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第八章 郷に入っては郷に従え
141 郷に入っては…… 源之進
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「成人、着替えの時間だ」
「えええ?」
一応、扉を叩く音はしたけど、部屋の主の半助が返事をするかしないかのうちに扉が開けられた。扉の向こうには、この離宮の主が立っていらっしゃる。反射的に立ち上がり包拳礼をした。
「ああ。そういうの、いらん」
軽く返ってくる言葉に戸惑っているうちに、すたすたと部屋へ踏み込んで来られた緋色殿下は、座っている成人殿下を軽く抱き上げられた。成人殿下も、そうされるのが当然であるように右腕を伸ばして、緋色殿下の腕の中に収まられる。緋色殿下の目が、俺と半助の方へと向いていらっしゃることに気付き、身を固くした。
半助は、ゆっくりと立ち上がって軽く頭を下げている。
「半助、邪魔したな」
「いいえ、とんでもない」
「そうか」
「はい」
何とか包拳礼を下ろした俺の方へと視線を向けられる緋色殿下を固まったまま眺めとると、お言葉がかかった。
「源之進。過ぎたる礼は失礼だ。覚えておけ」
「は、ははっ」
「あれだよ、あれ。郷に入っては郷に従え、だよ」
成人殿下の言葉に、緋色殿下がははっと笑い声を漏らされた。
「難しい言葉を知っているな」
「九鬼に行く時、聞いた。着物」
「ああ、なるほど」
自然に話をされながら緋色殿下の足はもう、扉の方へ向いて進み始めていらっしゃった。
「成人さま。ありがとうございました」
「ええ?何がありがとう?」
半助の言葉に、成人殿下が首を捻ってこちらを向かれる。
「臣と源さんのお世話をしてくださった分です」
「……ん」
少し考えて成人殿下は頷かれた。緋色殿下が、足を止められる。
「そっか。どういたしまして」
にこりと笑った成人殿下に、緋色殿下の頬も目の前の半助の頬も緩むのが見えた。
「はい。またよろしくお願いします」
「いいよー。家族だから」
「はい」
そしてお二人は出ていかれた。お付きも何も連れていらっしゃらなかったようで、緋色殿下はご自分で扉を閉めて出ていかれた。
何となく息を吐く。
成人殿下がいらっしゃることで緊張していたことの気が抜けた、という訳ではなく、何となく部屋の中に感じていた息苦しさのようなもんが抜けた気がしたのだ。部屋に飛び込んできた半助を止めた男が、共に出ていったんかもしれん。何となくそう思った。
そうであってほしいという願望が、そう思わせとるだけかもしれんけど。
「改めて、座りませんか。お茶もないですけど」
何となく気勢を削がれて、半助の言葉に従った。
しゃあない。聞かなあかんことが、ようけある。
郷に、入らなあかんからな。
「えええ?」
一応、扉を叩く音はしたけど、部屋の主の半助が返事をするかしないかのうちに扉が開けられた。扉の向こうには、この離宮の主が立っていらっしゃる。反射的に立ち上がり包拳礼をした。
「ああ。そういうの、いらん」
軽く返ってくる言葉に戸惑っているうちに、すたすたと部屋へ踏み込んで来られた緋色殿下は、座っている成人殿下を軽く抱き上げられた。成人殿下も、そうされるのが当然であるように右腕を伸ばして、緋色殿下の腕の中に収まられる。緋色殿下の目が、俺と半助の方へと向いていらっしゃることに気付き、身を固くした。
半助は、ゆっくりと立ち上がって軽く頭を下げている。
「半助、邪魔したな」
「いいえ、とんでもない」
「そうか」
「はい」
何とか包拳礼を下ろした俺の方へと視線を向けられる緋色殿下を固まったまま眺めとると、お言葉がかかった。
「源之進。過ぎたる礼は失礼だ。覚えておけ」
「は、ははっ」
「あれだよ、あれ。郷に入っては郷に従え、だよ」
成人殿下の言葉に、緋色殿下がははっと笑い声を漏らされた。
「難しい言葉を知っているな」
「九鬼に行く時、聞いた。着物」
「ああ、なるほど」
自然に話をされながら緋色殿下の足はもう、扉の方へ向いて進み始めていらっしゃった。
「成人さま。ありがとうございました」
「ええ?何がありがとう?」
半助の言葉に、成人殿下が首を捻ってこちらを向かれる。
「臣と源さんのお世話をしてくださった分です」
「……ん」
少し考えて成人殿下は頷かれた。緋色殿下が、足を止められる。
「そっか。どういたしまして」
にこりと笑った成人殿下に、緋色殿下の頬も目の前の半助の頬も緩むのが見えた。
「はい。またよろしくお願いします」
「いいよー。家族だから」
「はい」
そしてお二人は出ていかれた。お付きも何も連れていらっしゃらなかったようで、緋色殿下はご自分で扉を閉めて出ていかれた。
何となく息を吐く。
成人殿下がいらっしゃることで緊張していたことの気が抜けた、という訳ではなく、何となく部屋の中に感じていた息苦しさのようなもんが抜けた気がしたのだ。部屋に飛び込んできた半助を止めた男が、共に出ていったんかもしれん。何となくそう思った。
そうであってほしいという願望が、そう思わせとるだけかもしれんけど。
「改めて、座りませんか。お茶もないですけど」
何となく気勢を削がれて、半助の言葉に従った。
しゃあない。聞かなあかんことが、ようけある。
郷に、入らなあかんからな。
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