【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

83 色付きの花嫁衣装もいい!  成人

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「わあ、綺麗!橙々だいだい、素敵!」

 着替えてきた橙々だいだいの着物が、すごくすごく綺麗で、俺は大きな声で言ってしまった。皆が、しんとしていたから、声は部屋中に響いた。あ、しまった、と思って緋色ひいろを見たら、笑ってたから大丈夫だったみたいだ。良かった。

「うん、いいな」

 緋色ひいろも言って、周りの人もざわざわと話し始める。上掛けの着物を、綺麗な柄の着物に変えたんだね。似合うよ。本当に綺麗だよ。白い衣装より軽そうで、良かった。衣装部の人、凄い。祈里いのり涼乃絵すずのえみたいな人が、九鬼のお城にもたくさんいるんだな、きっと。よく考えたなあ。綺麗な柄の着物でも、ちゃんと花嫁のままだ。素敵。
 そして弐角にかくは……。何にも変わってなかった。ええー。二人とも着替えて来いって、緋色ひいろ言ってたのにー。
 あ?うん?違う。そのまんまじゃなかった。襟の色だ。襟の色が変わってる。白じゃなく橙色だいだいいろになっている。
 ふふ。凄い。面白い。だいだい色だよ。だいだいの色だ!俺が、緋色ひいろの指輪をつけるみたいに、弐角にかく橙々だいだいの色をつけたんだ。

「ふふ。ふふふふ」
「ん?なんだ?」
弐角にかくのここ」
「ん?」

 俺が自分の襟のとこを指差すと、緋色ひいろ弐角にかくに目を戻してから、にやって笑った。

「はは。やるな」

 うんうん。俺も言っとく。

「やるな」

 元の通りの、皆からよく見える席に座った二人の前に、それぞれの席から立ち上がった女の人たちが一斉にやって来た。松吉まつきちは、にこにこ笑って座ったままだったけど。

橙々だいだいさま。なんて素敵なお着物ですやろ。いつの間にこんな素晴らしいのを準備してはったんです?」
「花嫁は白や言うて、白しか着られへんかったけど、こんなんあったらうちも着たかったわあ」
「ほんまや。折角のハレの日なんやもん。こんな華やかなんも着たかったあ」

 おおお。すごい。さっきから、挨拶は男の人ばっかり来てたから、女の人は立ち上がったら駄目なのかと思ってた。駄目な訳じゃなくて、順番だったのかな?一緒に来てる人同士で一緒に挨拶に来たら、誰と誰が家族か分かりやすいのに。

「うちはお式は今からやから、こんなんしたいです。この織り物、ほんまに素敵」
「ありがとう。うちの領地の伝統工芸の織り物を使用して仕立てた着物でな。作れる人が限られとってかなり手間がかかるから、少々値が張るんや」

 橙々だいだいは、だいぶ元気になったみたいだ。良かった。褒められて、にこにこで答えている。

「けど、一生に一回のことやから、うちは今、着られて嬉しいで。工房を紹介するさかい、おねだり頑張ってな」
「はい」

 なんか凄い、と女の人たちの集団を見ていたら、鼓与ことがすすっと近付いてきた。

緋色ひいろ殿下。祈里いのりさんから伝言です」
「おう」
「自分のこの出張の給料は無くても構わない、と」
「へえ?」
「自分の出張費など微々たるものですが、少しでも着物代を還元したいそうです」
 
 ぶはっと緋色ひいろは笑った。

「そんなに高かったか」
「目の玉が本当に飛び出るかと思ったそうです」
「は、ははははは」

 緋色ひいろは、大笑いしてお酒を飲んだ。それ、そんなに美味しい?もう一回舐めてみようかな?

「こら、成人なるひと。酒は駄目だ。ジュースもらえ、ジュース」

 ちえ、残念。

鼓与こと祈里いのりに伝えろ。特別手当だ、あの織り物一反買ってやるってな」
「畏まりました」

 ん?祈里いのりが気にかけてた織り物、買ってもらえるの?
 わ、良かったね、祈里いのり
 緋色ひいろはやっぱり、とても優しい。
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