【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

164 可愛い人  成人

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 今日の壱臣いちおみは、いつもより、もっとずっとたくさん楽しそう。昨日は、たくさん泣いてたけど。昨日の涙も、悲しいのと嬉しいのと色々で大変だった。源さんが側にいると壱臣いちおみは、たくさん悲しくなったり嬉しくなったり楽しくなったりする。これからは、こうやってたくさん笑うんだな。泣くのもあるかな。嬉しい時も泣いたりするから。たくさん泣くのは、目が腫れて大変だ。昨日はすごく目が腫れてたけど、すぐ治って良かったなあ。
 あれ?そういえば。

「半助は?」
「今日も城へ呼ばれたんよ」
「あれ?」
「ほら、西へ行って帰ってきた人は今日はお休みってことになったやろ?成人なるひとくんの護衛はいらんくなって、ほんで、力丸りきまるくんはお休みやろ?もう一日、皇太子殿下の護衛に来てほしいって夜に連絡がきて」
「そっかー」
「嫌やーって、珍しくふてくされてた」

 え?半助が?半助が嫌やーって言うの?想像できない。

「ふふ。可愛かったで」
「ふてくされてるのに?」
「そう」

 壱臣いちおみは、緋色ひいろをちらりと見て俺に手招きをした。緋色ひいろの腕の中から、ぐいっと壱臣いちおみに顔を近付けると、こそこそと耳もとで囁く。

「今の緋色ひいろ殿下みたいに可愛いかった」
「ああー」

 おっと。ちょっと声が大きくなってしまった。慌てて右手で口を押さえる。

「なんだ?」

 熱いお茶のおかわりをもらって飲んでいた緋色ひいろが、じろっとこちらを向く。壱臣いちおみと二人で、くふふと笑った。

「なんでもなーい」
「早く飯を食え」
「はーい」

 くふふ。ふてくされてて可愛いの、どんなのか分かった。今、緋色ひいろはちょっとふてくされてる。何かが嫌で、ちょっと納得できなくて、でも納得しなきゃいけなくて困ってる。困って、でも困ってる相手にはいやいやって言えないから、言える人に言ってる。言える人って思ってもらってるのは、何だか特別な感じがして嬉しい。
 今、緋色ひいろは可愛い。

「可愛いとは対極におる男やろ、あれ。おみ、お前の目は腐っとる」
「源さん。うちと二人ん時は、結構可愛いんよ」

 壱臣いちおみは、またくふふと笑った。

「まだ俺は、伴侶やなんや言う話は納得しとらんからな」
「そう言われても、もう結婚式までしてしもとるしなあ。あ、写真もまた見てな」
「誰が見るか」
「ふふ。あ、そや。今度、源さんも一緒に写真撮ろ。うちと半助と三人で」
「何で三人やねん」
「家族やから」
「嫌や」
「ええー」

 源さんも、源さんといる壱臣いちおみも可愛い。
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