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第八章 郷に入っては郷に従え
125 救いの手 弐角
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帰った。良かった……。
西中国一向の、八台の車が走り去った辺りをぼんやりと眺める。
考えとったより早うに済んで、しかも父上の予定通り、真中家の当主を息子にすげ替えるだけで事は済んだ。その場凌ぎの感は否めないが、今は最善の手やろうと思う。無事、終わったことへの安堵に、知らずため息を吐き、慌てて背筋を伸ばした。
隠されとった跡取りである俺は、他家の跡取りと交流したことがない。お家騒動の対処に忙しかった父上にも、久しぶりの本格的な外交やった。他家の様子は徹底的に調べさせとったけど我が家の人手も多くはなく、薄氷を踏むような危うさを孕んだ此度の結婚式と披露宴。皇家から緋色殿下と成人さまが来てくださることも、とても有り難く嬉しいことやったけど、その事で起きるであろう騒動を思うと憂鬱でもあったり……。
けど、来てくださった緋色殿下は終始穏やかで、友として祝ってくれとるんやなってことがよう分かった。ほんまに嬉しかった。成人さまも、いつも通りご機嫌さんで楽しんでくださってるようやった。何よりや。
「緋色殿下。もし差し支えなければ、この後の昼餐を共にしつつ、少々相談に乗って頂ければ、と」
「……朱実、あー、いや兄、いや、皇太子殿下に話を通すくらいはしておくが」
父の言葉に、はっと思考を戻す。まだ終わってへんかった。しっかりせな。
昼餐、昼餐か……。また、ちょっとしたご馳走が並んでまうかな。何か温かいもんをさらさらっと食うて寝直したいな。
思わず浮かんだ考えに頭を横に振る。仕事、仕事。
けどまあ、緋色殿下の返事には少し吹き出しそうになった。呼び方なんてどんなんでもええやん。皇太子殿下の名前を緋色殿下が呼び捨てにしとっても、誰も何も言わんと思うけど。
そして、相変わらずの殿下にも思わず笑みが出る。
皇太子殿下に、兄上様に丸投げしようとしとるんやな、案件を。自分は関係ないって顔して逃げようとしとる。いっつもそうやって逃げようとして、ほんで逃げられずに……。
くく、と声が出そうになって抑える。
ふと視線を感じて目をやると、にこにこと笑う成人さまと目が合った。
「良かった。弐角、笑った」
「え?あ?え?」
成人さまは、緋色殿下の横から身軽に歩いてきて俺の前に立つ。その細い右手が、俺の頬に伸ばされた。目の下を優しく擦る親指。
「お部屋に戻って、早く寝てね。目の下が黒いのは、たくさん疲れてる時だから弐角はもうお休みね」
ああ。成人さま……!
拝んでもええかな。
西中国一向の、八台の車が走り去った辺りをぼんやりと眺める。
考えとったより早うに済んで、しかも父上の予定通り、真中家の当主を息子にすげ替えるだけで事は済んだ。その場凌ぎの感は否めないが、今は最善の手やろうと思う。無事、終わったことへの安堵に、知らずため息を吐き、慌てて背筋を伸ばした。
隠されとった跡取りである俺は、他家の跡取りと交流したことがない。お家騒動の対処に忙しかった父上にも、久しぶりの本格的な外交やった。他家の様子は徹底的に調べさせとったけど我が家の人手も多くはなく、薄氷を踏むような危うさを孕んだ此度の結婚式と披露宴。皇家から緋色殿下と成人さまが来てくださることも、とても有り難く嬉しいことやったけど、その事で起きるであろう騒動を思うと憂鬱でもあったり……。
けど、来てくださった緋色殿下は終始穏やかで、友として祝ってくれとるんやなってことがよう分かった。ほんまに嬉しかった。成人さまも、いつも通りご機嫌さんで楽しんでくださってるようやった。何よりや。
「緋色殿下。もし差し支えなければ、この後の昼餐を共にしつつ、少々相談に乗って頂ければ、と」
「……朱実、あー、いや兄、いや、皇太子殿下に話を通すくらいはしておくが」
父の言葉に、はっと思考を戻す。まだ終わってへんかった。しっかりせな。
昼餐、昼餐か……。また、ちょっとしたご馳走が並んでまうかな。何か温かいもんをさらさらっと食うて寝直したいな。
思わず浮かんだ考えに頭を横に振る。仕事、仕事。
けどまあ、緋色殿下の返事には少し吹き出しそうになった。呼び方なんてどんなんでもええやん。皇太子殿下の名前を緋色殿下が呼び捨てにしとっても、誰も何も言わんと思うけど。
そして、相変わらずの殿下にも思わず笑みが出る。
皇太子殿下に、兄上様に丸投げしようとしとるんやな、案件を。自分は関係ないって顔して逃げようとしとる。いっつもそうやって逃げようとして、ほんで逃げられずに……。
くく、と声が出そうになって抑える。
ふと視線を感じて目をやると、にこにこと笑う成人さまと目が合った。
「良かった。弐角、笑った」
「え?あ?え?」
成人さまは、緋色殿下の横から身軽に歩いてきて俺の前に立つ。その細い右手が、俺の頬に伸ばされた。目の下を優しく擦る親指。
「お部屋に戻って、早く寝てね。目の下が黒いのは、たくさん疲れてる時だから弐角はもうお休みね」
ああ。成人さま……!
拝んでもええかな。
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