【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

94 罰を与えるのは難しい  成人

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「さて、なんでだろうな」

 やっぱり?緋色ひいろも分からない?
 だって、髪の毛を切ることが首を切ることの一つ下くらいの罰なら、かなり重い罰だ。死ぬことの一つ下なんだもの。わざわざそんな重い罰を自分から望むなんて、びっくり。もっと軽い罰でいいよって俺も緋色ひいろも言っているのに。
 もしかして、髪の毛を切ってもそんなに困らないって気付いたのかな。だって、髪の毛はまた伸びる。俺とさいは、頭の手術した時に髪の毛を一度全部剃ったけど、今は二人ともちゃんと生えている。伸びすぎると邪魔だから、髪の毛を切る職人さんが毎月切ってくれているんだよ。離宮うちに来る職人さんが切るのは、俺と緋色ひいろの髪の毛だけ。皇族専用の職人さんだからなんだって。他の人は、髪の毛を切るお店に自分で行って切ってもらってる、って言ってた。壱臣いちおみ半助はんすけは、商店街にできた髪の香油のお店でお手入れしてもらっている。最近は、乙羽おとわもそこに行ってるんだって。大人気で、予約取るのが大変なのよー、って言ってた。どんなことをするんだろう。うちの職人さんと、またちょっと違うのかな。俺も一回行ってみたいなあ。
 まあ、だからさ。髪の毛は、よほどじゃない限り元に戻る。ほっといたら、どんどん長くなる。壱臣いちおみみたいに頭の皮膚が傷付いていたら、傷の付いた所からは生えてこなくなることもあるけれど、髪の毛を切っただけなら時間をかけたら元に戻るんだ。
 でも、腕は戻らない。目も。……戻らないよ。
 それでも、そちらを差し出した方がましだ、って言うのならそうしたらいいと俺は思ったんだけど。

「髪でいいの?腕や目でなく?」
「ひぃっ。ひいぃ」

 最後にもう一度聞いてみたけれど、鼓与ことの肩から下ろされた杜若かきつばたは、震えるばかりでちゃんと返事をしない。

「決まったなら、切れ」
「はい」

 鼓与ことは速い。あっという間に、杜若かきつばたの頭のてっぺん辺りで結ってあった、長い長い、本当に長い髪をすっぱりと切った。切りやすい所で切ったから、ぱさりと綺麗に落ちた残りの髪は、隣に座る七宝しちほうより短くなっていた。あんなに腰まで長く伸びていた髪の毛が無くなったら、頭がものすごく軽くなったんじゃないかなあ。

「あああああああ!」

 叫んだ杜若かきつばたの隣で七宝しちほうも大きく目を見開いて、また動かなくなった。やっぱり腕にすれば良かったとか、思ってるのかな?

「うーん」
「どうした?」
杜若かきつばたが髪なら、七宝しちほうは髪だけじゃ足りないのかな?」
「なるほど」

 緋色ひいろは、偉い偉いと笑って頭を撫でてくれたけれど、じゃあどうしたらいいか思いつかなくて、うんうん唸ってしまった。
 罰を与えるのは難しい。
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