【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

99 長生きの秘訣  成人

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「すごい!すごい!きれい!すごい!」

 ぱちぱちぱち、と右手で左の上腕を叩く。ちょっと痛い。でも、痛いのを我慢して拍手をたくさんしたいくらい、鶴丸つるまる松吉まつきちの剣舞はすごかった。俺の隣で力丸りきまるもぱちぱちと拍手しているし、いつの間にか集まっていたお城の兵士たちも、ぱちぱちしている。
 鶴丸つるまる松吉まつきちは、汗だくで息を弾ませながら顔を見合わせて笑い、綺麗にお辞儀をした。

「すげぇ。すげぇな、成人なるひと

 力丸りきまるが、俺の右手をそっと押さえて拍手を止めながら言った。あ、うん。あんまりやると、赤くなってしばらく痛いから、気を付けないといけないんだった。俺の拍手は、叩いてる時からちょっと痛い。手のひら同士で叩いてもそんなに痛くならないらしいから、拍手をしたい場面に出会うと、左手が欲しいってちょっと思う。仕方ないんだけどさ。ちょっとだけね。生きていると、欲しいものがどんどん増えて困る。緋色ひいろの側にいられたらそれだけで良かったのに、最近の俺は贅沢だ。
 それでいい、って緋色ひいろは言う。欲望は、生きる力になるからって。
 緋色ひいろが言うならそうなんだろう。緋色ひいろと一緒に長生きするために俺は、あれが欲しい、これが欲しいって言ったらいいみたいだ。どうしても叶えられない願いはあるけれど、つい思ってしまうそれを止める人は誰もいない。
 俺は、左手が欲しいぞー!

成人なるひと、どうした?」
「ん?なに?」
「いや……。鶴丸つるまるさまと松吉まつきちさま、すげぇな」
「うん、すげぇ。力丸りきまるできる?」

 俺は、力丸りきまるはできると思うんだよ。飛んだり跳ねたり回ったり、鶴丸つるまるより速く高くできるんじゃないかな?

「へ?俺?俺かあ。剣か」

 あっという間に息を整えて帰ってきた二人に、すごかった、と俺はまた言った。本当に、本当にすごかったから。ありがとうございます、と二人は楽しそうに笑った。
 少しでもずれたら当たりそうな距離で、それぞれが剣をひらひらと動かしながら舞うんだ。当たるか当たらないかすれすれの所で剣はすれ違い、二人の体はすれ違って、跳ねたり回ったりしゃがんだり、それはもう綺麗だった。二人の体がおんなじくらいの大きさだから、何をしてもぴったりで、それも綺麗。披露宴の時みたいに綺麗な着物を纏っている訳じゃないのに、ひらりと舞う着物が見えるみたいだった。今は動きやすい服だけれど、また、着物を着て舞うところも見てみたい。披露宴の時みたいに、音楽もあるといいな。

「俺もしてみたいなあ」
「あ、してみますか?」

 ぽたぽたと落ちてくる汗を、服の袖で拭いながら鶴丸つるまるが手の剣を差し出してくる。

「いいの?」 
「もちろん」

 大事な剣をそっと受け取ると、思っていたより重さがあって、うわとよろけてしまった。

「あ。これは、ちょっと重いやつやった」
「うちのもや。軽いんも持ってきてたな。取ってこよか」

 うーん。こんな重いのをあんなに軽々と振り回してたのか。すごいなあ。あ、だから、披露宴の時より汗だく?じゃあもっと速くできるってこと?すげー。

「すげぇ」

 よろけた俺を支えて戻してくれた力丸りきまるも、おんなじことを思ったみたい。松吉まつきちの剣を持たせてもらって、呟いている。
 あ、軽いのをわざわざ取りに行かなくてもいいよ。重いと思って持てば、持てないことはない。くるんくるんと回すのは、難しそうだけど。
 そう思いながら剣をぐぐっと持ち上げていると、力丸りきまるが簡単にくるんくるんと回し始めた。
 むう。
 俺も回したい。
 やっぱり軽いのいる。

「俺も回したい」

 って呟いたら、じいやがすぐに軽い剣を持って現れた。冷たい飲み物と手拭いも持っていて、鶴丸つるまる松吉まつきちがびっくりしながら受け取っていた。
 ふふ。驚かせてごめん。
 欲しいもの、言っちゃった。
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