【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

41 兄さまって呼ばれるには  成人

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「はじめまして。七条緋椀ひまりと申します」
「あ。見可みかくんの? ふわ、美人さんや。西賀さいか国から参りました。各務かがみ鶴丸つるまると息子の亀吉かめきちです。あっちに奥さんの松吉まつきちです」
「……よ、よろしくお願いします。あの、うちの子がお子さんに迷惑かけたりしてませんでしたか。俺の準備ができる前に飛び出して行ってしまって、気にしてたんです。しっかり者の兄の灯可とうかも一緒だから、と許したんですが、まあ何せ思慮が足りない性分で」

 あ。美人って言われたのは、聞かなかったことにしたんだな、緋椀ひまり。こんなに美人なのに、美人って言われるたびに困ってるのはなんでだろ。あんまり目の前で言う人はいないから? まあ、美人って言った鶴丸つるまるも美人なんだけど。剣舞してる時の表情かお、とんでもなく美人だったなあ。

「ええ? 迷惑なんてそんな。遊んでもろて、大喜びですよ。子どもらしうて、うちは好きやな」

 美人二人の話している横で、きゃー、と亀吉かめきち末良すえよしが同時に声を上げた。見可みかが、わざと不安定に高く積み上げた積み木が、がらがらと派手に倒れたのが楽しかったみたいだ。

「あ。こら、見可みか。小さい子の側でまたそんな危ないことして」
緋椀ひまりさん、大丈夫、大丈夫。見てみ、喜んどる」
「いや。これ、重たいし当たったら怪我する……」
「痛い目みたら次から真剣に避けるやろ。子どもなんてそんなもんです。気にしない、気にしない」

 はあ、でも、と言った緋椀ひまりの横で、積み上げ途中の積み木を亀吉かめきちの手が崩した。

「きゃー」
「きゃー」
「あー! 亀吉かめきち、やったなあ。もっと高くできるはずだったのに」

 見可みかが、ちょっとむうって顔をした。

見可みか見可みかはお兄さんだから、遊んであげてるんだよな?」

 灯可とうかが、素早く口を挟む。

「え?」
「崩すのって楽しいんだよね? 見可みかも小さい時、私が積んだ積み木を片端から崩してたものなあ」
「あー、えー? うーん。そうだっけ?」
「パズルも、ぐちゃぐちゃしてたよね? 私が作るもの、何でも崩して回ってたよね」

 そうなのか。積んだり組み上がったもの崩すのって、そんなに楽しいのか。末良すえよし亀吉かめきち、きゃーって喜んでるし、だいぶ楽しいのは間違いない。もう次を崩そうと思って、見可みかが積むのを待ってるし。そんなに楽しいなら、俺もやってみたいな。

見可みか、早く。次、積んで」
「えええー。成人なるひとさま、その手……」
「みか。はやく」
亀吉かめきち。兄上が灯可とうか兄さまなら、俺は見可みか兄さまだろ」

 見可みか亀吉かめきちに兄さまって呼んでもらうためにも、頑張って早く積んで。
 俺も崩してみたいから、何回も積んでね。
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