてお腹が痛くなったから、ご飯の時間じゃない時に食べるのはやめた。すごく美味しいから残念だけど、ちょっと俺のお腹には合わないんだって生松が言っていた。絶対に駄目な訳じゃなくて、そのうち食べても大丈夫になるかもしれないって言ってたから、大丈夫になったら買って食べようって決めている。その時はばあさんは、喜んでまたたくさん喋るかもしれない。
今日は商店街にお客さんが全然歩いていないから、ばあさんは喋る相手がほしかったんだろうな。お喋りが止まらない。
「壱臣さんは髪の毛の美容液の店に定期的に通ってるって言って顔を見せてくれるから、今も元気な姿を見られて、本当に良かったと思ってるんですよ。あの店の人たちも西の訛りがあるから、私たちもすっかり西の訛りに慣れてしまってねえ」
「髪の毛の美容液のお店? そんなんあるんですか?」
あれ? 松吉の声が大きくなった。髪の毛の美容液のお店、行きたい?
464
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる