1,048 / 1,321
第九章 礼儀を知る人知らない人
5 返信 成人
しおりを挟む
「返信を預かって参りました」
じいやから差し出されたのは、成人様と宛名が書かれた封筒だった。白地に、薄い黄色の花びらが少しだけ散っていて、とても綺麗。宛名も、筆で書かれているけど崩されてない文字で、読みやすかった。ひっくり返して後ろを見ると、各務鶴丸、松吉、亀吉、と書いてある。鶴丸たちの名字は確か、かがみって言ってたな。こんな漢字を書くのか。これでかがみって読むのか。よし。次に手紙を書く時は、これをお手本に名前を全部漢字で書こう。綺麗でとても見やすい字だから好きだ。
「これ、鶴丸の字?」
「いえ。松吉さまが書いていらっしゃいました」
「松吉の字かあ。綺麗」
じいやは、にこって笑う。
「ええ。お人柄がよく表れているような伸びやかな文字ですね」
「へえ?」
うんうんと頷く俺の後ろで緋色が言った。今日は緋色はお城で仕事の日なのに、お昼ご飯を食べに帰ってきて食べた後、まだ俺のお部屋にいる。俺を後ろから抱っこして、お城に戻りたくなーい、とぶつぶつ文句を言っていた。そんな時に、じいやが手紙を持ってお部屋に来たんだ。
じいや、一昨日のお休みの日に、明日は少し出かけてきますって言ってからいなかったんだよね。鶴丸たちのおうちに手紙を届けに行ってたのか。ずるい。
「俺も行きたかった」
封筒を開けるためのナイフを手に持って言ったら、じいやがまたふふっと笑った。絶対、すごく楽しかったんだよ。じいや、いつもよりずっとにこにこだ。
「思いつきで行くには、なかなかの距離でございました」
「遠い?」
「ええ」
「むー。そうか」
じいや、昨日のうちに帰ってこなかったもんね。今日も、もう昼過ぎてるし。
手紙の封を開けようと、無い左手の代わりの押さえるものを探していたら、後ろから伸びてきた緋色の手が封筒を押さえてくれた。
「あ。ありがと」
「おう」
前は、片手じゃ危ないってナイフと手紙を取られて緋色に開けられてしまってたけど、今はこうして押さえてくれるから俺でもできる。ふふ。俺がやりたいって何回も言ってよかった。緋色、ちゃんと考えてくれた。
「遅かったな」
「西賀の領主と、少々話が盛り上がりまして。泊まって行け、とのお言葉に甘えることと致しました」
「はは。突然の皇家からの使者に、泊まって行けって?あれらの親だけあるな」
中の文字も、宛名と同じで崩してなかった。よかった、読める。文章も分かりやすい。
「あ。やった。来てくれるって」
「そうか。良かったな」
「その日に帰るのは無理だから、お泊まりできる所を教えてくださいって書いてある。予約するって」
「何日でも離宮に泊まっていけ、と返事を出したらどうだ?」
そうだよ。離宮に泊まればいい。お部屋はいっぱいあるし、じいやでもお泊まりしてから帰ってくるくらい遠いんだから、前の日に来たらいい。それで、ゆっくり遊んで、次の日か次の次の日に帰ればいいんだよ!
「そうする!」
じいやから差し出されたのは、成人様と宛名が書かれた封筒だった。白地に、薄い黄色の花びらが少しだけ散っていて、とても綺麗。宛名も、筆で書かれているけど崩されてない文字で、読みやすかった。ひっくり返して後ろを見ると、各務鶴丸、松吉、亀吉、と書いてある。鶴丸たちの名字は確か、かがみって言ってたな。こんな漢字を書くのか。これでかがみって読むのか。よし。次に手紙を書く時は、これをお手本に名前を全部漢字で書こう。綺麗でとても見やすい字だから好きだ。
「これ、鶴丸の字?」
「いえ。松吉さまが書いていらっしゃいました」
「松吉の字かあ。綺麗」
じいやは、にこって笑う。
「ええ。お人柄がよく表れているような伸びやかな文字ですね」
「へえ?」
うんうんと頷く俺の後ろで緋色が言った。今日は緋色はお城で仕事の日なのに、お昼ご飯を食べに帰ってきて食べた後、まだ俺のお部屋にいる。俺を後ろから抱っこして、お城に戻りたくなーい、とぶつぶつ文句を言っていた。そんな時に、じいやが手紙を持ってお部屋に来たんだ。
じいや、一昨日のお休みの日に、明日は少し出かけてきますって言ってからいなかったんだよね。鶴丸たちのおうちに手紙を届けに行ってたのか。ずるい。
「俺も行きたかった」
封筒を開けるためのナイフを手に持って言ったら、じいやがまたふふっと笑った。絶対、すごく楽しかったんだよ。じいや、いつもよりずっとにこにこだ。
「思いつきで行くには、なかなかの距離でございました」
「遠い?」
「ええ」
「むー。そうか」
じいや、昨日のうちに帰ってこなかったもんね。今日も、もう昼過ぎてるし。
手紙の封を開けようと、無い左手の代わりの押さえるものを探していたら、後ろから伸びてきた緋色の手が封筒を押さえてくれた。
「あ。ありがと」
「おう」
前は、片手じゃ危ないってナイフと手紙を取られて緋色に開けられてしまってたけど、今はこうして押さえてくれるから俺でもできる。ふふ。俺がやりたいって何回も言ってよかった。緋色、ちゃんと考えてくれた。
「遅かったな」
「西賀の領主と、少々話が盛り上がりまして。泊まって行け、とのお言葉に甘えることと致しました」
「はは。突然の皇家からの使者に、泊まって行けって?あれらの親だけあるな」
中の文字も、宛名と同じで崩してなかった。よかった、読める。文章も分かりやすい。
「あ。やった。来てくれるって」
「そうか。良かったな」
「その日に帰るのは無理だから、お泊まりできる所を教えてくださいって書いてある。予約するって」
「何日でも離宮に泊まっていけ、と返事を出したらどうだ?」
そうだよ。離宮に泊まればいい。お部屋はいっぱいあるし、じいやでもお泊まりしてから帰ってくるくらい遠いんだから、前の日に来たらいい。それで、ゆっくり遊んで、次の日か次の次の日に帰ればいいんだよ!
「そうする!」
534
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる