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第八章 郷に入っては郷に従え
111 不思議な空間 鶴丸
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女同士の話が始まれば、そこに口を挟める余裕はない。しかもあの勢いである。気圧されて聞いているうちに、食事が並び始めた。綺麗に盛り付けられた見栄えの良い料理やけど、至って普通の内容やった。汁物と白ご飯、茶碗蒸し、焼き魚、煮物、ふわふわと黄色い卵焼き、漬物、果物。
皇子様のお食事やから、もっとこう、何なら昼の披露宴の大ご馳走がもう一回出てくるんやないか、と身構えとったから拍子抜けした。そんなん二食続いても胸焼けしそうやけど。
あ、そうか。
緋色殿下も普通のお人でいらっしゃるんやなあ、と唐突に気付いた。殿下も、大ご馳走が二食続いたら胸焼けするんや。それを分かって、厨房の者はそれなりのご馳走を準備したんやな。客人がほとんど来ることの無い田舎に住んどると気付かん気遣いの形。九鬼のお城の者たち、流石やなあ。
「お客さまにご挨拶申し上げます。緋色殿下のうちの専属料理人を務めております広末と申します。この城の方々と共に作ってきた料理を置かせて頂きました。毒見が必要であれば、俺が務めますんでお申し出ください」
「師匠!毒見なら俺がします」
隣に座って頭を下げていた若い男が、広末に鋭い声を飛ばす。いや、そんな、緋色殿下に招かれて毒見してくれなんて言わんけど……。
「すみません。お客さまにご挨拶申し上げます。同じく離宮の料理を担当しております村次と申します。毒見は俺にお申し出ください」
料理人?誰が?この若い男が?嘘やん。めっちゃ強そうなんやけど、包丁が武器やから料理人とか言わんよな。
それにしても、誰も名字を名乗らんのやけど、皇家に仕えてるんやから名字無しではないやんな?うちの城でも、名字無しはおらんのやけど。
「西賀国の各務鶴丸と妻の松吉や。毒見なんてとんでもない。温かいうちに頂かしてもらうな」
「寛大なお言葉、ありがとうございます。あ、それと、ご所望の品を出せずに申し訳ございません」
ご所望の品?あ、あれか。奥さんが食べたがっとった幻のデザートか。いや、他所で作ったらあかんやろ。皇城の幻のデザートなんやから。
「そんなん、またお邪魔した時でええし、気にせんといて」
「是非、うちに来てください!」
広末は、ぱっと愛嬌のある笑顔を見せた。美味しいもの食べさせてくれようとしてるんやな。料理人っぽい料理人やなあ。村次は、ちょっと疑わしいけど。
「殿下。控え目なメニューにしましたけど、これで大丈夫でしたか?」
「おう。広末の采配か。これがいい」
「いやあ、ここの料理長がね、夕食にもう一回大ご馳走を作ろうとしてたんで、慌てて止めたんです。いくらめでたい日でも、ご馳走ばっかり大量に出されたら腹がびっくりしちまいますよ」
「もう入らんって言ってる奴もいるしな」
九鬼の厨房の手柄やなかった……。まあ、そやな。九鬼より上って、殿下方皇族と皇国筆頭九家くらいのもんやし、上へのもてなしを張り切ってしまうのは仕方ない。
この料理人が成人殿下自慢の広末か。厨房に入り込んで殿下方のお食事に気を配ってたんやな。流石や。
緋色殿下の目線の先の成人殿下が、食事を眺めてうーん、と唸っている。
「なる坊。茶碗蒸しは食えるか?味噌汁は?だし巻き玉子一つならどうだ?」
「でも俺、お腹いっぱい……」
「そうかあ。生松先生、どうです?」
「味噌汁だけは飲みましょう、成人。液体だから入るところがきっとありますよ」
「……飲む」
「よし」
広末は、いい笑顔で成人殿下の前に汁物の碗だけ置いた。余りは部屋の隅にそっと置かれる。
……成人殿下の呼び方、色々やな。
「食うぞ」
緋色殿下の号令に、机の周りに座った者が一斉に手を合わせる。やっぱり皆で食べるんか。気付いてたけど驚きや。
「いただきます」
挨拶をして食事を始めてから、こんなに人がおったっけ?と首を傾げた。食事は人数分あるから、おったんやろうけども。
どっから出てきたんやろな……。
皇子様のお食事やから、もっとこう、何なら昼の披露宴の大ご馳走がもう一回出てくるんやないか、と身構えとったから拍子抜けした。そんなん二食続いても胸焼けしそうやけど。
あ、そうか。
緋色殿下も普通のお人でいらっしゃるんやなあ、と唐突に気付いた。殿下も、大ご馳走が二食続いたら胸焼けするんや。それを分かって、厨房の者はそれなりのご馳走を準備したんやな。客人がほとんど来ることの無い田舎に住んどると気付かん気遣いの形。九鬼のお城の者たち、流石やなあ。
「お客さまにご挨拶申し上げます。緋色殿下のうちの専属料理人を務めております広末と申します。この城の方々と共に作ってきた料理を置かせて頂きました。毒見が必要であれば、俺が務めますんでお申し出ください」
「師匠!毒見なら俺がします」
隣に座って頭を下げていた若い男が、広末に鋭い声を飛ばす。いや、そんな、緋色殿下に招かれて毒見してくれなんて言わんけど……。
「すみません。お客さまにご挨拶申し上げます。同じく離宮の料理を担当しております村次と申します。毒見は俺にお申し出ください」
料理人?誰が?この若い男が?嘘やん。めっちゃ強そうなんやけど、包丁が武器やから料理人とか言わんよな。
それにしても、誰も名字を名乗らんのやけど、皇家に仕えてるんやから名字無しではないやんな?うちの城でも、名字無しはおらんのやけど。
「西賀国の各務鶴丸と妻の松吉や。毒見なんてとんでもない。温かいうちに頂かしてもらうな」
「寛大なお言葉、ありがとうございます。あ、それと、ご所望の品を出せずに申し訳ございません」
ご所望の品?あ、あれか。奥さんが食べたがっとった幻のデザートか。いや、他所で作ったらあかんやろ。皇城の幻のデザートなんやから。
「そんなん、またお邪魔した時でええし、気にせんといて」
「是非、うちに来てください!」
広末は、ぱっと愛嬌のある笑顔を見せた。美味しいもの食べさせてくれようとしてるんやな。料理人っぽい料理人やなあ。村次は、ちょっと疑わしいけど。
「殿下。控え目なメニューにしましたけど、これで大丈夫でしたか?」
「おう。広末の采配か。これがいい」
「いやあ、ここの料理長がね、夕食にもう一回大ご馳走を作ろうとしてたんで、慌てて止めたんです。いくらめでたい日でも、ご馳走ばっかり大量に出されたら腹がびっくりしちまいますよ」
「もう入らんって言ってる奴もいるしな」
九鬼の厨房の手柄やなかった……。まあ、そやな。九鬼より上って、殿下方皇族と皇国筆頭九家くらいのもんやし、上へのもてなしを張り切ってしまうのは仕方ない。
この料理人が成人殿下自慢の広末か。厨房に入り込んで殿下方のお食事に気を配ってたんやな。流石や。
緋色殿下の目線の先の成人殿下が、食事を眺めてうーん、と唸っている。
「なる坊。茶碗蒸しは食えるか?味噌汁は?だし巻き玉子一つならどうだ?」
「でも俺、お腹いっぱい……」
「そうかあ。生松先生、どうです?」
「味噌汁だけは飲みましょう、成人。液体だから入るところがきっとありますよ」
「……飲む」
「よし」
広末は、いい笑顔で成人殿下の前に汁物の碗だけ置いた。余りは部屋の隅にそっと置かれる。
……成人殿下の呼び方、色々やな。
「食うぞ」
緋色殿下の号令に、机の周りに座った者が一斉に手を合わせる。やっぱり皆で食べるんか。気付いてたけど驚きや。
「いただきます」
挨拶をして食事を始めてから、こんなに人がおったっけ?と首を傾げた。食事は人数分あるから、おったんやろうけども。
どっから出てきたんやろな……。
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