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第八章 郷に入っては郷に従え
140 壱臣は夜泣く 成人
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「お話するお部屋行く?」
「いえ。源さんがよろしければ、ここで」
「……」
源さんは、じろりと半助を睨んでお返事をしない。壱臣がいなくなったら、さっきよりもっと怖い顔になった。源さんも、壱臣には優しい顔してたんだなあ。
「源さん。ここでいい?ここね、半助と壱臣のお部屋」
「ここで、ええです」
俺が聞いたら、喉がぎゅってしまってるみたいな声で答えた。
いいのかー。
ここ、座ってお話できる椅子とかないんだけど。下に降りたら、お客さまとお話できる用のお部屋があるんだけどな。ま、いっか。一個だけ置いてある座卓の前に座ればいっか。
座卓の他には、大きなベッドが一つ置いてあるだけであんまり物がない部屋はとっても広い。だからまあ、どこにでも座れる。どこにでも座れるように床にはふかふかの敷物が敷いてある。俺の部屋と一緒。どこでもごろごろと寝れるし、気持ちいい。壱臣が転んでも痛くないようにしてあるのかな。そうかも。
あ、お茶もないな。取りに行く?でも俺、お話聞きたいから、取りに行ってたら聞けなくなっちゃう。
うーん。
ま、いっか。
「成人さま?」
「座って、座って」
俺の部屋じゃないけど。
「あ、はい」
「はい……」
座卓の前に座ったら、二人はちゃんと向かい合わせになる。俺は横で聞いておくね。
「改めまして。半助と申します。名字は、ありません」
「……源之進や。こちらも名字はない」
源さんは、俺の方をちらりと見て口を開いた。ん?俺のことは気にしなくていいよ?
「源之進さん……。なるほど。やから源さん……。臣から、よう話は聞いとりました。一緒に暮らしとった大切な人のこと。この家で暮らすようになってから、一緒に暮らしとる好きな人が家族やと聞いた臣が、やっぱり源さんは家族やったと言うてました。それはもう、嬉しそうに」
「……」
「先ほどは、本当に申し訳ありませんでした。俺は、臣のことになると簡単に冷静さを欠きます。自覚はあるんです。反省しとります」
半助は深々と頭を下げた。
好きな人を守るためとか、勝手に体が動くのは当たり前じゃないかな。俺もよくある。そして怒られるんだよね。半助、俺たち一緒だよ。もうこれ、仕方ないよ。
ちっ、て源さんが舌打ちした。緋色がたまにして、常陸丸に怒られるやつだ。
「……殿は」
少ししてから、源さんはやっぱり俺の方を見てから話し始めた。俺のことは気にしなくていいんだけどなあ。気になるなら、じいやたちみたいに隠れていようか?あんなに上手には隠れられないけど。
「臣は今、幸せに暮らしとると仰った。それなら、もう俺はお役御免や。それでええ。俺は、それでええ」
「はい」
「けど、なんで。なんでここで暮らす?殿は、殿とは」
源さんは、ぐっと口を結んだ。続きがありそうだったのに。
「あの。臣は、その、城は」
顔を上げて口を開いた半助の言葉を、源さんが手を上げて止めた。
「聞いた。城が怖いて。ほな、城やない近い屋敷やったらあかんのか」
「正確には臣は、城が怖いんやのうて、羽織袴姿の人があかんのやないかというのが医師の見立てです。こちらの国では、正装に羽織袴を着る人はもうほとんど無いので絶対に安心です」
「安心……」
「色々と、その、症状が」
「夜に、泣くんか」
「今はもう、滅多とありません」
「そうか……」
源さんも、壱臣が夜に泣くこと知ってるのか。そっか。
「いえ。源さんがよろしければ、ここで」
「……」
源さんは、じろりと半助を睨んでお返事をしない。壱臣がいなくなったら、さっきよりもっと怖い顔になった。源さんも、壱臣には優しい顔してたんだなあ。
「源さん。ここでいい?ここね、半助と壱臣のお部屋」
「ここで、ええです」
俺が聞いたら、喉がぎゅってしまってるみたいな声で答えた。
いいのかー。
ここ、座ってお話できる椅子とかないんだけど。下に降りたら、お客さまとお話できる用のお部屋があるんだけどな。ま、いっか。一個だけ置いてある座卓の前に座ればいっか。
座卓の他には、大きなベッドが一つ置いてあるだけであんまり物がない部屋はとっても広い。だからまあ、どこにでも座れる。どこにでも座れるように床にはふかふかの敷物が敷いてある。俺の部屋と一緒。どこでもごろごろと寝れるし、気持ちいい。壱臣が転んでも痛くないようにしてあるのかな。そうかも。
あ、お茶もないな。取りに行く?でも俺、お話聞きたいから、取りに行ってたら聞けなくなっちゃう。
うーん。
ま、いっか。
「成人さま?」
「座って、座って」
俺の部屋じゃないけど。
「あ、はい」
「はい……」
座卓の前に座ったら、二人はちゃんと向かい合わせになる。俺は横で聞いておくね。
「改めまして。半助と申します。名字は、ありません」
「……源之進や。こちらも名字はない」
源さんは、俺の方をちらりと見て口を開いた。ん?俺のことは気にしなくていいよ?
「源之進さん……。なるほど。やから源さん……。臣から、よう話は聞いとりました。一緒に暮らしとった大切な人のこと。この家で暮らすようになってから、一緒に暮らしとる好きな人が家族やと聞いた臣が、やっぱり源さんは家族やったと言うてました。それはもう、嬉しそうに」
「……」
「先ほどは、本当に申し訳ありませんでした。俺は、臣のことになると簡単に冷静さを欠きます。自覚はあるんです。反省しとります」
半助は深々と頭を下げた。
好きな人を守るためとか、勝手に体が動くのは当たり前じゃないかな。俺もよくある。そして怒られるんだよね。半助、俺たち一緒だよ。もうこれ、仕方ないよ。
ちっ、て源さんが舌打ちした。緋色がたまにして、常陸丸に怒られるやつだ。
「……殿は」
少ししてから、源さんはやっぱり俺の方を見てから話し始めた。俺のことは気にしなくていいんだけどなあ。気になるなら、じいやたちみたいに隠れていようか?あんなに上手には隠れられないけど。
「臣は今、幸せに暮らしとると仰った。それなら、もう俺はお役御免や。それでええ。俺は、それでええ」
「はい」
「けど、なんで。なんでここで暮らす?殿は、殿とは」
源さんは、ぐっと口を結んだ。続きがありそうだったのに。
「あの。臣は、その、城は」
顔を上げて口を開いた半助の言葉を、源さんが手を上げて止めた。
「聞いた。城が怖いて。ほな、城やない近い屋敷やったらあかんのか」
「正確には臣は、城が怖いんやのうて、羽織袴姿の人があかんのやないかというのが医師の見立てです。こちらの国では、正装に羽織袴を着る人はもうほとんど無いので絶対に安心です」
「安心……」
「色々と、その、症状が」
「夜に、泣くんか」
「今はもう、滅多とありません」
「そうか……」
源さんも、壱臣が夜に泣くこと知ってるのか。そっか。
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