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第八章 郷に入っては郷に従え
160 めでたしめでたしの後の話 赤石
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思いません。
朱実のきっぱりとした物言いに、しばし呆然とする。
何故……?雫石は病人だ。ならばなるべく、彼女の要望に沿うように、健常者である私たちが気を回してやらねばならぬだろう。
治し方も分からぬ、気の病。口さがない者たちの言葉が彼女を追いつめ、彼女の柔らかい内側を傷付けた。
城の医師たちは、このようなものは本人の気質であって病でも何でもない。このように突然感情を表に出すような方はとても妃には相応しくないと、更に雫石を追い詰めた。雫石が感情を抑えられなくなる前は、大人しすぎて妃に向かぬ、などと言うていた奴らだ。そして、勤めを果たせぬのならば新しい妃を迎えるしかない、早う離縁すべきだとそればかり繰り返したことも。
事態を重く見た緋見呼が城の外から寄越した医師は、雫石を否定しなかった。このような病があるのだとの言葉に、どれほど安堵したことか。当たり前だ。緋色を産む前の雫石は、優しく物静かな女性であった。真面目で努力家で芯の通った女性。私の愛した女性だ。今もそうだ。その優しさが変わることはない。ただ、病が胸の内に広がると、それが発露することがあるだけ。公の場では我慢が効くからと無理をして、我慢の効かぬ場での発露が増えた。子どもの予測の付かぬ行動が病を発露させることが多いようだと気付いたから、幼い緋色を殊更に雫石から遠ざけた。だが、雫石が何故か時に会いたがる。幼い緋色からの、母に会いたいとの要望には応えることは無かったが、雫石が会いたがる時にはなるべく会えるように手配した。あまり良い結果とはならないことの方が多かったが。
とにかく優しく、幼子に接するように接してあげてください、と緋見呼の手配してくれた医師は言った。そうすると、雫石はとても穏やかに過ごすことができた。これで良いのだと、正解をもらった気がしたものだ。
その正解のままに、ここまでやってきた。雫石の病は快方に向かい、子どもたちも大人になった。これで、めでたしめでたしと何故ならぬ。
また、子どもが。子どもが私たちの生活を乱すのか。あの儘ならぬ生き物が。
雫石は会いたがるだろう。
だが、誰も会いに来ぬという。
どうすれば。どうすれば皆が良いようになるのか。
私が何も答えられぬうちに、朱実と赤璃は部屋を辞していった。
朱実のきっぱりとした物言いに、しばし呆然とする。
何故……?雫石は病人だ。ならばなるべく、彼女の要望に沿うように、健常者である私たちが気を回してやらねばならぬだろう。
治し方も分からぬ、気の病。口さがない者たちの言葉が彼女を追いつめ、彼女の柔らかい内側を傷付けた。
城の医師たちは、このようなものは本人の気質であって病でも何でもない。このように突然感情を表に出すような方はとても妃には相応しくないと、更に雫石を追い詰めた。雫石が感情を抑えられなくなる前は、大人しすぎて妃に向かぬ、などと言うていた奴らだ。そして、勤めを果たせぬのならば新しい妃を迎えるしかない、早う離縁すべきだとそればかり繰り返したことも。
事態を重く見た緋見呼が城の外から寄越した医師は、雫石を否定しなかった。このような病があるのだとの言葉に、どれほど安堵したことか。当たり前だ。緋色を産む前の雫石は、優しく物静かな女性であった。真面目で努力家で芯の通った女性。私の愛した女性だ。今もそうだ。その優しさが変わることはない。ただ、病が胸の内に広がると、それが発露することがあるだけ。公の場では我慢が効くからと無理をして、我慢の効かぬ場での発露が増えた。子どもの予測の付かぬ行動が病を発露させることが多いようだと気付いたから、幼い緋色を殊更に雫石から遠ざけた。だが、雫石が何故か時に会いたがる。幼い緋色からの、母に会いたいとの要望には応えることは無かったが、雫石が会いたがる時にはなるべく会えるように手配した。あまり良い結果とはならないことの方が多かったが。
とにかく優しく、幼子に接するように接してあげてください、と緋見呼の手配してくれた医師は言った。そうすると、雫石はとても穏やかに過ごすことができた。これで良いのだと、正解をもらった気がしたものだ。
その正解のままに、ここまでやってきた。雫石の病は快方に向かい、子どもたちも大人になった。これで、めでたしめでたしと何故ならぬ。
また、子どもが。子どもが私たちの生活を乱すのか。あの儘ならぬ生き物が。
雫石は会いたがるだろう。
だが、誰も会いに来ぬという。
どうすれば。どうすれば皆が良いようになるのか。
私が何も答えられぬうちに、朱実と赤璃は部屋を辞していった。
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