【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

11 あれ?  成人

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「ん?何だ?二人でどっか行くのか?」
「うん。生松いくまつのとこ行こって言った」

 広末ひろすえに聞かれて答えたら、あーって広末ひろすえ村次むらつぐが言った。

「うーん。あれだ。足だろ。源さんが足を引き摺ってるから、生松いくまつ先生んとこ連れて行こうと思ったんだろ、なる坊」

 そうそう。

村次むらつぐ、良くなったから」
「あー、まあ、うん。そうだな。良くなったな」
「ねー?」
「んー。でもな、俺の足は、傷めてから、そんなにたくさんの時間が経ってなかったから良くなったんだぞ。それでも、治療にかかるのが遅いって生松いくまつ先生に怒られたけどな。諦めてた時間がもったいなかったって。生松いくまつ先生、体を大事にしない人には厳しいから」
生松いくまつ、ご飯と寝るのたまに忘れるけどね」
「はは。生松いくまつ先生、人には言うくせに、自分が忘れてんの駄目だよなあ」

 俺は、うんうんと頷く。ほんと、駄目だ。じいじと俺が見つけるから、ちゃんと食べたり寝たりできるようになってきたけど。

「ま、だからな。源さんの足は、俺の時みたいに治るとは限らないぞ」
「ん?」
「時間が経ちすぎてると元に戻らないことは、多々ある」
「たたある」
「多いってこと」
「あ、うん。でも、もうちょっと痛くなくできる。たぶん」
「え?」
「源さん、だいぶ痛い。生松いくまつ睦峯むつみねは痛いの止める薬持ってる」

 俺が言うと、広末ひろすえが目を見開いた。

「痛いんですか、源さん」
「いや。まあ、いつもこんなもんやから、気にせんとってください」
「うわ。気付かずこき使ってすみません。言ってくれたら良かったのに。うちらは料理中、どうしても立ちっぱなしになりますからね。遠慮なく座ってくださいよ」
「あ、ああ。……ありがとうございます。その、朝からずっと言いたかったんですが、こんな大きなお屋敷の料理長に敬語使われると困っちまうんで、普通に話してください、広末ひろすえさん」
「え?あ、いやあ、そうか。そうだな。俺、料理長だったな」

 もともとうちの料理人は広末ひろすえしかいなかった。責任者を料理長と呼ぶのなら、広末ひろすえはずっとうちの料理長だ。当たり前すぎて、誰も料理長なんて呼んでなかったけど、皆分かってる。うっかり忘れるのは広末ひろすえだけだ。

「なら、源さんも敬語は無しで」
「いや、俺は新入りなんでそんな訳にゃ……」
壱臣いちおみさんの師匠が新入りって」

 村次むらつぐが笑った。

「そうだよなあ。俺らも習いたいことがたくさんあるし、一番歳上なんだし。遠慮は無しでお願いしますよ、源さん」
「あ、まあ。じゃあ、その、改めてよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします。そんな訳で、料理長命令だ。なる坊としっかり治療してきてください」
「いや、その、さっきから話がよく見えねえんだが、その生松いくまつ先生ってのはつまり、医者か?」
「なる坊」
成人なるひと

 広末ひろすえ村次むらつぐの声が重なった。

「また大事なとこ言ってなかったのか?」

 言ってなかったっけ?
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