1,024 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
148 よそではない? 成人
しおりを挟む
「大変、か」
父さまが、目を大きく開いて言った。
「うん」
「この服が?」
「うん」
「そういうものか?」
「うん」
「……これはな、成人。全くの正装ではなく、謁見の際のものより少し楽な格好であるのだが」
「ええ?」
少し考えた父さまが口を開いた。父さまは、アイスクリームをあっという間に食べ終わっている。冷たいアイスクリームを食べて、すぐに熱いお茶をもらっていた。朱実殿下は緋色と一緒でアイスクリームを食べてない。朱実殿下も、緋色と一緒で甘いのはあんまり食べないのかな?知らなかった。兄弟だから似てるとか?じゃあ朱実殿下も、アイスクリームを食べたら、あまって言うのかな。言うのかもな。想像はできないけど。
少し楽な格好と聞いても、謁見の時の正装と、今父さまが着ている服の見分けがつかなくて、俺は、ええって言ってしまった。二つの絵を見比べて間違いを探す遊びみたいに、さっきの格好の父さまを今の父さまの横に並べてくれないと困る。
俺たちは謁見の時と同じ服を着てきたから、父さまと朱実殿下もおんなじかと思ってた。謁見の時にいなかったけれど、母さまと赤璃さまは着物を着ている。着物って正装だよね?普段、お部屋で着物は着ていなかったはず。お部屋にたくさん行ったことがある訳じゃないけど、行った時はいつも、二人とも着物ではなかった。着物はお腹がグッと締まって苦しいって、結婚式の白い着物を着た時に俺は思ったから、いつも着てたら苦しいんじゃないかな。知らないけどさ。
「ふむ。では成人は、どんな格好で食事をしているんだ?」
「くまとか。仕事の服とか」
「くま?」
「くまの。好きなやつ。緋色とお揃いも好き」
「ふむ。くまは分からぬが、仕事の服で食べることはあるのだろう?私のこれも、仕事の服だ。一緒じゃないか?」
「そっか」
仕事の服のままなのか。なら、仕方ない。仕事から帰ってきて、着替えずそのままご飯を食べてる人はいる。俺も緋色も、そのままのこともある。昼はいつもそう。納得。
俺は、アイスクリームを口に入れた。見てたら溶けちゃうことはもう知ってるから、ぱくぱく食べる。食べて無くなってもまた作ってもらえるから、美味しいうちにちゃんと食べる。
「ふふ」
「一口ごとに、溶けそうな顔して食うな、まったく」
緋色の手が伸びてきて、俺の口の端をきゅっと擦った。擦った指を舐めて、あまって言う。
甘いって知ってるのに舐めるんだよね。そしてお茶を飲むんだ。そして俺を見てにこにこする。それを見てた乙羽が、お行儀が悪いって言ったりする。家だからいいだろって緋色が言うと、よそでやっちゃ駄目よって乙羽が言うんだ。
あれ?ここよそかな。よそでやっちゃったかな?
「緋色。よそでやっちゃ駄目」
「ん?ああ。ふはっ。はいはい」
「よそではない」
父さまが言う。
「そうなの?」
「ああ。家族の食事だと言ったろう?仕事でもなく、よそでもないぞ?」
確かに父さまは、謁見の時にそう言っていた。でも、正装に着替えてから来た俺たちには、ここは家じゃない。
「うーん?家でもないけど、よそでもない?」
難しいな。
父さまが、目を大きく開いて言った。
「うん」
「この服が?」
「うん」
「そういうものか?」
「うん」
「……これはな、成人。全くの正装ではなく、謁見の際のものより少し楽な格好であるのだが」
「ええ?」
少し考えた父さまが口を開いた。父さまは、アイスクリームをあっという間に食べ終わっている。冷たいアイスクリームを食べて、すぐに熱いお茶をもらっていた。朱実殿下は緋色と一緒でアイスクリームを食べてない。朱実殿下も、緋色と一緒で甘いのはあんまり食べないのかな?知らなかった。兄弟だから似てるとか?じゃあ朱実殿下も、アイスクリームを食べたら、あまって言うのかな。言うのかもな。想像はできないけど。
少し楽な格好と聞いても、謁見の時の正装と、今父さまが着ている服の見分けがつかなくて、俺は、ええって言ってしまった。二つの絵を見比べて間違いを探す遊びみたいに、さっきの格好の父さまを今の父さまの横に並べてくれないと困る。
俺たちは謁見の時と同じ服を着てきたから、父さまと朱実殿下もおんなじかと思ってた。謁見の時にいなかったけれど、母さまと赤璃さまは着物を着ている。着物って正装だよね?普段、お部屋で着物は着ていなかったはず。お部屋にたくさん行ったことがある訳じゃないけど、行った時はいつも、二人とも着物ではなかった。着物はお腹がグッと締まって苦しいって、結婚式の白い着物を着た時に俺は思ったから、いつも着てたら苦しいんじゃないかな。知らないけどさ。
「ふむ。では成人は、どんな格好で食事をしているんだ?」
「くまとか。仕事の服とか」
「くま?」
「くまの。好きなやつ。緋色とお揃いも好き」
「ふむ。くまは分からぬが、仕事の服で食べることはあるのだろう?私のこれも、仕事の服だ。一緒じゃないか?」
「そっか」
仕事の服のままなのか。なら、仕方ない。仕事から帰ってきて、着替えずそのままご飯を食べてる人はいる。俺も緋色も、そのままのこともある。昼はいつもそう。納得。
俺は、アイスクリームを口に入れた。見てたら溶けちゃうことはもう知ってるから、ぱくぱく食べる。食べて無くなってもまた作ってもらえるから、美味しいうちにちゃんと食べる。
「ふふ」
「一口ごとに、溶けそうな顔して食うな、まったく」
緋色の手が伸びてきて、俺の口の端をきゅっと擦った。擦った指を舐めて、あまって言う。
甘いって知ってるのに舐めるんだよね。そしてお茶を飲むんだ。そして俺を見てにこにこする。それを見てた乙羽が、お行儀が悪いって言ったりする。家だからいいだろって緋色が言うと、よそでやっちゃ駄目よって乙羽が言うんだ。
あれ?ここよそかな。よそでやっちゃったかな?
「緋色。よそでやっちゃ駄目」
「ん?ああ。ふはっ。はいはい」
「よそではない」
父さまが言う。
「そうなの?」
「ああ。家族の食事だと言ったろう?仕事でもなく、よそでもないぞ?」
確かに父さまは、謁見の時にそう言っていた。でも、正装に着替えてから来た俺たちには、ここは家じゃない。
「うーん?家でもないけど、よそでもない?」
難しいな。
490
お気に入りに追加
5,206
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる