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第八章 郷に入っては郷に従え
80 青天の霹靂 祈里
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「失礼しますよ」
白衣の人間が三人、衣装部屋に入ってきた。御典医と、生松先生だ。
「若。珍しいことになっとりますね」
白い髭のおじいさん。物語に出てくるおじいさんってこんな感じ、って思うようなおじいさんの医師が言った。
「くそじじい共。俺の近くに、酒をかなり水で薄めてある徳利が置いてあるのを知っとって、自分の席の徳利を持って来やがる」
「ははあ、そりゃまた。酒豪の若にも、なかなか大変な状況でしたな」
おじいさんは、ちょっと笑いながら弐角さまの診察をして、水でも飲んどき、と言った。酒豪と言われる人があんな状態になるなんて、結構飲まされたんだなあ。
「味噌汁がいいんじゃないですか」
「ああ。それがええな」
生松先生は、味噌汁はたくさん栄養が取れるから、あまり食事が入りそうにない時はとりあえず味噌汁を飲みなさい、って成人さまに教えていらっしゃるらしい。私もよく成人さまに言われる。味噌汁を飲むんだよって。ほかの国に来てもブレませんね、生松先生。
「姫様も飲まされましたんか?」
「うちは少しだけ。角兄さまが、うちの分も引き受けてくれたさかい」
「若様、格好ええやないですか」
「そやろ?」
話している間に、味噌汁と水、茶碗蒸しを乗せた膳が運ばれてくる。
「着物脱いだら、ひと息吐けたわ。衣装が重いし、何も食べる暇ない上にあんまり飲んだことない酒を飲まされて、気分悪うなってしもてな。成人殿下のお陰で、一回下がらせてもらえて、ほんまによかったわ」
「成人さまが?」
橙々さまの言葉に思わず反応すれば、生松先生もおや、と顔を上げている。
「お酒の飲み過ぎはあかん、て俺の盃を取り上げてくれはった。ほんで、橙々には、衣装が重うてしんどいやろから、着替えてきたらどやって言うてくれて」
「そりゃあ、助かりましたなあ」
「ほんまに」
「ほんまです」
弐角さまは衣装をくつろげて、橙々さまには、一旦白無垢を脱いで頂いた。衣装部長が襦袢の上に、とりあえず軽い着物を着付けて差し上げている。衣装部屋だから、衣装はたくさんあった。その姿で味噌汁を口にされると、ふうっと息を吐いてだいぶ楽になられたようだった。
良かった。
良かったけど、何だか、さっきのお話の中に、聞き逃せない言葉が、あった、ような……?
お城の衣装部の方々も、ほっとして食事に戻りかけて、んん?と首を傾げている。
「あの、若様?」
衣装部長が、恐る恐る弐角さまに尋ねる。
「さっきの、もう一回言うてください。どう言うて、場を引かれたって言わはりました?」
「ん?成人さまが、俺の盃を取り上げてくれはったから助かったって」
「その後、その後です」
「橙々の衣装が重いんやろから、着替えてきたらどやって言うてくださって」
どや、なんて成人さまは言わない、ってそうじゃなくて。
「き、着替え?」
幾つもの、ひっくり返った声が部屋に響く。私も、声に出た。
着替え?着替えって何?
結婚披露宴の時の女の人の、白無垢以外の衣装って?え?
「緋色殿下も、二人で着替えてこいって言うてくれはって」
で、で、で、殿下ー?!
白衣の人間が三人、衣装部屋に入ってきた。御典医と、生松先生だ。
「若。珍しいことになっとりますね」
白い髭のおじいさん。物語に出てくるおじいさんってこんな感じ、って思うようなおじいさんの医師が言った。
「くそじじい共。俺の近くに、酒をかなり水で薄めてある徳利が置いてあるのを知っとって、自分の席の徳利を持って来やがる」
「ははあ、そりゃまた。酒豪の若にも、なかなか大変な状況でしたな」
おじいさんは、ちょっと笑いながら弐角さまの診察をして、水でも飲んどき、と言った。酒豪と言われる人があんな状態になるなんて、結構飲まされたんだなあ。
「味噌汁がいいんじゃないですか」
「ああ。それがええな」
生松先生は、味噌汁はたくさん栄養が取れるから、あまり食事が入りそうにない時はとりあえず味噌汁を飲みなさい、って成人さまに教えていらっしゃるらしい。私もよく成人さまに言われる。味噌汁を飲むんだよって。ほかの国に来てもブレませんね、生松先生。
「姫様も飲まされましたんか?」
「うちは少しだけ。角兄さまが、うちの分も引き受けてくれたさかい」
「若様、格好ええやないですか」
「そやろ?」
話している間に、味噌汁と水、茶碗蒸しを乗せた膳が運ばれてくる。
「着物脱いだら、ひと息吐けたわ。衣装が重いし、何も食べる暇ない上にあんまり飲んだことない酒を飲まされて、気分悪うなってしもてな。成人殿下のお陰で、一回下がらせてもらえて、ほんまによかったわ」
「成人さまが?」
橙々さまの言葉に思わず反応すれば、生松先生もおや、と顔を上げている。
「お酒の飲み過ぎはあかん、て俺の盃を取り上げてくれはった。ほんで、橙々には、衣装が重うてしんどいやろから、着替えてきたらどやって言うてくれて」
「そりゃあ、助かりましたなあ」
「ほんまに」
「ほんまです」
弐角さまは衣装をくつろげて、橙々さまには、一旦白無垢を脱いで頂いた。衣装部長が襦袢の上に、とりあえず軽い着物を着付けて差し上げている。衣装部屋だから、衣装はたくさんあった。その姿で味噌汁を口にされると、ふうっと息を吐いてだいぶ楽になられたようだった。
良かった。
良かったけど、何だか、さっきのお話の中に、聞き逃せない言葉が、あった、ような……?
お城の衣装部の方々も、ほっとして食事に戻りかけて、んん?と首を傾げている。
「あの、若様?」
衣装部長が、恐る恐る弐角さまに尋ねる。
「さっきの、もう一回言うてください。どう言うて、場を引かれたって言わはりました?」
「ん?成人さまが、俺の盃を取り上げてくれはったから助かったって」
「その後、その後です」
「橙々の衣装が重いんやろから、着替えてきたらどやって言うてくださって」
どや、なんて成人さまは言わない、ってそうじゃなくて。
「き、着替え?」
幾つもの、ひっくり返った声が部屋に響く。私も、声に出た。
着替え?着替えって何?
結婚披露宴の時の女の人の、白無垢以外の衣装って?え?
「緋色殿下も、二人で着替えてこいって言うてくれはって」
で、で、で、殿下ー?!
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