【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

5 返信  成人

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「返信を預かって参りました」

 じいやから差し出されたのは、成人様と宛名が書かれた封筒だった。白地に、薄い黄色の花びらが少しだけ散っていて、とても綺麗。宛名も、筆で書かれているけど崩されてない文字で、読みやすかった。ひっくり返して後ろを見ると、各務鶴丸、松吉、亀吉、と書いてある。鶴丸つるまるたちの名字は確か、かがみって言ってたな。こんな漢字を書くのか。これでかがみって読むのか。よし。次に手紙を書く時は、これをお手本に名前を全部漢字で書こう。綺麗でとても見やすい字だから好きだ。

「これ、鶴丸つるまるの字?」
「いえ。松吉まつきちさまが書いていらっしゃいました」
松吉まつきちの字かあ。綺麗」

 じいやは、にこって笑う。

「ええ。お人柄がよく表れているような伸びやかな文字ですね」
「へえ?」

 うんうんと頷く俺の後ろで緋色ひいろが言った。今日は緋色ひいろはお城で仕事の日なのに、お昼ご飯を食べに帰ってきて食べた後、まだ俺のお部屋にいる。俺を後ろから抱っこして、お城に戻りたくなーい、とぶつぶつ文句を言っていた。そんな時に、じいやが手紙を持ってお部屋に来たんだ。
 じいや、一昨日のお休みの日に、明日は少し出かけてきますって言ってからいなかったんだよね。鶴丸つるまるたちのおうちに手紙を届けに行ってたのか。ずるい。

「俺も行きたかった」

 封筒を開けるためのナイフを手に持って言ったら、じいやがまたふふっと笑った。絶対、すごく楽しかったんだよ。じいや、いつもよりずっとにこにこだ。

「思いつきで行くには、なかなかの距離でございました」
「遠い?」
「ええ」
「むー。そうか」

 じいや、昨日のうちに帰ってこなかったもんね。今日も、もう昼過ぎてるし。
 手紙の封を開けようと、無い左手の代わりの押さえるものを探していたら、後ろから伸びてきた緋色ひいろの手が封筒を押さえてくれた。

「あ。ありがと」
「おう」

 前は、片手じゃ危ないってナイフと手紙を取られて緋色ひいろに開けられてしまってたけど、今はこうして押さえてくれるから俺でもできる。ふふ。俺がやりたいって何回も言ってよかった。緋色ひいろ、ちゃんと考えてくれた。

「遅かったな」
西賀さいかの領主と、少々話が盛り上がりまして。泊まって行け、とのお言葉に甘えることと致しました」
「はは。突然の皇家からの使者に、泊まって行けって?あれらの親だけあるな」

 中の文字も、宛名と同じで崩してなかった。よかった、読める。文章も分かりやすい。

「あ。やった。来てくれるって」
「そうか。良かったな」
「その日に帰るのは無理だから、お泊まりできる所を教えてくださいって書いてある。予約するって」
「何日でも離宮うちに泊まっていけ、と返事を出したらどうだ?」

 そうだよ。離宮うちに泊まればいい。お部屋はいっぱいあるし、じいやでもお泊まりしてから帰ってくるくらい遠いんだから、前の日に来たらいい。それで、ゆっくり遊んで、次の日か次の次の日に帰ればいいんだよ!

「そうする!」

 
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