【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

108 魅力的な場所  鶴丸

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「風呂が済んだら俺の部屋へ来い。夕食はこちらに運ばせる」
「はいっ」

 どうしよ。正装はもう片付けてしもたやろな。明朝、朝食後すぐに経つと言うといたから。うちはそんなに人手を連れとらんし、もうほとんど荷物は纏めてしもてるやろ。片付けた正装を、もう一回出してもらわなあかんな。

「ああ。格好はそのままで構わん。ただの食事だ。俺たちはこのままだし、うちの者たちもその時着ている服のまま席に着く。お前らだけ正装していたらおかしいだろ」

 心の内を読んだかのように緋色ひいろ殿下が仰った。

「あ、はあ。しかし……」
「このくまと正装で並ぶ気か」

 緋色ひいろ殿下はふ、と笑われながら、腕の中の成人なるひと殿下に帽子を被せはった。んー?と言う成人なるひと殿下の背中を、ぽんぽんと叩いてあやされている。

「寝ないー」
「はいはい」

 ほんまにそのお洋服、成人なるひと殿下によう似合とって可愛らしい。

「ええわー、くま」
「ええよな、くま」

 奥さんがほっこり笑うので、すかさず同意した。

「製作者を連れてきている。欲しいなら聞いてみろ」

 製作者?くまの?

「是非お願いします」

 奥さんが勢い込んで答えた。衣装の担当者を連れてきはったんやな。こんなとこに連れてきはるような皇族専属衣装係が、このくまの服の製作者?ど、どんな人なんやろ……。ん?ていうか、うちの者たちも席に着くって言うた?
 夕食、連れの者も一緒に食べはるんやろか。緋色ひいろ殿下が?まさかなー。うちみたいな田舎の小国やあるまいし。

「ええっと、ほな、お言葉に甘えて、平服で……」
「そうしろ」

 流石に、今着とるような運動着でお邪魔する訳にはいかんから、ご提案通り風呂に入って汗を流そう。明日の朝着ようと思っとった、ちょっとかしこまった平服に着替えよう。
 それにしても。

「あの組手はいつまで続くんです?」
 
 こちらが和やかに話しとる間にも、ばしっ、ばしっと体と体がぶつかる音が響いている。

「ああ。あれはもう、手合わせに変わってる。すぐ終わるだろ」
「へ?」

 どんどん速くなる常陸丸ひたちまる力丸りきまるの組手に冷や汗が流れ始めとったけど、やっぱりか!組手いうには物騒やと思ってたところや。あ!力丸りきまるの蹴りが決まっ……。
 常陸丸ひたちまるは、後ろに飛んで勢いを消すのではなく、避けられない速さの蹴りへ体を自ら当てにいった。

「痛ってえ」

 ぶつかって押され、倒れた後叫んだのは力丸りきまるで。素早く起き上がってすぐに、参ったと両手を上げた。怪我は無いようやけど、足が痺れているんやろう。自慢の機動力が無ければ勝負にならん。
 ああ、強い。凄いな。
 あれより強いのも、緋色ひいろ殿下のとこにおる……。

「あれより強い……。会うてみたいな」
「うちに居るから、いつでも来てね」

 奥さんの呟きに、可愛いくまの魅力的なお誘い。その強いのも、殿下のにおるんかあ。部下って意味でうちって言うてるようには聞こえんし、家におるってことやんな?
 殿下方のおうちって、もしかして化け物屋敷なんちゃうかな……。
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