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第八章 郷に入っては郷に従え
121 真剣な横顔 緋色
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「あ、分かった」
ようやくしっかりと頭を下げた男を見ながら成人が言う。成人は、随分とこうした場面に慣れてきた。頭を下げられること、礼を尽くされることを真っ直ぐ受け止める様子が、見ていて気持ちいい。頑張っている伴侶を前にすると、俺もしっかりせねばな、と思えてくるから不思議だ。身分だ、礼だと面倒臭いという気持ちしか無かったのに。
「何が分かった?」
「この人、間違えてるんだ」
「ほう?」
何かを懸命に考えていると思ったら、何故この男がきちんと礼を出来ないかについて考えていたのか?そんなに深く考えることでもないぞ。無礼な者は、自分を何より偉いと思っているんだ。ただそれだけだ。実際に何より偉いのはただ一人、皇帝陛下のみ。だが、本当の意味でそれを理解している者は少ない。自分を頂点とする場所に暮らしていると、そこから外に出た時に自分より上の存在を簡単に受け入れられないものらしい。
そうして勘違いして破滅していく者を何人も見てきた。
父や母のように、突然頂点に押し上げられた存在の周りには勘違いの輩がたくさん湧く。壱鷹のように、若輩だったが故に徐々に権力を削がれ、侮られた例もある。成人のように、出自と見た目で侮られることもある。
だが、どのような理由でその身分にあるのであれ、その者が持つ身分は変わらない。であれば、勘違いをした者には厳然たる処罰が必要であろう。どのような出自だろうが、可愛らしい見た目をしていようが、成人は生まれながらの皇族である俺が選んだ俺の伴侶だ。成人を侮ることは皇家を侮ることだ。
「この人は領主の一人だよね?鶴丸と一緒の」
「そうだな」
厳密にはあいつは次期領主で、この男はたった今領主を継いだからこの男の方が上だが、あいつは名代としてこの城に来ていたからその認識でいいだろう。
「なら、この人は壱鷹よりも下だから、九鬼殿じゃなくて九鬼様って言わなくちゃいけない。そこからもう間違い」
「そうだな」
思わず頬が緩む。真剣に考えているのが可愛い。
「鶴丸は上様って言ってた」
「そうか」
よく聞いている。九鬼家は西の総まとめ。上様で間違いない。
「真中も、間違えないようにこれからは壱鷹のことは上様って呼ぶようにしたらいい」
「お、恐れながら、申し上げます」
流石に頭は下げたまま、小太りの男は言った。
「うん。何?」
「わが領地は西の中心にあり、九鬼殿の西宋国と共に西国のまとめを担ってきとります。よって我らは九鬼の下でなく同格。他の領地が我らの下なのでございます」
「え?」
「それは、誰がそう言ったのだ?」
せっかく正しく覚えている成人に間違った知識を吹き込むな、馬鹿。そう思うと、自然と声が低くなる。
「は?いえ、皆が知るじょうし、き……」
顔を上げた男が、俺を見て言葉を詰まらせた。
「間違いだ」
「……っ」
「皇家は、九鬼を西国の総まとめとしている。西国全土の国主は九鬼であり、各領地の領主はその家臣に過ぎぬ」
「……」
愕然とした顔をされたが常識だろう?何故知らぬのか、逆に教えてほしいくらいだが。
「家臣としての分をわきまえられぬというなら、父親同様処罰するまで。俺は成人ほど甘くない。さて、西中国の領主とやら。序列を踏まえて礼を尽くせ」
ようやくしっかりと頭を下げた男を見ながら成人が言う。成人は、随分とこうした場面に慣れてきた。頭を下げられること、礼を尽くされることを真っ直ぐ受け止める様子が、見ていて気持ちいい。頑張っている伴侶を前にすると、俺もしっかりせねばな、と思えてくるから不思議だ。身分だ、礼だと面倒臭いという気持ちしか無かったのに。
「何が分かった?」
「この人、間違えてるんだ」
「ほう?」
何かを懸命に考えていると思ったら、何故この男がきちんと礼を出来ないかについて考えていたのか?そんなに深く考えることでもないぞ。無礼な者は、自分を何より偉いと思っているんだ。ただそれだけだ。実際に何より偉いのはただ一人、皇帝陛下のみ。だが、本当の意味でそれを理解している者は少ない。自分を頂点とする場所に暮らしていると、そこから外に出た時に自分より上の存在を簡単に受け入れられないものらしい。
そうして勘違いして破滅していく者を何人も見てきた。
父や母のように、突然頂点に押し上げられた存在の周りには勘違いの輩がたくさん湧く。壱鷹のように、若輩だったが故に徐々に権力を削がれ、侮られた例もある。成人のように、出自と見た目で侮られることもある。
だが、どのような理由でその身分にあるのであれ、その者が持つ身分は変わらない。であれば、勘違いをした者には厳然たる処罰が必要であろう。どのような出自だろうが、可愛らしい見た目をしていようが、成人は生まれながらの皇族である俺が選んだ俺の伴侶だ。成人を侮ることは皇家を侮ることだ。
「この人は領主の一人だよね?鶴丸と一緒の」
「そうだな」
厳密にはあいつは次期領主で、この男はたった今領主を継いだからこの男の方が上だが、あいつは名代としてこの城に来ていたからその認識でいいだろう。
「なら、この人は壱鷹よりも下だから、九鬼殿じゃなくて九鬼様って言わなくちゃいけない。そこからもう間違い」
「そうだな」
思わず頬が緩む。真剣に考えているのが可愛い。
「鶴丸は上様って言ってた」
「そうか」
よく聞いている。九鬼家は西の総まとめ。上様で間違いない。
「真中も、間違えないようにこれからは壱鷹のことは上様って呼ぶようにしたらいい」
「お、恐れながら、申し上げます」
流石に頭は下げたまま、小太りの男は言った。
「うん。何?」
「わが領地は西の中心にあり、九鬼殿の西宋国と共に西国のまとめを担ってきとります。よって我らは九鬼の下でなく同格。他の領地が我らの下なのでございます」
「え?」
「それは、誰がそう言ったのだ?」
せっかく正しく覚えている成人に間違った知識を吹き込むな、馬鹿。そう思うと、自然と声が低くなる。
「は?いえ、皆が知るじょうし、き……」
顔を上げた男が、俺を見て言葉を詰まらせた。
「間違いだ」
「……っ」
「皇家は、九鬼を西国の総まとめとしている。西国全土の国主は九鬼であり、各領地の領主はその家臣に過ぎぬ」
「……」
愕然とした顔をされたが常識だろう?何故知らぬのか、逆に教えてほしいくらいだが。
「家臣としての分をわきまえられぬというなら、父親同様処罰するまで。俺は成人ほど甘くない。さて、西中国の領主とやら。序列を踏まえて礼を尽くせ」
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