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第八章 郷に入っては郷に従え
51 二日遅れのお手紙 成人
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「こんにちはー」
ちょっと申し訳なくて、静かに戸を叩く。
「はい?」
矢渡の声だ。良かったあ。
「矢渡ー。俺」
「成人さま?こんにちは」
戸が開いて、矢渡がぺこりと頭を下げる。
「毎日ごめんね。あのさ、俺さあ。昨日、じゃなくて昨日の前の、その、一昨日に、あ、でも、昨日に間違えてて」
ん?あれ?ええと、何だっけ?
開いた戸の向こうで、矢渡が首を傾げている。
「…………」
「…………」
「成人さま。まずはあれを渡してしまえばいいのでは?」
二人で顔を見合わせていたら、半助が言った。
あ、そう。そうだね。もう忘れないように、間違えないように、渡してしまおう。
「はい、これ。お手紙」
「お手紙、ですか?」
「うん、そう」
鞄から紙を取り出して矢渡に渡す。俺さ、一昨日、手紙の配達人だったんだよね。わくわくして届けにきたのに、渡せずに帰ってきちゃった。なんか色々あって、すっかり忘れてた。
それから、昨日帰る時に鞄の中にお手紙みつけて、あ、そうだったと思って出して、でも、八代に渡して帰っちゃった。違ったの。間違ったの。あれ、矢渡に渡すお手紙だったんだよ。
夜に思い出して、どうしよどうしよって思ったけど、夜にお出かけできないし、朝も、お仕事もお勉強もあるし、お昼ご飯食べてからやっと来られた。
朝のお仕事の時間に、もう行ってこい、って緋色にも広末にも言われたんだけど、お仕事休むのは嫌だった。お勉強も絶対したい。青葉が来てくれる時間は決まってるしね。落ち着かなかったけど、お昼ご飯もちゃんと全部食べてきたから。うん。
手紙はもう一回書いてくれた。広末と壱臣に言ったら、すぐにもう一回書いてくれたから大丈夫。昨日、俺が間違えて八代に渡したのと一緒だって。
「合格……」
「ふふっ」
その紙には、大きく合格って書いてあった。合格が二つ。ん、三つ?あ、村次も小さく書いてる。あれ?今日三人とも、厨房にいたな。お休みは誰なんだろ。
「あの。これは?」
「あのねえ。矢渡の作っただし巻き玉子」
「はい」
「皆で食べたの。味見」
皆で少しずつ食べた。美味しかったよ。
矢渡の目が、大きく開かれた。ぱち、ぱちと何度かまたたく。
「そしたらね。広末が、これを矢渡に渡してきてって言ってさ。壱臣も」
「合格……」
「うん、合格」
合格は、上手にできたってこと。矢渡のだし巻き玉子は、合格。
矢渡の目に、涙が浮かんできた。え?あれ?
あ、あれか。嬉しい時の涙、だよね?
「矢渡さん?誰か来られた……。あ、成人殿下」
「え?成人殿下?」
昨日も一昨日も、矢渡と一緒にいた二人だ。
「こんにちは。礼はもういいよ」
包拳礼をしてくれたから、すぐに受け取ったって言っておく。
「あの、入られますか?」
「んーん。俺、今日はお手紙だけ」
急いでたから、それだけ。
「それは残念です」
「そう?また、おやつ持ってくる?」
「はい。是非よろしくお願いします」
二人は、勢いよく頭を下げた。おおう。そんなに?今度は、持ってくるね。
「あ、これ」
頭を上げた一人が、矢渡の手紙を見て言う。
「料理長の机に貼ってあったのと同じだ」
「あ、本当だ」
間違えて渡したお手紙?八代は机に貼ってるの?
「矢渡さんも貰ったんだ。いいなあ」
「これ、どうしたら貰えるんですか?」
「んー?合格したら?」
八代に渡したのも、そのままでいいか。うん。きっと八代は、色々合格してる気がする。
「合格したら、ですか。よし。まずはあのだし巻き玉子を作れるようにならないといけませんね」
「成人殿下。私たちも、順番に離宮に研修に行かせてもらえる事になったんです。合格がもらえるように頑張ります」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「うん。よろしくお願いします」
俺は、合格のお手紙を届けるだけなんだけどさ。嬉しいお手紙は、何回でも届けに来るから任せて。
「成人さま。これからも、精進します、と師匠に、お伝えください」
矢渡が、喉をひくひくさせながら言った。
「うん!」
お手紙、ちゃんと届けれて良かった!
ちょっと申し訳なくて、静かに戸を叩く。
「はい?」
矢渡の声だ。良かったあ。
「矢渡ー。俺」
「成人さま?こんにちは」
戸が開いて、矢渡がぺこりと頭を下げる。
「毎日ごめんね。あのさ、俺さあ。昨日、じゃなくて昨日の前の、その、一昨日に、あ、でも、昨日に間違えてて」
ん?あれ?ええと、何だっけ?
開いた戸の向こうで、矢渡が首を傾げている。
「…………」
「…………」
「成人さま。まずはあれを渡してしまえばいいのでは?」
二人で顔を見合わせていたら、半助が言った。
あ、そう。そうだね。もう忘れないように、間違えないように、渡してしまおう。
「はい、これ。お手紙」
「お手紙、ですか?」
「うん、そう」
鞄から紙を取り出して矢渡に渡す。俺さ、一昨日、手紙の配達人だったんだよね。わくわくして届けにきたのに、渡せずに帰ってきちゃった。なんか色々あって、すっかり忘れてた。
それから、昨日帰る時に鞄の中にお手紙みつけて、あ、そうだったと思って出して、でも、八代に渡して帰っちゃった。違ったの。間違ったの。あれ、矢渡に渡すお手紙だったんだよ。
夜に思い出して、どうしよどうしよって思ったけど、夜にお出かけできないし、朝も、お仕事もお勉強もあるし、お昼ご飯食べてからやっと来られた。
朝のお仕事の時間に、もう行ってこい、って緋色にも広末にも言われたんだけど、お仕事休むのは嫌だった。お勉強も絶対したい。青葉が来てくれる時間は決まってるしね。落ち着かなかったけど、お昼ご飯もちゃんと全部食べてきたから。うん。
手紙はもう一回書いてくれた。広末と壱臣に言ったら、すぐにもう一回書いてくれたから大丈夫。昨日、俺が間違えて八代に渡したのと一緒だって。
「合格……」
「ふふっ」
その紙には、大きく合格って書いてあった。合格が二つ。ん、三つ?あ、村次も小さく書いてる。あれ?今日三人とも、厨房にいたな。お休みは誰なんだろ。
「あの。これは?」
「あのねえ。矢渡の作っただし巻き玉子」
「はい」
「皆で食べたの。味見」
皆で少しずつ食べた。美味しかったよ。
矢渡の目が、大きく開かれた。ぱち、ぱちと何度かまたたく。
「そしたらね。広末が、これを矢渡に渡してきてって言ってさ。壱臣も」
「合格……」
「うん、合格」
合格は、上手にできたってこと。矢渡のだし巻き玉子は、合格。
矢渡の目に、涙が浮かんできた。え?あれ?
あ、あれか。嬉しい時の涙、だよね?
「矢渡さん?誰か来られた……。あ、成人殿下」
「え?成人殿下?」
昨日も一昨日も、矢渡と一緒にいた二人だ。
「こんにちは。礼はもういいよ」
包拳礼をしてくれたから、すぐに受け取ったって言っておく。
「あの、入られますか?」
「んーん。俺、今日はお手紙だけ」
急いでたから、それだけ。
「それは残念です」
「そう?また、おやつ持ってくる?」
「はい。是非よろしくお願いします」
二人は、勢いよく頭を下げた。おおう。そんなに?今度は、持ってくるね。
「あ、これ」
頭を上げた一人が、矢渡の手紙を見て言う。
「料理長の机に貼ってあったのと同じだ」
「あ、本当だ」
間違えて渡したお手紙?八代は机に貼ってるの?
「矢渡さんも貰ったんだ。いいなあ」
「これ、どうしたら貰えるんですか?」
「んー?合格したら?」
八代に渡したのも、そのままでいいか。うん。きっと八代は、色々合格してる気がする。
「合格したら、ですか。よし。まずはあのだし巻き玉子を作れるようにならないといけませんね」
「成人殿下。私たちも、順番に離宮に研修に行かせてもらえる事になったんです。合格がもらえるように頑張ります」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「うん。よろしくお願いします」
俺は、合格のお手紙を届けるだけなんだけどさ。嬉しいお手紙は、何回でも届けに来るから任せて。
「成人さま。これからも、精進します、と師匠に、お伝えください」
矢渡が、喉をひくひくさせながら言った。
「うん!」
お手紙、ちゃんと届けれて良かった!
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