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第九章 礼儀を知る人知らない人
10 黄色いものは美味しい 成人
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「待たせてごめんね。じゃ、生松のとこ行こ」
「あ、あの、厨房へ、少し抜けると挨拶しますんで、少々待ってもらってもよろしいか」
村正の部屋でお手紙を預けて、廊下に立ちっぱなしだった源さんに声をかけた。すぐに生松のいる病院へ向かおうとしたら、源さんに止められた。
あ、そうか。そうだよね。今日、源さん、お休みじゃなかったんだもんね。じゃ、厨房から出てきたのも用事があった?
「今、どっか行くとこだった?」
「あー、その、トイレへ」
大変だ。止めちゃってた。
「ごめんなさい。早く行ってきて」
「あ、はい。その、すんません」
こっちこそ、ごめんね。
「厨房で待ってるー」
「はい」
厨房の机には、おやつがずらりと並んでいた。
「お、なる坊早いな。一番乗りだ」
広末がにこにこと言う。
「ええ?もうおやつの時間?」
「いや、まだ少し時間は早いけど、入るんなら食ったらいいぞ」
お手紙書いてたら、そんな時間になってたかー。おやつの後の休憩に源さんを病院に連れて行ったら、源さんの休憩時間が全部無くなるかな。どうしよう。源さんを明日休みにしてもらう?それで、生松にも行くよって言っておいて、お昼ご飯の後で連れていく?源さんはまだお仕事の予定表に名前が入ってないから、いつ休んでも大丈夫な気がするんだけど。
「なんだ。お腹に入らねえか。こんくらい、味見で一つ食っちゃてもいいんだぞ」
この後の予定で悩んでたら、広末が全然違うことを言った。おやつは一つは食べるよ。食べるけどさ。
「味見で一つ?」
きゅって絞ったような形の茶色いお菓子は、あんまり大きくは無い。力丸なら味見で二つ三つ食べちゃいそうな大きさだ。ていうか、このおやつ見たことない。何だろ。
「ふふん。源さんが作ってくれた栗の茶巾絞りだ。旨そうだろ?」
「ええっと。分かんない」
だって初めて見たし。
「はは。正直だなあ。旨いぞ。ほんのり甘くて口の中でほろほろ溶けるぞ」
「おおお」
甘くてほろほろ。それはどんな感じ?ちょっと楽しみ。
ん?初めてなのに広末は、ほろほろなのを知ってるの?あ。
「味見した?」
「ちょっとだけな」
ふふ。広末は食べ物の話をする時、本当に楽しそう。
「これな、栗を蒸して一つ一つくり抜いて漉して甘味を混ぜて丸めるだけだから手順は簡単なんだが、手を抜くとすぐに舌触りが悪くなるんだ。源さんは丁寧だから絶品でさ」
「へええ」
「今度、さつまいもやかぼちゃでもやってみたらどうかと思うんだ」
「へええ」
「師匠。成人にそんな熱弁奮っても。成人は何でも、食べてみないと味が分かんないでしょうよ」
「はは、そうか」
何か洗ってた村次が、手を拭きながら近くに歩いてきた。俺は食べてみないと分からないってことは、広末と村次は食べてみなくても分かるのかな。すごいな、それ。
俺にも一個だけ、食べなくても分かることはある。
「黄色いのは美味しい。だからきっと、さつまいもとかぼちゃも美味しい」
今日のは茶色いけど。茶色も美味しいものが多い気がする。茶色い食べ物がぱっと思い浮かばないけど。
「あの、成人殿下、お待たせ致しました」
「あ、源さん。おやつ食べてから行く?」
「ええっと。あの……。成人殿下の良いようになさってください。あの、ほんで、どこへ行くんでしょうか」
ん?
「生松のとこだけど?」
言ったよね?
「あ、あの、厨房へ、少し抜けると挨拶しますんで、少々待ってもらってもよろしいか」
村正の部屋でお手紙を預けて、廊下に立ちっぱなしだった源さんに声をかけた。すぐに生松のいる病院へ向かおうとしたら、源さんに止められた。
あ、そうか。そうだよね。今日、源さん、お休みじゃなかったんだもんね。じゃ、厨房から出てきたのも用事があった?
「今、どっか行くとこだった?」
「あー、その、トイレへ」
大変だ。止めちゃってた。
「ごめんなさい。早く行ってきて」
「あ、はい。その、すんません」
こっちこそ、ごめんね。
「厨房で待ってるー」
「はい」
厨房の机には、おやつがずらりと並んでいた。
「お、なる坊早いな。一番乗りだ」
広末がにこにこと言う。
「ええ?もうおやつの時間?」
「いや、まだ少し時間は早いけど、入るんなら食ったらいいぞ」
お手紙書いてたら、そんな時間になってたかー。おやつの後の休憩に源さんを病院に連れて行ったら、源さんの休憩時間が全部無くなるかな。どうしよう。源さんを明日休みにしてもらう?それで、生松にも行くよって言っておいて、お昼ご飯の後で連れていく?源さんはまだお仕事の予定表に名前が入ってないから、いつ休んでも大丈夫な気がするんだけど。
「なんだ。お腹に入らねえか。こんくらい、味見で一つ食っちゃてもいいんだぞ」
この後の予定で悩んでたら、広末が全然違うことを言った。おやつは一つは食べるよ。食べるけどさ。
「味見で一つ?」
きゅって絞ったような形の茶色いお菓子は、あんまり大きくは無い。力丸なら味見で二つ三つ食べちゃいそうな大きさだ。ていうか、このおやつ見たことない。何だろ。
「ふふん。源さんが作ってくれた栗の茶巾絞りだ。旨そうだろ?」
「ええっと。分かんない」
だって初めて見たし。
「はは。正直だなあ。旨いぞ。ほんのり甘くて口の中でほろほろ溶けるぞ」
「おおお」
甘くてほろほろ。それはどんな感じ?ちょっと楽しみ。
ん?初めてなのに広末は、ほろほろなのを知ってるの?あ。
「味見した?」
「ちょっとだけな」
ふふ。広末は食べ物の話をする時、本当に楽しそう。
「これな、栗を蒸して一つ一つくり抜いて漉して甘味を混ぜて丸めるだけだから手順は簡単なんだが、手を抜くとすぐに舌触りが悪くなるんだ。源さんは丁寧だから絶品でさ」
「へええ」
「今度、さつまいもやかぼちゃでもやってみたらどうかと思うんだ」
「へええ」
「師匠。成人にそんな熱弁奮っても。成人は何でも、食べてみないと味が分かんないでしょうよ」
「はは、そうか」
何か洗ってた村次が、手を拭きながら近くに歩いてきた。俺は食べてみないと分からないってことは、広末と村次は食べてみなくても分かるのかな。すごいな、それ。
俺にも一個だけ、食べなくても分かることはある。
「黄色いのは美味しい。だからきっと、さつまいもとかぼちゃも美味しい」
今日のは茶色いけど。茶色も美味しいものが多い気がする。茶色い食べ物がぱっと思い浮かばないけど。
「あの、成人殿下、お待たせ致しました」
「あ、源さん。おやつ食べてから行く?」
「ええっと。あの……。成人殿下の良いようになさってください。あの、ほんで、どこへ行くんでしょうか」
ん?
「生松のとこだけど?」
言ったよね?
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