【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

116 知っている  成人

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「いっぱい切ったね?」
「いや、大してなかったぞ」
「え?」
「大半、偽物の髪だった」 
「にせもの?」
「ふーむ。では少々切っても意味はなかったな」
「もともとさ。髪の毛なんて切ってもまた伸びるからさ。罰としてどうなのって俺は思ってたんっすよね」
「同感だな」

 それは俺も思ってたけどさ。そんなことより。

「ねえねえ、にせものって?」 

 もー。さっきからじいやと力丸二人で楽しそうにしてさ。何でかじゃんけんしてたし。勝ったじいやじゃなくて負けた力丸が、西中国さいちゅうこくの人の髪の毛を切りに行った。切った髪の毛をぽいって捨てて帰ってきたから、切るのが嫌だったのかな。でも仕方ないよね。この人無礼だったし。自分で言ったんだもんねえ。無礼者は切っていいって。

「本物の髪の毛があんまり無くなったから、他の人の髪の毛や作った髪の毛なんかを上手いこと混ぜ込んで、たくさんあるように見せてたってことだよ」
「ふーん。なんで?」
「さあ?髪の毛が綺麗で長い方がいいからかなあ」
「いいの?」
「知らん。俺は髪の毛長かったことないし」
「俺ある。ちょっと長かったこと」
「え?そうなの?」
「戦場にずっといたら勝手に伸びた。ぎゅって紐でくくれば、短いより邪魔じゃない」
「そういうもんか」
「でも、洗わないと絡まって固まっちゃうし痒くなるから困る」
「あー、そう。そうなんだ?」
「やっぱり短い方が痒くなくていい。でも剃ると、お日様が暑い」
「はは。なるほどね。毎日洗えば痒くないから、今は好きな長さにしたらいいんじゃね?」
「そっか」
「お風呂好きになったんだろ?」
「好き」
「お前、ちょっと長くてもそれはそれで可愛い……あ、いや、似合うと思うぞ」
「そう?緋色ひいろに聞いてみる」
「あー。うん、まあそうだな。そうしろそうしろ」

 何か横で、鶴丸つるまる松吉まつきちが俯いて震えている。

鶴丸つるまる。寒い?」
「いいええ。んっ。んんんっ」

 鶴丸つるまるは少し呼吸を整えてから、にこにこの顔をこちらに向けてくれた。

「あの、真中まなかさまの髪が予想以上に少のうて、ちょっと、おかし……いえ、驚いてしまいまして」

 その真中まなかさまは、静かだと思ったら口に布を巻かれていた。いつの間にか手もぐるぐる縛られて、護衛たちは包拳礼をして跪いている。
 俺が見たら、うーうーと真中まなかの口元から音がした。なんだろ?

「なんか喋ってる」
「聞きますか?」
「聞く」

 じいやがすぐに口の布だけ取って帰ってくる。二人共、すぐ離れるね。俺も、あの人髪の毛の美容液つけ過ぎて臭いから、あんまり近くに行きたくないけど。

「なんという、なんという無体な」
「むたいって?」
「うーむ。無理やりとか、法を無視して無茶をするといったようなことですか」
「んー?」
「髪を、髪を切るのは、この国では首を切るに等しいとご存知ないからこのような」
「知ってるよ」
「は?」
「知ってるけど」

 だって、三郎さぶろう椿つばきたちが言ってたの聞いたし。さっきの披露宴の時も一人髪を切られて、うわあってなってたし。

「知って……」
「うん。でも、首と違って髪の毛はまた伸びるから等しくないと思う」

 力丸りきまるもじいやも横で頷いている。だよね。

「じゃあ、罰が足りないかなあ。無礼討ち、初めてだから分かんないな」

 罰を与えるのって難しいんだな。
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