【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

143 あの子のための家  源之進

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 おみに思いをもらって答えない選択肢はない。
 それを聞いて、俺に言えることがあるやろうか。
 源さんだけが家族やった、と泣かれて、俺もやと答えてしもうた俺に。普段、我儘なんて言わんおみに泣かれて、逆らえる者なんておらん。
  けど、おみから思いを渡した言うんが腑に落ちん。ほんまにあのおみが?自分でこの男を望んだ?
 おみやで?とにかく人に迷惑かけんように、自分の所為でかなん目に合う人がないようにと考えて生きてきたおみが。家族やと思うとったと言うた俺にも、滅多に甘えてもこんかったおみが。この男にだけそんな我儘を?
 甘えられんかったのは、俺が自分を戒めて、抱きついてきたおみを抱きしめ返したりせんかったからではあるけれども。

「その、腕……」
「ああ」

 が隻腕やとは聞いたことがない。ほな、答えは一つ。おみを守るために無くした。なら、おみは責任を感じて……。

「まあ、それほど困ってはおりません」

 けど、男は事も無げに笑う。

「左が残っててええな、て成人なるひとさまには羨ましがられとるんですよ」
「……」

 成人なるひと殿下には左肘から先が無い。けど、なんで?なんで左?二人とも利き腕が左やったんか?いや、成人なるひと殿下のことは知らんけど、西国では右を使いなさいと言われて小さい頃に矯正されることが多いから、左利きなんてほとんどおらん。半助は西国の人間やから、右やろう。

「誓いの指輪は左の薬指に嵌めるもんらしく」

 そう言うて半助が視線を落とした先には、しっかりと指輪が嵌っていた。
 おみは?おみはしとったやろか?いや、見とらん。料理人は、手に何かつけたりせんもんや。その教えの通り、あの手には何もついてへんかった。けど、この男がこうしているということは、おみも持っとるんやろう。当たり前のように。
 半助の左手を羨ましがる成人なるひと殿下。緋色ひいろ殿下とは、何ぞ思惑があっての男同士の結婚、いうわけではない?誓いの指輪を嵌めたくて左手を欲しがるほどの……。
 仲睦まじく部屋を出ていかれたお二人。

「……っ」
「今は、左が残ってて良かったなて思っとります」

 失くしたものも、悲観の対象ではなく。思いはきちんと相手に届く。
 ここは。なんてよい……。
 なんて心地のよい場所やろ。
 おみに、半助に。
 ……。
 たぶん、俺にも。
 


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