【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

132 家族っていうのはね  成人

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「あ、ああ。いや、その、は、ははっ」

 源さんは、包拳礼の手をそのままに頭を下げてから手を解いた。解いた手をうろうろさせてから下に下ろす。

成人なるひと。源さんはまだ今、離宮うちに着いたばかりだからゆっくりな」

 村次むらつぐが言う。

「ん?」
「ゆっくり家族になればいい」

 あ、そっか。まだ一緒に暮らしてないもんね。今日から一緒に暮らすんだもんね。

「分かった!」
「は?あ、え?家族……?あ、その、成人なるひと殿下。俺はおみの、壱臣いちおみさまの家族じゃねえです。その、預かって……殿様から預かってた大事な、その若様で……」
「え?」

 にこにこと源さんの横にいた壱臣いちおみが、目を大きく開いて源さんを見た。壱臣いちおみ、そんなに目を大きく開けたんだね。いつも優しく笑ってるみたいな目が、眉と一緒に下がる。

「そ、そうやったん?父上が言うたから、一緒に居てくれたん?」

 壱臣いちおみの声は小さくて震えている。
 源さんは、何か壱臣いちおみがとても悲しくなるような事を言ったんだ。

「あ、いや、違う。そうやなくて、その、いや、あれだ。お前が若様やなんて、名前を聞くまで知らんかったんやから、その、正確には、勝手に預かってたというか何というか……」
「若様やなかったら、一緒におってくれんかったん?」
「そんな訳あるか!ああ、いや、怒っとらん。怒っとらんから泣くな。なあ、泣かんでくれおみ
「うちは、うちはずっと、源さんだけ……源さんしかおらんかっ……。ひっ。家族、言われて思い浮かぶんは、ひっ、いっつも、一人だけ、やった、のに……」
「……!」

 壱臣いちおみは顔を覆って泣き出してしまった。

村次むらつぐ、これは悲しいの涙?」
「そうだな」

 え、なんで?せっかく大好きな家族に会えたのに、なんで壱臣いちおみは悲しい?
 村次むらつぐは源さんを鋭い目で睨んだ。怒ってる?村次むらつぐはたぶん怒ってる。

源之進げんのしんさん、大切なことはきちんと伝えないと駄目です」
「いや、俺は、ほんまにただの、下っ端の端っこの料理人で、そんな、若様の、か、家族やなんて、恐れ多」
「一緒に暮らしてた好きな人じゃないの?」

 そうか。分かった。
 壱臣いちおみが源さんのこと家族って俺に教えてくれたのに、源さんは壱臣いちおみのこと家族じゃないって言ったんだ。だから、壱臣いちおみは悲しくなっちゃったんだ。

「あ。え、そうです……一緒に暮らしてました。二人で、ずっと二人で……」
壱臣いちおみのこと、好き?」
「あ、ええ。そりゃ、もちろん……あ、いや……はい」
「それを家族って言うんだよ?」
「え……?」
「一緒に暮らしてる好きな人が家族なんだよ」
「……!」

 分かった?
 ね?壱臣いちおみと源さんは家族でしょ?
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