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第八章 郷に入っては郷に従え
33 楽しく料理がしたい 広末
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「矢渡さんは、とても優秀な料理人ですよ。そうやって、頭を押さえつけるような育て方は向かねえ。まあ、誰にでも、いきなり怒鳴りつけるようなやり方はよろしくねえです」
おお。すんごい顔で睨まれた。どうにも俺は、お貴族様の料理人に受けが悪い。何を言っても、言わなくても睨まれちまう。言わなくても睨まれるなら、言いたいことは言っておこうか、と最近は思っている。
昔はな。二条家にいた頃は口を開けば命が危なかったから、とにかく頭を下げて急所に力を込めて、暴力で致命傷を受けないようにとそればっかり気にしてたけど。
何か、色々あったよなあ。名字無しの、似たような環境の人間が住む辺りの食堂に働きに出て、店長が好きにさせてくれるもんで、楽しく色んなもん作ってたら評判になって……。評判になり過ぎて、お貴族様に拐われちまったってんだから、どんな読み物の主人公なんだって話だ。
二条家に拐われてから、家に連絡することもできなかった。生き残ることに精一杯。家族は、俺はもうこの世にゃいねえと諦めてたもんな。泉門院家に、姫様や斑鹿乃、吉野さんと寄せてもらえた後で、一回家に帰らせてもらった時、お化けでも見たかのように悲鳴を上げられた。ひでえよな。ま、そのあと皆で抱き合って大泣きしたんだが。
その後はまあ、楽しいばかりの日々だ。うん。たまあに、何でこうなったかなぁって思うこともない訳じゃねえが、姫様は元気だし、嫁と子どもは可愛いし、言うことねえ。
こうして、お貴族様ご身分の料理人やらに絡まれた所で、へりくだる必要もなくなった。何せ今では俺にも名字はあるんだし、上司は必ず俺を守ってくれるしな!緋色殿下は、俺の知る限り最高の上司だ。やりたい事をやらせてくれて、上手くいったら褒めてくれて、何か困ったことがあったら絶対助けてくれる。なる坊の食べられるもんを作るって任務も、やり甲斐しかねえ!楽しくて仕方ねえなあ!
「貴様……。平民風情が、無礼な口を」
ぎりぎりと歯噛みされても困る。俺だって、それなりに礼儀は弁えてるよ?殿下もなる坊も、離宮の皆様は、皆優しいから無礼だっていちいち言動を咎められたりしねえけど、俺が上司に相応しい人間になりたいんだから、自然と背筋は伸びるよな。人間、そんなもんだ。尊敬できる相手に出会ったら、礼儀なんて自然とついてくる。できる範囲で礼は尽くしてるつもりだ。
「身分を持ち出すなら、俺の方が上じゃねえかな。これでも、緋色殿下の住まいの厨房を任された料理長なんだが。ご存知ねえですか?」
知らねえ訳ねえよな?離宮の仲間の、合同結婚式からの披露宴を城で開催したのは、ついこの間だ。あん時、ここの厨房と料理人の手を借りたんだから、全体の責任者として指示してた俺を知らねえ訳ねえだろ?
ああ。それとも、あれか。
絶対に手伝いたくないって参加しなかった何人かの料理人のうちの一人、いや二人があんたらか。
いや、参加してなくても知らねえ訳ねえなあ。矢渡さんともう一人、安次嶺さんが離宮に研修に来てたんだから、来ない人もそん時に、研修先の責任者の名前くらい聞くだろう?平民、平民って言ってるってことは、俺のことをよくよく知ってるってことだよな。
参ったな。
せっかく同じ、美味しい料理が作りたいって志を持った料理人仲間なんだからさ、仲良く料理できたらいいのに。
おお。すんごい顔で睨まれた。どうにも俺は、お貴族様の料理人に受けが悪い。何を言っても、言わなくても睨まれちまう。言わなくても睨まれるなら、言いたいことは言っておこうか、と最近は思っている。
昔はな。二条家にいた頃は口を開けば命が危なかったから、とにかく頭を下げて急所に力を込めて、暴力で致命傷を受けないようにとそればっかり気にしてたけど。
何か、色々あったよなあ。名字無しの、似たような環境の人間が住む辺りの食堂に働きに出て、店長が好きにさせてくれるもんで、楽しく色んなもん作ってたら評判になって……。評判になり過ぎて、お貴族様に拐われちまったってんだから、どんな読み物の主人公なんだって話だ。
二条家に拐われてから、家に連絡することもできなかった。生き残ることに精一杯。家族は、俺はもうこの世にゃいねえと諦めてたもんな。泉門院家に、姫様や斑鹿乃、吉野さんと寄せてもらえた後で、一回家に帰らせてもらった時、お化けでも見たかのように悲鳴を上げられた。ひでえよな。ま、そのあと皆で抱き合って大泣きしたんだが。
その後はまあ、楽しいばかりの日々だ。うん。たまあに、何でこうなったかなぁって思うこともない訳じゃねえが、姫様は元気だし、嫁と子どもは可愛いし、言うことねえ。
こうして、お貴族様ご身分の料理人やらに絡まれた所で、へりくだる必要もなくなった。何せ今では俺にも名字はあるんだし、上司は必ず俺を守ってくれるしな!緋色殿下は、俺の知る限り最高の上司だ。やりたい事をやらせてくれて、上手くいったら褒めてくれて、何か困ったことがあったら絶対助けてくれる。なる坊の食べられるもんを作るって任務も、やり甲斐しかねえ!楽しくて仕方ねえなあ!
「貴様……。平民風情が、無礼な口を」
ぎりぎりと歯噛みされても困る。俺だって、それなりに礼儀は弁えてるよ?殿下もなる坊も、離宮の皆様は、皆優しいから無礼だっていちいち言動を咎められたりしねえけど、俺が上司に相応しい人間になりたいんだから、自然と背筋は伸びるよな。人間、そんなもんだ。尊敬できる相手に出会ったら、礼儀なんて自然とついてくる。できる範囲で礼は尽くしてるつもりだ。
「身分を持ち出すなら、俺の方が上じゃねえかな。これでも、緋色殿下の住まいの厨房を任された料理長なんだが。ご存知ねえですか?」
知らねえ訳ねえよな?離宮の仲間の、合同結婚式からの披露宴を城で開催したのは、ついこの間だ。あん時、ここの厨房と料理人の手を借りたんだから、全体の責任者として指示してた俺を知らねえ訳ねえだろ?
ああ。それとも、あれか。
絶対に手伝いたくないって参加しなかった何人かの料理人のうちの一人、いや二人があんたらか。
いや、参加してなくても知らねえ訳ねえなあ。矢渡さんともう一人、安次嶺さんが離宮に研修に来てたんだから、来ない人もそん時に、研修先の責任者の名前くらい聞くだろう?平民、平民って言ってるってことは、俺のことをよくよく知ってるってことだよな。
参ったな。
せっかく同じ、美味しい料理が作りたいって志を持った料理人仲間なんだからさ、仲良く料理できたらいいのに。
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