【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

120 決まりは守るもの  成人

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 朝ご飯を食べたらすぐに俺たちも帰る予定だったのだけど、壱鷹いちたかに頼まれて昼ご飯の後の出発になってしまった。西中国さいちゅうこくから人が来るらしい。あの、もう西中国さいちゅうこくの領主じゃなくなった人の子どもが、新しい領主になるための手続きをしにくるんだって。鶴丸つるまるが、俺の代わりに言ってくれたやつだ。あの人は、俺にちゃんと包拳礼しなかったし、色々ちゃんとしていなかったから罪になって、領主を交代しなさいというのが罰になった。色んな人に礼をして礼儀を覚えた方がいい、って俺が言ったから名字無しの身分にもなった。名字無しは、一番下の身分らしいから、名字が無くなったら名字のある人皆に礼をしなくちゃいけない。礼をしなさ過ぎて礼を忘れた真中まなか、あ、今は名字無いから真中まなかじゃなかった、ええっと、真中まなかだった人にはぴったりの罰だ。
 ……。よく考えたら、緋色ひいろや俺にも名字が無い。身分の中で一番上の父さまにも名字が無い。一番上と一番下が同じだなんて、不思議。結局、偉いのか偉くないのかよく分かんないな。人が決めたことなんてそんなもんか。説明できないこともあったりする。
 でも、決まりがあるなら守らないとね。納得いかないなら、決まりを変えるようなことを考えてから行動しないといけない。決まりってそういうものだ。
 だから。

九鬼くき殿。領主交代の手続きにつきましては、御下命の通りと致します。なれど、父を名字無しとして城より放逐致す件につきましては、納得致しかねます」

 予定の時間よりだいぶ遅れてやって来た真中まなかだった人の子どもがそう言っても、決まりは変えられない。
 一応、壱鷹いちたかに少し頭を下げているけれど、この人も礼が下手くそみたいだ。俺たちへの包拳礼は、壱鷹いちたか弐角にかくがしたから一緒にしていたけれど、もういいよって言う前に頭を上げていたから下手くそ。

「決定事項や。其方そなたが何を言おうと刑は変わらん。納得いかん、いうんは状況を正確に把握できとらんということか?」
「父は皇家の方々と交流できるんがとても楽しみや言うて、今回のうたげに出かけましたんや。その父が、皇家へ不敬を働くなど信じがとうて」
其方そなた成人なるひと殿下を疑うと、そういう訳か?」
「あ、いえ。いや、その」

 新しい真中まなかはちらちらと俺を見る。

真中まなかだった人は、俺に包拳礼しなかった。色々、駄目だったから見逃せない」
「あ、は。しかし、それはたまたま、その、なるひと?殿下?に気付いておらず遅れただけであるかと……」
「あはは」
「どうした?」

 思わず笑ったら、皇族の顔でただ座っていた緋色ひいろが聞いてきた。

真中まなかだった人と同じようなこと言ったから、面白かった」
「同じようなこと?」
「年寄りだから、気付くのと動くのがちょっと遅れたって」
「はっ。気付かない時点で罪だ」

 ま、そうだよね。

「一人でも許したら駄目。それじゃ、決まりが守れない。だから、真中まなかだった人の罰はそのまま。ちゃんとしてね」
「は、は……」

 新しい真中まなかは、緋色ひいろに睨まれてやっと深く深く頭を下げた。
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