【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

122 なんでこんな事に  真中正一郎

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「わ、わたし、は……」
「よう考えて口を開くことや、真中まなか正一郎しょういちろう。これ以上の暴言は見過ごせん。緋色ひいろ殿下のお手を煩わせるまでもない。西国として真中まなか家を裁くことになるがよいか?」

 西、やと?九鬼が?九鬼が、西真中まなかを裁く言うんか。そんな、そんな阿呆なこと……。
 かっと頭に上りかけた血が、九鬼より更に上座からの恐ろしい気配に、すぅっと引いた。父が、不敬罪で罰を受けたことを思い出した。紛れもなく自分より上の存在。九鬼くきなどとは訳がちがう。
 開きかけた口をすぐに閉じることもできず、はくはくと意味もなく開け閉めする。  
 なんでや。なんでこないな事になっとるんや。

正一郎しょういちろう。ついにや。ついに機が来たで。此度の宴には皇族の列席がある。わしが必ず皇族と真中まなかの良い縁を繋いで、この西中国さいちゅうこくを、まごうかたなき西国の筆頭へと押し上げてくるさかいな。良い知らせを待っとき」
 
 父はそう言うて、意気揚々と今回のうたげに出かけていった。
 常々、父が言うとったこと。皇国の属国となるんに、うちのご先祖さまは最後まで反対やった。けど、九鬼が近隣の領地に上手いこと言うて取り込んで、代表として皇国と交渉してしもた。それから、西国の代表は九鬼のようになっとる。けど、元々からうちの方が国としては大きいんやし、真ん中で一番力を持っとったんや。今も国力は上や。西のどこより上や。皇国との交渉をあっちがしとるいうだけでうちらは同格の扱いになっとるけどな、ほんまはうちが上なんや、と。
 西宋国さいそうこくは、ここんとこの九鬼のお家騒動で国力が減っとるから、皇国に愛想尽かされとるんや。その証拠にな、皇国は西宋国さいそうこくへのお渡りが減っとった。これは好機やで。うちとやり取りした方が、皇国にとってはよほど得になるて気付いてさえもらえたらええだけや。皇国との交渉権を得て、名実共にうちが上になる。
 そう言うて出かけて行った父。
 それが、どうや。
 父は罪人として裁かれたという。不敬、不敬やて?皇家と繋がりを得るためにここへ来た父が、そんな事をする訳がない。自分かて、こうして我慢を重ねて口を閉じとるというのに、あの用心深い父が?
 これは一体、どういうことなんや。

「まずは礼儀を弁え、こちらに来いと伝えた時間に来れなんだことを詫びよ」
「そ……れは、あまりに急、な……」
「昨夜には通信にて連絡を入れた上、ふみも届けたはず。更に、早朝に出ずとも間に合う時間の配分にした。ここまでして呼び出した時間の通りに来れぬとは、どのような怠慢であろうか」
「た、怠慢?」
「怠慢やろ。それとも、其方そなたの能力不足か?えらい何台も車を連ねて来たようやけど、今、何しにうちに来たんか分かっとるんやろな?昨夜の通信は聞いとったか?ふみはちゃんと読んだんか?領主交代の手続きだけ済んだら、罪人となった父親連れて帰るんやで。あんまり仰々しく車を連ねとらん方がええんちゃうか」

 ほんまに、なんでこんな事に……。
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