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第八章 郷に入っては郷に従え
96 うちの者たちは 緋色
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「成人、まだ寝るな」
「んー」
宴会場から退出する際、特に抵抗されなかったので抱き上げて運んでいたら、うつらうつらと船を漕ぎ出した。
「トイレは?」
「行く」
トイレに寄り道して出てきた後も素直に腕の中に収まったから、余程疲れていたらしい。
「衣装を脱いでから寝ろ」
「んー」
「成人、美味しいご飯あったか?宴会、楽しかったか?」
「ん」
「駄目だ、こりゃ」
宴会場を出た直後、自然にななめ後ろに付いた力丸が、成人が寝ないようにと話しかけてくる。だが、成人からは、ん、ん、と返事なのか寝言なのか分からない言葉が返ってくるだけだ。
「くく」
夢うつつの様子も可愛くて、思わず笑いが零れた。睡魔に抵抗する気はあるのか無いのか、成人の一つだけの手が俺の服をぎゅうと掴んでいる。衣装が酷くしわになった事を祈里に謝るのは俺か?参ったな。
「ま、寝てても着替えさせることはできるし、寝かせといたらどうです?」
力丸と共に後ろに付いた常陸丸は、気楽な様子で言った。
そりゃまあ。
この小さな軽い体から衣装を脱がせて、寝やすい部屋着に着替えさせるくらい容易いものだが。
こうしてうつらうつらしてる時に話しかけて返ってくる夢うつつの返事がまた、可愛いんじゃないか。
どうせ、慣れない気配を感じるうちは成人は本当に深く眠ることはできないだろうし、部屋まではこの可愛さを堪能しよう。
「宴会、楽しかったっすか」
「ああ」
「なら良かったっす」
「おう」
一ノ瀬のことだ。つい先程の出来事であっても、この二人に手早く報告はできているだろう。何をどこまで、とか、そんなことはどうでもいい。宴会は楽しかったかと聞かれれば、楽しかった。それだけだ。
衣装室で待っていた祈里もまた、同じことを聞いてきた。
「宴会は、楽しかったですか?」
「ああ」
「それなら、良かったです」
「おう」
にこにこと笑う祈里もまたいつも通りで、成人の気に入りの部屋着を出して渡してくる。どいつもこいつも、俺のことを分かり過ぎてて腹が立つくらいだ。
……悪くない。
成人と自分の着替えを終え部屋に落ち着くと、生松がやって来た。
「おや。寝ましたか。うん、顔色は悪くない。味噌汁は飲んでましたか?」
俺の腕の中の成人を覗き込んで、生松は笑った。
「味噌汁はなかったな。色んなものを片っ端から味見していた」
「良いことです」
「お前も食べたか?」
「ええ、頂きました。美味しかったですよ」
「そうか」
お前の顔色も良いようで安心だな。成人が喜ぶ。
「宴会は、楽しかったですか?」
「ふっ」
思わず笑ってしまった。
お前もか。
「何か?」
「いや、楽しかったよ」
「それなら、良かったです」
ああ全く。どいつもこいつも。
「んー」
宴会場から退出する際、特に抵抗されなかったので抱き上げて運んでいたら、うつらうつらと船を漕ぎ出した。
「トイレは?」
「行く」
トイレに寄り道して出てきた後も素直に腕の中に収まったから、余程疲れていたらしい。
「衣装を脱いでから寝ろ」
「んー」
「成人、美味しいご飯あったか?宴会、楽しかったか?」
「ん」
「駄目だ、こりゃ」
宴会場を出た直後、自然にななめ後ろに付いた力丸が、成人が寝ないようにと話しかけてくる。だが、成人からは、ん、ん、と返事なのか寝言なのか分からない言葉が返ってくるだけだ。
「くく」
夢うつつの様子も可愛くて、思わず笑いが零れた。睡魔に抵抗する気はあるのか無いのか、成人の一つだけの手が俺の服をぎゅうと掴んでいる。衣装が酷くしわになった事を祈里に謝るのは俺か?参ったな。
「ま、寝てても着替えさせることはできるし、寝かせといたらどうです?」
力丸と共に後ろに付いた常陸丸は、気楽な様子で言った。
そりゃまあ。
この小さな軽い体から衣装を脱がせて、寝やすい部屋着に着替えさせるくらい容易いものだが。
こうしてうつらうつらしてる時に話しかけて返ってくる夢うつつの返事がまた、可愛いんじゃないか。
どうせ、慣れない気配を感じるうちは成人は本当に深く眠ることはできないだろうし、部屋まではこの可愛さを堪能しよう。
「宴会、楽しかったっすか」
「ああ」
「なら良かったっす」
「おう」
一ノ瀬のことだ。つい先程の出来事であっても、この二人に手早く報告はできているだろう。何をどこまで、とか、そんなことはどうでもいい。宴会は楽しかったかと聞かれれば、楽しかった。それだけだ。
衣装室で待っていた祈里もまた、同じことを聞いてきた。
「宴会は、楽しかったですか?」
「ああ」
「それなら、良かったです」
「おう」
にこにこと笑う祈里もまたいつも通りで、成人の気に入りの部屋着を出して渡してくる。どいつもこいつも、俺のことを分かり過ぎてて腹が立つくらいだ。
……悪くない。
成人と自分の着替えを終え部屋に落ち着くと、生松がやって来た。
「おや。寝ましたか。うん、顔色は悪くない。味噌汁は飲んでましたか?」
俺の腕の中の成人を覗き込んで、生松は笑った。
「味噌汁はなかったな。色んなものを片っ端から味見していた」
「良いことです」
「お前も食べたか?」
「ええ、頂きました。美味しかったですよ」
「そうか」
お前の顔色も良いようで安心だな。成人が喜ぶ。
「宴会は、楽しかったですか?」
「ふっ」
思わず笑ってしまった。
お前もか。
「何か?」
「いや、楽しかったよ」
「それなら、良かったです」
ああ全く。どいつもこいつも。
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