【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

54 お出迎え  成人

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 お城の門の前には、着物で正装をした九鬼くきの人たちがずらりと並んで待っていた。車を脇に停めて降りると、一斉に包拳礼をして跪く。
 ああ、着物が汚れちゃう。
 でも、誰も気にしていないみたいだった。包拳礼をして跪いた人たちは、その姿勢で俺たちが目の前まで歩くのを待っている。車から降りた緋色ひいろは、これが当たり前って顔で歩く。俺たちのななめ前に立って歩く常陸丸ひたちまる力丸りきまるも、当たり前って顔をしている。
 さっきまで、わあわあと聞こえていたお出迎えの人たちの声も止んで、俺たちの歩く音だけが聞こえていた。
 先頭でお出迎えをしてくれる人の側まで歩くと、常陸丸ひたちまる力丸りきまるが少し威圧を込めて、ぐるりと辺りを見渡した。それから二人で頷き合って、俺と緋色ひいろの斜め後ろに下がる。
 俺たちの後ろに、一緒に来た人たちが歩いてきて止まる気配がする。こちらも皆正装だから、きっと格好良いだろう。九鬼くきの人たちの揃った着物姿も格好良いけど、うちも今日は格好良い。
 あ、そうか。
 だから今日は、皆正装なのか。
 緋見呼ひみこさまは言っていた。緋色ひいろの格好良い姿を見せびらかしておいで、って。周りも格好良いと、緋色ひいろの格好良さはもっとすごく格好良くなる。すごい!
 ふふ。嬉しい。

「出迎え、ご苦労」

 緋色ひいろが言うと、一番前で跪いて頭を下げていた壱鷹いちたかが、そのまま口を開く。

「西国を預かります九鬼くき壱鷹いちたかが、緋色ひいろ殿下にご挨拶申し上げます。此度は、我が子、弐角にかくの婚儀にわざわざ足をお運びくださり、至極光栄にございます。婚儀のため、何かと忙しい様子をお見せすることになるかと思いますが、妃殿下共々お心安くお過ごしできるよう、心を砕く所存にございます。お寛ぎ頂ければ幸いです」
「ああ、世話になる。面を上げよ」

 緋色ひいろの言葉に、一斉に頭が上がった。うーん、すごい。皆、形は包拳礼のままだし、跪いたままだ。緋色ひいろが、もういいって言ってないからか。まだ、面を上げよ、だけだから。うーん。前にも思ったけど、難しいな。

「こちらへ寄せてもらうのは初めてではない。弐角にかくとは、気安い仲だ。何も心配しておらん。友を寿ことほげること、非常に嬉しく思う」

 少しだけ、ざわざわ……とした。今まで静かにしていたお出迎えの人たちが、思わず何かの声を出して、それがたくさんだった時の静かな音。

九鬼くき弐角にかくが、緋色ひいろ殿下にご挨拶申し上げます。此度は、わざわざ足をお運びくださり、ありがとうございます」

 弐角にかくは、一回そこで言葉を切って、緋色ひいろをしっかりと見てから、にっと笑った。いつもの顔だった。

緋色ひいろ殿下と成人なるひと殿下がお祝いに来てくださって、とても嬉しいです」
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