990 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
114 その、覚悟 鶴丸
しおりを挟む
「そうですけど、何か?」
「何か?やあらへん!自分らだけ殿下のお城へ招待されて、自分らだけで行こうとしとったんか!とんでもない!とんでもない事やで!」
ああ、うるさいうるさい。おっちゃんが騒ぐから人が集まってきたやん。姿の見えん色んなのが。護衛共、気付かんか。首の後ろがちりちりするやろ。ま、もともと緋色殿下んとこのが一人付いてきとったけどな。見送りはいりませんて言うたんやけど、緋色殿下は意外と過保護なんかな。それとも、部下たちの判断?見張り……では無さそうやけど。
「ええか!そのお招きには、わしも同行できるように、ちゃあんと殿下に進言するんやで!分かったな!」
いや、なんでやねん。
心の中ですかさず言うたけど、口に出せんのが残念や。今、こんなにぴったり合う言葉はないいうのに。
とりあえず、目をぱちくりさせとこ。
「だいたいやな!殿下に晩餐に招かれた時に、ちゃあんとわしに連絡せんかったんがあかん!連絡して、その上でわしも同席できるように殿下へ進言して然るべきやろ!其方のような若造が、緋色殿下のような大変に貴い方のとこへ一人で出かけてやな、粗相したらどないするんや!」
「いや、一人やのうて妻と二人です」
「おんなじや!若造が二人に増えたところで粗相が二倍になるだけやないかい!」
粗相しとらんから、殿下の自宅にも招かれたんちゃうかなあ。どう思う、おっちゃん?それと、殿下のような方やなくて、殿下方のような方々とちゃんと言うて。成人殿下のこと、頭からすっぽり抜けとる時点で粗相やわ。
「真中さま。あんまりにも失礼な物言い。流石に腹に据えかねます」
半歩後ろに静かに控えとった奥さんが、すっとうちの横に並んだ。奥さんから徐々に漏れる闘気に気付いた真中の護衛が、ようやく緊張感を取り戻す。
「な、なんや。女は黙っとれ!」
おっちゃんは何にも気付いとらんらしい。それはそれで幸せなんかな。気付いたら、恐ろして立ってもおられんやろしな。
「へえ?同格の国の次期領主夫人に、女は黙っとれ?今日のうちらは父の名代や。同じ身分の他国の領主から領主夫人への言葉遣いとは、とても思えんませんなあ」
「鶴さま。この方、粗相しかせえへんな。とてもやないけど恥ずかしうて、殿下方に紹介などできるわけあらしません」
「な、な、な、なんやと!この!この!若造共が!わしと其方如きが同格やなどと、どの、どの口が!」
「この口や」
べ、と舌を出してみせる。
「いややな、鶴さま。もう同格やないんちゃう?」
「そやな。皇家と繋がりを持ったんやから、うちはもう、九鬼と同列言うてもええかもしれんな」
「な、な、な、こ、こ、こ」
西国筆頭なんて頼まれてもごめんやけど。その地位をうちらが狙う事なんて、天地がひっくり返っても有り得へんけど。
でも。
うちらは、殿下方と縁を結んだ。それはとても心地好い縁で、絶対に手放したくないと思った。これからも殿下方や力丸と仲良うしたい。その為に、九鬼以外の輩に舐められんように振る舞うくらい容易いことや。
少々の面倒事なんて、あの楽しい空間におれることを思たら、なんて事ない。
「こ、この無礼者共!そこへ直れ!無礼討ちにしてくれるわ!」
おっちゃん。うちらにはもう、その、覚悟がある。殿下方と、これからもずっと仲良うする覚悟が。
おっちゃんはどうや?殿下方と仲の良い人間に手を出そうとしとる、そんな覚悟はあるか?
「何か?やあらへん!自分らだけ殿下のお城へ招待されて、自分らだけで行こうとしとったんか!とんでもない!とんでもない事やで!」
ああ、うるさいうるさい。おっちゃんが騒ぐから人が集まってきたやん。姿の見えん色んなのが。護衛共、気付かんか。首の後ろがちりちりするやろ。ま、もともと緋色殿下んとこのが一人付いてきとったけどな。見送りはいりませんて言うたんやけど、緋色殿下は意外と過保護なんかな。それとも、部下たちの判断?見張り……では無さそうやけど。
「ええか!そのお招きには、わしも同行できるように、ちゃあんと殿下に進言するんやで!分かったな!」
いや、なんでやねん。
心の中ですかさず言うたけど、口に出せんのが残念や。今、こんなにぴったり合う言葉はないいうのに。
とりあえず、目をぱちくりさせとこ。
「だいたいやな!殿下に晩餐に招かれた時に、ちゃあんとわしに連絡せんかったんがあかん!連絡して、その上でわしも同席できるように殿下へ進言して然るべきやろ!其方のような若造が、緋色殿下のような大変に貴い方のとこへ一人で出かけてやな、粗相したらどないするんや!」
「いや、一人やのうて妻と二人です」
「おんなじや!若造が二人に増えたところで粗相が二倍になるだけやないかい!」
粗相しとらんから、殿下の自宅にも招かれたんちゃうかなあ。どう思う、おっちゃん?それと、殿下のような方やなくて、殿下方のような方々とちゃんと言うて。成人殿下のこと、頭からすっぽり抜けとる時点で粗相やわ。
「真中さま。あんまりにも失礼な物言い。流石に腹に据えかねます」
半歩後ろに静かに控えとった奥さんが、すっとうちの横に並んだ。奥さんから徐々に漏れる闘気に気付いた真中の護衛が、ようやく緊張感を取り戻す。
「な、なんや。女は黙っとれ!」
おっちゃんは何にも気付いとらんらしい。それはそれで幸せなんかな。気付いたら、恐ろして立ってもおられんやろしな。
「へえ?同格の国の次期領主夫人に、女は黙っとれ?今日のうちらは父の名代や。同じ身分の他国の領主から領主夫人への言葉遣いとは、とても思えんませんなあ」
「鶴さま。この方、粗相しかせえへんな。とてもやないけど恥ずかしうて、殿下方に紹介などできるわけあらしません」
「な、な、な、なんやと!この!この!若造共が!わしと其方如きが同格やなどと、どの、どの口が!」
「この口や」
べ、と舌を出してみせる。
「いややな、鶴さま。もう同格やないんちゃう?」
「そやな。皇家と繋がりを持ったんやから、うちはもう、九鬼と同列言うてもええかもしれんな」
「な、な、な、こ、こ、こ」
西国筆頭なんて頼まれてもごめんやけど。その地位をうちらが狙う事なんて、天地がひっくり返っても有り得へんけど。
でも。
うちらは、殿下方と縁を結んだ。それはとても心地好い縁で、絶対に手放したくないと思った。これからも殿下方や力丸と仲良うしたい。その為に、九鬼以外の輩に舐められんように振る舞うくらい容易いことや。
少々の面倒事なんて、あの楽しい空間におれることを思たら、なんて事ない。
「こ、この無礼者共!そこへ直れ!無礼討ちにしてくれるわ!」
おっちゃん。うちらにはもう、その、覚悟がある。殿下方と、これからもずっと仲良うする覚悟が。
おっちゃんはどうや?殿下方と仲の良い人間に手を出そうとしとる、そんな覚悟はあるか?
551
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる