994 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
118 お見送り 成人
しおりを挟む
「鶴丸、松吉、またね。また遊ぼうね」
「成人殿下、わざわざお見送り頂き、ありがとうございます。朝早うにすみません」
「いいよー。俺はねえ、俺は起きてるの、朝は。でも、緋色が早くに起きれなくてお見送りできなくてごめんなさい」
「いえ、そんな。とんでもない」
鶴丸が首と手をぶんぶんと横に振った。目の端で、力丸もぶんぶんと手を振っているのが見える。
あ。
「あ、間違えた。緋色は早くなくても起きれないんだった」
力丸が、うんうんと頷いた。鶴丸と松吉が、ぱっとうつむいて肩を震わせている。昨日もしてたね、それ。なんだろ?
少ししたら、とってもいい笑顔で顔を上げた。
「是非、うちの方にも遊びに来てください。何も楽しい遊び場などはないんですけども」
「行くー。鶴丸と松吉がいたらいい」
「……!」
少し黙った鶴丸が今度は胸を押さえて、うって言って目をつぶった。横で松吉も同じ仕草をしている。仲良しね。胸は大丈夫?それからまた、ぱあっと笑う。
「美味しいもん用意して待っとります」
「うちは、殿下んとこ行きたいです。ほんまに行きますよ?あいすくりーむ?でしたっけ?絶対、食べに行きますからね」
「やった!来てね。すぐ来てね。いっぱい作ってもらっとく!」
今度は二人とも片手で顔を覆って上を向いてしまった。んー?なにか見える?
「この、たらしが」
「力丸、なに?」
「何でもねえ。友だちがたくさんできて良かったな、成人」
「えへへ。うん」
「でもな」
小さな声で話した力丸は、俺に近付いてきてもっと声を潜める。
「お前の一番の親友は俺だ」
ええっと。
あ、うん。
「当たり前だけど?」
って言ったら、一回、目を見開いた力丸が、がばっと肩を組んできた。
「だから、お前から離れられないんだよなあ」
力丸が、俺の首すじにぐりぐりしようとした所でひやりとした気配が近くに寄ってくる。じいやかなー。
「おっと、あぶねえ」
「皆さま、仲良しですねえ」
いつの間にか前を向いていた鶴丸が、にこにことしてもう一度頭を下げた。
「ほな、帰ります。上様も、なんや処理を丸投げしてすんません」
慌てて見送りに出てきた壱鷹にも、鶴丸は丁寧に頭を下げた。壱鷹は、先に俺に包拳礼をして、おはようございますって言う。俺も、おはよって言ってから、もういいよの合図をした。手をひらひらしたら、もういいよってことになるの、早く知っておけば良かった。これ便利。
壱鷹は礼を解いて鶴丸に向き直る。
礼の順番を間違えない人たちは気持ちがいい。俺も分かりやすくて助かる。
「いや。見事な裁きやった。大変な役目をやらせたな。褒美はまた、必ず届ける」
「そんなん、いりません。上様の助けになれたなら、幸いです」
「そういう訳にはいかん。事と次第によっては領地替え……」
「勘弁してください!うちらは土着です。生まれた時から領地と共にあるんです。それはあきません」
「上様、それは褒美ちゃいます」
鶴丸と松吉が、珍しく壱鷹の言葉の途中で口を挟んだ。こういうのも、いい時とだめな時がある。
「そうやな。すまん。また話に来てくれるか」
「当たり前です。協力は惜しみません」
「末永うよろしく頼む」
「それはもちろん」
良かった。これは、口を挟んでいいやつだった。
「ほな、さようなら」
鶴丸たちは強いから護衛もほんの少しで、使用人もほんの少しで来たみたい。車一台で身軽に帰って行った。
最後まで、楽しかった!
俺たちも、緋色を起こして帰ろうかな。
「成人殿下、わざわざお見送り頂き、ありがとうございます。朝早うにすみません」
「いいよー。俺はねえ、俺は起きてるの、朝は。でも、緋色が早くに起きれなくてお見送りできなくてごめんなさい」
「いえ、そんな。とんでもない」
鶴丸が首と手をぶんぶんと横に振った。目の端で、力丸もぶんぶんと手を振っているのが見える。
あ。
「あ、間違えた。緋色は早くなくても起きれないんだった」
力丸が、うんうんと頷いた。鶴丸と松吉が、ぱっとうつむいて肩を震わせている。昨日もしてたね、それ。なんだろ?
少ししたら、とってもいい笑顔で顔を上げた。
「是非、うちの方にも遊びに来てください。何も楽しい遊び場などはないんですけども」
「行くー。鶴丸と松吉がいたらいい」
「……!」
少し黙った鶴丸が今度は胸を押さえて、うって言って目をつぶった。横で松吉も同じ仕草をしている。仲良しね。胸は大丈夫?それからまた、ぱあっと笑う。
「美味しいもん用意して待っとります」
「うちは、殿下んとこ行きたいです。ほんまに行きますよ?あいすくりーむ?でしたっけ?絶対、食べに行きますからね」
「やった!来てね。すぐ来てね。いっぱい作ってもらっとく!」
今度は二人とも片手で顔を覆って上を向いてしまった。んー?なにか見える?
「この、たらしが」
「力丸、なに?」
「何でもねえ。友だちがたくさんできて良かったな、成人」
「えへへ。うん」
「でもな」
小さな声で話した力丸は、俺に近付いてきてもっと声を潜める。
「お前の一番の親友は俺だ」
ええっと。
あ、うん。
「当たり前だけど?」
って言ったら、一回、目を見開いた力丸が、がばっと肩を組んできた。
「だから、お前から離れられないんだよなあ」
力丸が、俺の首すじにぐりぐりしようとした所でひやりとした気配が近くに寄ってくる。じいやかなー。
「おっと、あぶねえ」
「皆さま、仲良しですねえ」
いつの間にか前を向いていた鶴丸が、にこにことしてもう一度頭を下げた。
「ほな、帰ります。上様も、なんや処理を丸投げしてすんません」
慌てて見送りに出てきた壱鷹にも、鶴丸は丁寧に頭を下げた。壱鷹は、先に俺に包拳礼をして、おはようございますって言う。俺も、おはよって言ってから、もういいよの合図をした。手をひらひらしたら、もういいよってことになるの、早く知っておけば良かった。これ便利。
壱鷹は礼を解いて鶴丸に向き直る。
礼の順番を間違えない人たちは気持ちがいい。俺も分かりやすくて助かる。
「いや。見事な裁きやった。大変な役目をやらせたな。褒美はまた、必ず届ける」
「そんなん、いりません。上様の助けになれたなら、幸いです」
「そういう訳にはいかん。事と次第によっては領地替え……」
「勘弁してください!うちらは土着です。生まれた時から領地と共にあるんです。それはあきません」
「上様、それは褒美ちゃいます」
鶴丸と松吉が、珍しく壱鷹の言葉の途中で口を挟んだ。こういうのも、いい時とだめな時がある。
「そうやな。すまん。また話に来てくれるか」
「当たり前です。協力は惜しみません」
「末永うよろしく頼む」
「それはもちろん」
良かった。これは、口を挟んでいいやつだった。
「ほな、さようなら」
鶴丸たちは強いから護衛もほんの少しで、使用人もほんの少しで来たみたい。車一台で身軽に帰って行った。
最後まで、楽しかった!
俺たちも、緋色を起こして帰ろうかな。
546
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる