【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

103 新聞の中の人  鶴丸

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 前髪を右手で上げた力丸りきまるの額が、緋色ひいろ殿下の指に、ばちっと弾かれた。
 痛そうや……。

「痛ってー!痛い!」 

 あ、やっぱり?うずくまって頭を抱える力丸りきまるに、そっと心の中で同情する。凄い威力やった。そうやないかと思っとったけど、やっぱり緋色ひいろ殿下も強い。
 英雄、やもんな。長く続いとった帝国との戦争を、大将として行くなり終わらせた英雄。ものすごく恐ろしいお方やと聞いた。噂だけ。ただ、皆が知っていることを聞いた、それだけ。皇国一強い護衛と二人、戦場で、先頭に立って駆け回っていたのだと新聞は伝えていた。
 でも。

「痛くしてんだ、ばーか」

 恐ろしいとか、そういうんや、ない、ような……。
 同じく右手で前髪を上げて待ってはる成人なるひと殿下に、緋色ひいろ殿下がかがみ込む。成人なるひと殿下の頭に乗っていた力丸りきまるの手拭いを、ぽいと放り投げはった。緋色ひいろ殿下、成人なるひと殿下は今、立ち上がれんくらい疲れてはるから、ほどほどで勘弁してあげてください。
 そんな事を思って見とったら、緋色ひいろ殿下の顔が成人なるひと殿下の額に近付いていって、ちゅと唇を押し当てて離れていった。

「ん?」
「なんだ?」
「あれ?」
「終わったぞ」
「んんー?」

 なんや、それー!!
 思わず奥さんと顔を見合わせてしまう。
 なんやそれ!
 薄々思とったけど、緋色ひいろ殿下、成人なるひと殿下にむちゃくちゃ甘いな?

「ずりぃ。いっつもそれだ。分かってたけど。分かってたけど!」

 立ち上がって抗議した力丸りきまるの頭が、ぺしんと叩かれた。力丸りきまる緋色ひいろ殿下に抗議できるんかー。そうかー。つ、強いな?

「うるさい。さあ、心当たりとやらを全部吐け」
「えええ?何だろ。はしゃぎ過ぎて、成人なるひとが疲れすぎて立てない件?」
緋色ひいろ。俺、立てないくらい疲れちゃった。ごめんね」
力丸りきまる。後で常陸丸ひたちまると組手な」
「はああああ?もうおでこ出したのに?」
「俺は?俺は?俺ももう一回おでこ出す?」

 緋色ひいろ殿下は、成人なるひと殿下を軽々と抱え上げて、もう一度額に口づけを落とした。
 うん。……甘い。

「はい。次」
「はあ。……成人なるひとの、綺麗な上手な剣舞を俺が一人で見た、とか?」
「組手追加な」
「殿下!俺、関係なくないですか?」

 緋色ひいろ殿下と一緒に訓練所に来とった兵士が、抗議の声を上げた。
 気になっとったんよな。大きいのに静かな、強い男。顔を見たらすぐに誰か分かった。そっくりなんやもん。
 丸が一緒の常陸丸ひたちまる力丸りきまるの兄。緋色ひいろ殿下の護衛。つまり、皇国最強の男。

「あのー、すみません」

 奥さんが、そおっと手を挙げる。
 まさか。
 やめとき!
 あれも強くて怖いで!

「うち、約束してた手合わせがまだなんやけど、誰か相手してもろてもええですか?」

 うん。まあ、手加減してくれるやろ、たぶん。
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